患者には、がん体験者にこそ聞いてもらいたい話がある

「がんピアサポート」を全国の病院で!

取材●「がんサポート」編集部
構成●町口 充
発行:2014年2月
更新:2015年2月

  

シャローム代表の植村めぐみさん(右)と産業カウンセラーの岩田優子さん(左)

がんの体験者が自らの体験をもとに同じがんの患者さんやその家族に寄り添い、支えるのが、「がんピアサポート」。8年前、設立の当初からピアサポートの普及を目指してきた「がん患者会シャローム」は、「患者さんが気軽に立ち寄れるピアサポートをもっと増やしてほしい」と訴えています。

がん患者会シャローム

TEL:090-4535-9198
E-mail:sugitocancer@gmail.com
ホームページ:http://www.geocities.jp/sugitocancer
ブログ:http://sugitocancer.blog87.fc2.com/

地域に根ざした「がん患者会シャローム」

今、全国に広がりつつあるのが、がんピアサポート。

「ピア」には「仲間」とか「同等」「対等」の意味があり、「サポート」は「支援する」ということ。つまり、すでにがんを体験したという点では一歩先を行くがん体験者が、同じ仲間として悩みや不安を抱くがん患者さんの声に耳を傾けることで支えていこうというものです。

このがんピアサポートの普及を目指して、がんの患者会設立当初から積極的に取り組んでいるのが埼玉県・杉戸町を中心に活動している「がん患者会シャローム」です。

シャロームの代表、植村めぐみさんは2000年の春、医師からがんと告げられた日のことを忘れません。病院から家までの間、がんとどう闘っていったらいいのか、だれに相談したらいいかもわからず、治療やこれからの行く末に不安を募らせながら、ずっと泣きながら帰ったといいます。

「告知されたあと、がんを体験した人の話をぜひとも聞きたかった。どこかでだれか、自分の気持ちを受け止めてくれるところがあれば、患者はどれだけ救われることか」

そう思った植村さんは、自分が住む杉戸町から声を上げました。「たとえ小さな町であっても、ここに患者会があるよと旗印をつけておけば、悩んでいる人がきっと来てくれるはず」と地域に密着した患者会をスタートさせたのです。

現在、メンバーは200人にまで膨らみ、地元の人は全体の25%ほどで県外に住む会員も多くいます。そのようななかで、「来るものは拒まず」の方針と、地域に密着した活動をという基本は変わっていないといいます。

当初から活動の柱としてきたのがピアサポートの実現です。地域密着というのも、すぐに行き来できる距離で、顔と顔を合わせて、がんの不安や苦しみを受け止めたいからにほかなりません。

がん対策にも盛り込まれた ピアサポート

こうしたがん患者会シャロームの活動は、全国のがん患者さんが待ち望んでいることでもありました。それは国の施策にも反映されています。

2007年に策定されたがん対策推進基本計画は、5年後の2012年見直されました。そこには、「がん患者の不安や悩みを軽減するためには、がんを経験した者もがん患者に対する相談支援に参加することが必要であることから、国と地方公共団体等は、ピアサポートを推進するための研修を実施するなど、がん患者・経験者との協働を進め、ピアサポートをさらに充実するよう努める」とピアサポートの重要性が明記され、その取り組みが正式に盛り込まれたのです。

熱意が伝わり 県の事業が動き出す

植村さんは、東京都が07年10月から始めたピアサポートのモデル事業にもサポーターとして加わりました。これは、NPO法人がん患者団体支援機構が都からの委託を受けて、都立駒込病院と武蔵野赤十字病院で患者さんの相談に乗るものです。

同時に植村さんは、自身が住む埼玉県でもピアサポートを実施してほしいと思いました。そこで同年12月、県に導入を要望。しかし、なかなか実現には至らず、ようやく県が動き出したのは12年になってからでした。

「読売新聞がその年の7月19日付で、『がん対策推進が懸念される県』として埼玉県など7府県を名指しする記事を掲載しました。それを受けてかどうかはわかりませんが、県の疾病対策課の課長さんらが『がん対策に力を入れるので患者会の要望を聞かせてほしい』と杉戸を訪れました。そこで私が訴えたのは、『ぜひ埼玉県の病院でもピアサポートを実施してほしい』ということでした」

その後も、今度は植村さんらが県庁に赴くなどして熱い願いを伝え、ピアサポートの実施が決まりました。「ピアサポート実施のためには、ピアサポーターの養成から」ということで、13年10月「埼玉県がんピアサポーター養成研修会」が5日間の日程で行われました。研修会には20人が受講。講師には植村さんも加わりました。

体験者であるだけでは 務まらない

がんピアサポート養成研修会で講師として話す植村さん

■がんピアサポーターの要点

養成講座でサポーター実践者として植村さんが講習する内容の抜粋

研修会を行う意義について植村さんは語ります。

「ピアサポーターは患者さんの仲間。仲間がいれば決して1人ではないから、そばにいるだけでも支援になったりする。だから本来、サポーターに特別な資格は要らず、あえて資格というならば、がんの体験者・家族・遺族であることになります。埼玉県の場合は、まず、がん体験者に限定して養成研修会の対象としました。

ただ、話を聞くだけでなく相談に乗ったりもするので、一定のスキルは必要。患者さんが相談に来るというのは何かに困ってくるわけですから、ときには情報の提供なども求められるし、がんのことをある程度詳しく知っていて、相手に寄り添えることが必要なのです」

患者会やサロンとも違うところがあります。患者会は自分の名前を登録して入会することが条件になるし、そうした必要のないサロンにしても、集まった人同士が互いに語り合ったりするという点は患者会と共通しています。

しかし、ピアサポートは基本的に「個人」が対象。ピアサポーターと相談者とは1対1の関係をとるため、サポーターの役割はいっそう重要になります。

5回にわたる研修会では、がんの基礎知識について専門家からの講義もありました。また、相手といかにコミュニケーションをとるかが大事なため、コミュニケーション入門の講師を務めたのがアミユマネジメント合同会社代表で産業カウンセラーの岩田優子さん。

岩田さんによれば、サポーターの活動にも「傾聴」が大事だといいます。

「相手が何を求めているかを判断するには、まずは相手の話をよく聴く必要があります。人にはそれぞれ自分のモノサシがあって、相手が言ったことが自分の意見と違うと『それは違う』と判断してしまいがちです。ピアサポーターには、相手を否定せずに、何を求めてきたのか相手の気持ちをきちんと受け止められる力が必要です」

研修会ではロールプレイングも取り入れ、現実に起こる場面を想定してそれぞれが役を演じて適切な対応法を学習します。そこでは「気づき」が欠かせないといいます。

「ただロールプレイングを体験すればいいのではなく、役を体験するなかで感じたこと、つまり『気づき』をなるべく多く得てもらうようにしています。それが、サポーターとして患者さんに接するときの奥行きになるのです」

医療をカバーする“心のサポート”

埼玉県立がんセンターで行われた
「がんピアサポート」の案内

スキルを身につけたサポーターの“初仕事”は、11月20日と同25日の2日間、埼玉県立がんセンターで行われました。センター内の「本館と東館をつなぐ通路」がそのスペースに当てられました。

「サポーターによる相談は、敷居が高くては意味がありません。ふらりと立ち寄れる気軽さが大事なので、個室ではなくオープンスペースにしようと、あえて場所を通路にしてもらいました」

植村さんは、「がんを治療する病院内には、患者が気軽に立ち寄れて話せる場所がぜひとも必要」だから、「全国の病院でピアサポートを実現してほしい」と次のように訴えます。

「病院の中では、医者や看護師が忙しかったりして、患者は思いの丈を十分に聞いてもらえていません。私たちがやっているのは医療の隙間を埋めて医療ができないことをカバーする役割。ピアサポーターが活躍できる場を、もっともっと広げていってほしいと思います」

会員の手作り!がん治療を優しく支える帽子

治療による脱毛を乗り切るアイテムとして、がん患者会シャロームでは、がん体験者の工夫がいっぱいつまった帽子を製作・販売しています。会員の手作りというこの帽子は、敏感な肌に優しい素材で、リバーシブル仕様。頭部をさりげなく包み込み、顔を自然に見せるデザインです。素材も季節に合ったもの、色や柄もたくさんそろえられ、リピーターも多いそう。

フリーサイズは頭囲57㎝。1㎝単位で特注できます。無地1,500円、柄物2,000円。送料は購入者負担。ただし、何枚でも一律80円で郵送できます。差益は会の活動資金になります。

●ネットショップから→http://urx.nu/3EhY
●代表ブログから→http://urx.nu/2fQU

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