がん治療中でも使いやすい「バッグ」を開発

がん体験者の悩みを解決する 「モノづくり」を社会に生かす!

取材・文●町口 充
発行:2014年1月
更新:2014年4月

  

キャンサー・ソリューションズ
代表取締役の桜井なおみさん

乳がん体験者に日常生活で困っていることを聞いたら、返ってきたのは「バッグやリュックが使いづらい」という答えでした。バッグ1つにも問題を抱えているがん患者の現実。「小さなことでも解決していかないと、がんサバイバーが安心して暮らす社会はつくれない」と動き出した結果は――。

キャンサー・ソリューションズ株式会社
代表取締役 桜井なおみ

所在地
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町2-9
大新ビル4階 プラットフォームアネックス10-401
TEL.03-5577-6440
E-mail:info@cansol.jp
http://cansol.jp/

乳がん患者の困りごと 上位は?

「がん体験を社会に活かす」ことを目的に設立した社会貢献型の会社がキャンサー・ソリューションズ(CANSOL)です。

「2人に1人はがんになる時代。にもかかわらず、一度がんになると生への不安を抱えるだけでなく、治療を続けながら働き続けるのには困難が伴うし、がん患者への社会の偏見もいまだに多い。すぐにでも解決してもらわなければ困る問題が山積しているけれど、行政や企業が変わるのを待っていては遅い。“当事者が切り開かなければ何も変わらない”とスタートしたのがCANSOLです」

このように語るのは同社代表取締役の桜井なおみさんです。

桜井さん自身、2014年に乳がんが見つかり全摘出手術を受け、勤めていた会社を辞めざるを得なくなった経験をもっています。

同社は、がん患者が働きやすい社会の実現のためには、患者の自立へ向けたビジネスモデルをつくることが必要、とさまざま事業を行っています。2012年1月からは、がん患者を対象に有料による職業紹介事業をスタートさせました。

同じ12年、乳がんの患者400人を対象に「生活ニーズ調査」を実施。その中で「日常生活で困っていることは何ですか?」と聞きました。

すると、意外な項目が上位にランクされました。「肩にかけるタイプのリュックやハンドバックを使いづらい」というもので、9割の人が2年以上悩んでいるというのです。

「悩みのトップは夫との性生活などコミュニケーションの問題で、『プールや海に行けない』『温泉に行けない』というのも上位でしたが、それらを押しのけて2番目にランクされたのがリュックやバッグの悩みでした。最初は意外に感じましたが、がんのため痛みを感じやすくなった患者の体に合ったショルダーバックがなくて、みなさん困っていたんです」

マザーハウスとの出会い

翌13年2月、桜井さんが社会起業家のシンポジウムにコメンテーターとして登壇したとき、たまたま一緒になったのがマザーハウスの副社長をしている山崎大祐さんでした。

マザーハウスは「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という信念のもと、バングラデシュやネパールでバッグや洋服を製造・販売している会社です。桜井さんが、乳がん患者のバッグの悩みを伝えると、山崎さんは真剣になって聞いてくれました。

桜井さんは語ります。

「バッグをつくるとなると、やはり対象は、健康な人向けになる。でも本来はがん患者も含めたユーザー目線でのモノづくりが大切ではないか、デザインで解決できる社会的課題があると山崎さんと意気投合しました。トントン拍子で話が進み、がん患者の悩みを解消するバッグを共同で開発することになりました」

まずはがん経験者10人ほどに集まってもらい、「どんなバッグが欲しいか」という意見を募りました。集まった人たちは、化学療法の副作用で手足のしびれが残っている人、放射線治療を経験した人、乳房再建術を行った人、温存術だけの人、全摘をした人、とさまざまです。

バッグの試作品を手に意見を交わす。

目指したのは、働く女性のためのバッグです。こんな意見がありました。

「欲しいのは肩からかけるバッグ。なぜかというと、手術でリンパ節郭清をした側の腕は上げにくくなるので、満員電車で急ブレーキのときなどに、もう一方の手を自由にしておきたいから」「満員電車で押されたりしたときに、手術の傷口をガードできるようなバッグも欲しい」

男性向けのカバンはガードに向きそうですが、カバン自体が重いし、オシャレ度に欠ける問題があります。一方、女性向けのバッグで多いのが、肩にかけるヒモ(ショルダーストラップ)が細いタイプです。

「仕事に使うとなると、書類とかパソコンなど重い物も入れなくてはいけない。ストラップが細いので、バッグの重みでベルトが肩に食い込んで痛い」

「ストラップの長さを調節しようとすると、金具が重いし、手術あとの傷口の痛いところにちょうど金具がきてしまう。それならと金具を背中に回すと、背中の痛い場所に当たってしまう。どっちにしても痛い」

最終段階の試作品はスタッフが1カ月間使用して感想を反映させた

このような声も挙がりました。

手で提げるタイプのバッグでは、「手の皮が敏感になっているので持ち手を握れないし、痛い」「肩にかける使い方をすると、手術の後遺症で左右の肩の位置がアンバランスになっているのでずれ落ちてくる」など、こちらも意見続出。「抗がん薬の副作用で手がしびれることがあるため、ファスナーがつかみにくい」という声もありました。

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