海外で認められた2つの薬が、患者の生きる希望をつなぐ

多発性骨髄腫の新薬の承認を1日でも早く!

取材・文●町口 充
発行:2014年3月
更新:2015年2月

  

日本骨髄腫患者の会副代表の
上甲恭子さん

鯨岡英雄さん
10年前に多発性骨髄腫と
診断され、会の活動を支援

多発性骨髄腫は、治癒の方法が見つかっていない血液のがん。しかし、ここ10年ほどで有効な治療法が次々と登場し、患者さんの寿命は次第に延びてきた。海外では新たな2つの薬がすでに承認されており、日本での早期承認を求める声が高まっている。

日本骨髄腫患者の会

担当:上甲恭子
〒184-0011 東京都小金井市東町4-37-11
TEL:090-6908-2189
E-mail:owner-imfjapan@myeloma.gr.jp

治癒の方法は みつかっていないが

多発性骨髄腫は血液細胞の1つである「形質細胞」のがん。体中の骨髄でがん化が起こるので「多発性」となり、単に骨髄腫と呼ぶこともあります。

免疫を司る白血球の一種であるリンパ球の中には、外敵と戦う免疫グロブリンという抗体をつくるBリンパ球(B細胞)があり、これが成熟した段階が形質細胞。ところが、がん化した形質細胞は正常な働きをしないため体の免疫力が低下して、腎不全を招いたり、骨を破壊する作用があるので骨の痛みや骨折を生じたりします。

日本では毎年10万人に約3人が発症し、全国に1万4000人ほどの患者さんがいると推定されています。

「患者さんにとって有効な薬は、長く生きるための希望をつなぐ頼もしい武器。その武器を1つでも増やしたい」と語るのは、患者さんとその家族でつくる「日本骨髄腫患者の会」の副会長、上甲恭子さんです。

「この病気には今のところ治癒の方法はありません。完全寛解は可能ですが、それは治癒とは違います。完全寛解になっても、何年かすると薬の効果がなくなり、再発するといわれています。もちろん、治癒できる治療法が出てきてくれるのが一番の望みなのですが、それが叶わないのならば、薬剤という武器の種類を1つでも増やし、患者さんに病気と戦ってもらいたいというのが、私たち患者会の願いです」

完全寛解=がんの徴候が消失している状態

新しい作用機序を持つ薬が登場

かつてこの病気では、診断されてから1~2年の命しかなかった、といいます。

「今から45年ほど前に、2種類の抗がん薬を使ったMP療法が開発されて、しばらくの間はこの治療法しかありませんでした。80年代に入って、3つの抗がん薬を組み合わせたVAD療法が登場し、患者さんの寿命は少し延びて、それでようやく3年ほど生きられる時代になりました。その後、自家移植などによる造血幹細胞移植が行われるようになりましたが、これは65歳未満の比較的若い患者さんに限られます。多発性骨髄腫は高齢者に多い病気なので、実際には移植を受けられない人が多いのです」

90年代の後半になって、新しい作用機序を持つ3種の治療薬が登場。まずあらわれたのがサレド(一般名サリドマイド)でした。

サリドマイドはもともと1950年代に別の商品名で催眠鎮痛薬として発売されましたが、催奇形性があることがわかって発売中止になった薬です。その後の研究で多発性骨髄腫に対する有効性が明らかになり、患者の会の運動もあって治療薬として承認されました。

その後も、プロテアソームという酵素の働きを阻害する作用を持つ新しいタイプの薬であるベルケイドや、サレドと類似の化学構造を有するレブラミドなどが出てきて、治療の選択肢は広がっていきました。

上甲さんは父親が多発性骨髄腫の患者でした。父親は15年ほど前、62歳のときに多発性骨髄腫と診断されましたが、自家移植は無理といわれ、最初はMP療法、その後に他の多剤併用療法を受けたものの、やがて効かなくなりました。

「その時点ではまだ国内未承認だったサリドマイドを、個人輸入で使うことができ、おかげで3年間ほどQOL(生活の質)を保ったまま寿命を延ばすことができました。もう少し待てばベルケイドが出てきて、あと何年か命をつなげただろうし、さらにもう少し待っていたらレブラミドを使えて、また何年か長らえた可能性がありました。多発性骨髄腫というのは、そうやって治療をつないで、つないで、前へ、前へと進んでいく病気。新規薬剤の登場というのは、先に希望をつなぐという点でとても大きな意味を持っています」

多発性骨髄腫の治療法の変遷

多発性骨髄腫の治療薬の承認時期

MP療法=アルケラン(一般名メルファラン)+プレドニン(一般名プレドニゾロン) VAD療法=オンコビン(一般名ビンクリスチン)+アドリアシン(一般名ドキソルビシン)+デカドロン(一般名デキサメタゾン) サレド=一般名サリドマイド ベルケイド=一般名ボルテゾミブ レブラミド=一般名レナリドミド

「余命3年の可能性」といわれ

千葉県佐倉市に住む鯨岡英雄さん(65歳)が多発性骨髄腫と診断されたのは10年ほど前のこと。

「当時会社員でしたが、風邪が長引いて10日間くらい熱が下がらなかったので血液検査を受けたところ、多発性骨髄腫の初期レベルとわかり、当面は治療はせずに経過観察をというところから始まりました」

その後、治療が必要な状態になり、化学療法や自家移植を受けましたが、MP療法を始めたころは医師から「余命3年の可能性もある」とまでいわれ、覚悟を決めたこともありました。

「治療中は体を普通に動かすことが難しく、会社を辞めざるをえなくなって退職し、在宅勤務が可能な会社に再就職。生活設計は大きく狂いましたが、家族から『なるようにしかならないから』と言われたのが救いでした。現在は完全寛解の状態ですが、私の場合はタイミングよく新しい薬と出会えて、非常に治療に恵まれたと思っています」

鯨岡さんの場合、治療の初めにサリドマイドを個人輸入で使えたため、それで病気を一時的に抑え込むことができたといいます。

「サリドマイドにしても、いつまでも効果が続くというわけではありません。私みたいに10年ぐらいの長い経験者だと、たとえばAという治療をして、効かなくなって再発して、今度はBという治療をして、やはり効かなくなって再発しても、まだCという治療がある。ほかにも自家移植、あるいは同種移植、臍帯血移植、ミニ移植という選択もあります。時代の流れとともに新しい治療法の恩恵を受けたおかげで助かっています。2010年にレブラミドが承認されて使えるようになりましたが、これが私にとっては非常によいタイミングでした。これで救われた患者さんは、私のほかにも相当いらっしゃると思います」

できる限り時間を短縮して申請を

欧米では、ベルケイド、レブラミドに続く新たな薬がすでに登場しています。

1つはポマリドミド(一般名)。サレドやレブラミドと同じ系統の薬で、直接的な抗腫瘍作用、間接的な腫瘍細胞の増殖抑制作用、それに免疫調整作用を兼ね備えていると言われています。

米国では13年2月に、欧州では同年8月に承認されており、日本では第Ⅰ相の治験(承認を得るための臨床試験)が行われているところです。

もう1つはカーフィルゾミブ(一般名)。ベルケイドに続く第2世代のプロテアソーム阻害薬で、ベルケイドは末梢神経障害の副作用が強く現れやすいのに対して、末梢神経障害を軽減し、ベルケイドが効かなくなった人にも有効といわれています。米国では12年7月に承認されていて、日本では現在、第Ⅰ相・第Ⅱ相の治験を実施中です。


「骨髄腫セミナー2013」の様子。会では年に1度、多発性骨髄腫治療の専門家や研究者を講師に招いたセミナーを行う。病気の基礎から最新知見に基づく講演や患者向けの個別相談などが催される。2014年の開催は、5月18日(日)、静岡県の予定

患者の会では昨年8月、厚生労働省に対してポマリドミドとカーフィルゾミブの早期承認を求める要望書を提出しました。

ただし、2薬ともまだ治験が始まったばかりで、厚生労働省が承認を急ぐにしても、第Ⅱ相以降の治験結果が出るまでは審査自体が始まらない現実があります。

このため患者会としても、第Ⅱ相以降の治験への患者登録が迅速に進むよう、患者さんへの情報提供などに協力していきたいとしています。

上甲さんはこう話しています。

「21世紀に入って、新規薬剤が登場するごとに多発性骨髄腫の治療成績は進歩して治癒に近づいており、2つの薬が承認されれば、病気の治療は大きく変わる可能性があります。そうなるためには、日本での治験を速やかに行い、海外のデータも取り込んで、どのくらい短い期間で申請を出せるかが勝負だと思っています」

そのためには、「自分のためであると同時に、同じほかの患者さんのためという気持ちを持って、治験にぜひ協力してもらいたい」と上甲さん。鯨岡さんも、「早く治験が進んで、1人でも多くの人が救われてほしい。可能であるなら、私も喜んで治験に参加します」と語っています。

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