晩期合併症や二次がんと闘い続ける小児がん患者・親たちの願い

陽子線治療を保険適用に!そして、小児がんを難病指定にしてほしい

取材・文●町口 充
発行:2014年4月
更新:2015年2月

  

がんの子どもを守る会
理事長・山下公輔さん

同会ソーシャルワーカー
樋口明子さん

子どものときに受けた放射線や抗がん薬、手術などによって成人後も晩期合併症や二次がんに苦しめられたりすることがある。小児がんの子どもをもつ親たちは「晩期合併症や二次がんを減らすメリットのある陽子線治療を保険適用に」「晩期合併症などで20歳をすぎても医療費負担を強いられる患者家族への医療費補助の継続を」と訴えている。

がんの子どもを守る会

理事長:山下公輔
本部:〒111-0053 東京都台東区浅草橋1-3-12
TEL:03-5825-6311(代表)
E-mail:nozomi@ccaj-found.or.jp
URL:http://www.ccaj-found.or.jp

副作用が少ない陽子線治療

小児がんの子どもの親たちによる「がんの子どもを守る会」は昨年(2013年)秋、立て続けに3つの要望書を厚生労働大臣宛てに提出しました。

同会は、小児がんでわが子を亡くした親たちによって、「同じ苦しみを繰り返すことのない世の中をつくる」という願いのもと1968年(昭和43年)に設立された公益財団法人です。

要望の1つは小児がんの29患者家族会が共同で提出した、「小児がんに対する陽子線治療を保険適用にしてほしい」というもの。同会理事長の山下公輔さんは次のように語ります。

「小児腫瘍に対する陽子線治療の保険収載を求める嘆願書」は全国で11,241名分の署名を集めて、2013年10月に厚生労働省に提出

「陽子線はがん以外の正常組織への損傷が少なく、X線による放射線治療だと起こりやすい後遺症や晩期合併症を減らせるメリットがあります。現在は、先進医療として250~280万円の高額な医療費がかかります。小児がんの場合、親が30代や40代などで、がん治療費の負担者としては若いだけに、低負担で利用できるよう一日も早い保険適用を望んでいます」

陽子線は放射線の1つ。放射線には波の形で進んでいく電磁波と、小さな粒となって飛んでいく粒子線とがあり、電磁波の代表が放射線療法で多く使われるX線。一方の粒子線には陽子線、重粒子線などがあります。

X線は、体の表面で高いエネルギーの線量となり、体の深いところ、つまりがんがある場所まで行くに従って線量が低くなります。そのため、がん病巣以外の正常部分にも多くの線量が照射されてしまいます。

これに対して陽子線は、体の浅いところでは線量が低く、一定の深さに達すると急に線量が高くなるピークがあり、それより先には進まないという性質があります。このピークの位置を調節し、腫瘍の形に合わせた照射を行うことで、正常組織にはあまり当たらないようにして、がん病巣に集中した照射ができるのです。

近年、粒子線を治療に用いる施設が増えていて、現在日本には陽子線治療施設が8カ所(重粒子線は4カ所)あり、施設数では世界で一番多い国となっています。

放射線と子どもの体

山下さんによれば、多くの小児がんは「治るがん」になってきました。しかし、大人と違って子どものがんの場合、がんになった後に長い人生があります。X線による放射線治療は、がん細胞だけでなく成長しようとする正常細胞にもダメージを与えるため、がんが治っても、治療後何年もたってから発症する晩期合併症に苦しめられることがあるのです。

同会のソーシャルワーカー、樋口明子さんは次のように語ります。

「白血病で骨髄移植を受けるときは、前処置として放射線を照射する場合があります。脳腫瘍でも放射線治療を行うことがあるし、神経芽腫や骨肉腫などの中にも放射線が有用な場合があります。

現在は手術や抗がん薬も合わせた集学的治療により治療は進歩してきていますが、以前は、がんの種類によっては放射線しか治療法がなかった時代もあり、かなり高い線量が照射されたこともありました。その時代の子どもの中には、頭蓋照射したことで成長障害が現れたり、白質脳症で寝たきりになったお子さんもいるし、二次がんで脳腫瘍になったという例もありました」

何とか副作用を減らすことはできないかと、手術や抗がん薬治療の進歩とも相まって、ここ10年ぐらいの間に、放射線の照射量を減らしたり、放射線照射をしないようにするなど、治療方法は大きく変わってきたといいます。

陽子線治療の照射室の例

それでも、幼少期にX線による放射線照射を受けることによるリスクは、今も決してゼロではありません。

そこで、山下さん、樋口さんは、陽子線治療を要望する理由についてこう話すのです。

「陽子線治療が小児がんに対して一番いい治療だと思っているわけではなく、腫瘍の種類によってはX線のほうが有用というケースもあります。それでも、限局した腫瘍に対して、ピンポイントで照射ができて周囲の組織への影響が少ないというのはすごくメリットがあります。そういうタイプの腫瘍にはとても有用な治療法といえます。治療の選択肢を広げるという意味でも、ぜひとも保険適用にしてほしいです」

20歳をすぎると公費打ち切り

さらに、昨年11月に同会が厚労大臣に提出したのが「難病対策に関する要望書」と「小児慢性特定疾患治療研究事業に関する要望書」です。

現在、この2つの事業・対策についての見直しが行われている最中であり、同会では「後遺症や晩期合併症により高額な医療費負担を強いられる患児家族に対する医療費補助の継続」「低所得者および重症者の医療費・療養費の軽減」「学習支援・自立支援・就労支援などの継続」などを訴えています。

なぜ2つの要望書なのか。山下さんは言います。

「難病には子どもから大人までのものがあり、がんもそうです。難病であり、がんでもある小児がんはその狭間にあるため、行政の手が差し伸べられにくい状況があり、両方の対策への要望が必要です」

そして、ここにも、晩期合併症に苦しむ子どもたちをいかに守るかの問題があります。

小児慢性特定疾患治療研究事業(略称・小慢事業)は小児の難病対策といえるもの。長期にわたる療養を必要とし、医療費の負担も高額になることから、治療の確立を図るとともに医療費の自己負担分を補助する制度で、小児がんも含まれています。ただし、児童福祉法に基づく事業であるため、医療費の公費負担は最大でも20歳未満となっていて、20歳になると補助を打ち切られてしまいます。

しかし、実際には20歳をすぎても幼少期のがんの再発を繰り返し、治療を継続するケースもあります。また、晩期合併症が20歳をすぎて現れたり、二次がんが発生することがあります。

難病対策の中にも治療費の公費助成の制度があり、同会では「難病対策の中に小児がんを加えてほしい」と要望。20歳以降でも公費助成を受けられるよう求めていますが、いまだ実現は難しいといいます。

少数だからこそ必要な支援

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「小児がんは『難病』として定義されています。それなのに成人を含む『がん対策』という個別の対策があることから、難病対策で講じられているさまざまな施策の対象から小児がんが除外されている現実があります」

樋口さんはさらにこう言います。

「たとえば30歳でがんになったのなら、それまでの30年間は医療費がかかっていないけど、2、3歳でがんになった子どもはそこからお金がかかっていて、さらにその後も場合によっては一生涯、治療を継続しないといけない。成人期に発症したがんと、小児のがんとを同じに捉えるべきではありません」

2人は、口をそろえて次のように語っています。

「難病対策は原因不明の疾患に対して支援するものであり、晩期合併症は原因が分かっているから対象にならないという意見があります。しかし、そもそも小児がんは原因不明の難病であり、その治療の一環で晩期合併症が起こるのだから、ぜひとも難病の中に入れてもらいたい」

「多くの小児がんの子どもたちは晩期合併症もなく、元気に社会で活躍しています。でも、少数ですが、今も病気を抱えて社会に出たくても出られない子どもたちがいます。その子たちの後押しをするのは国や自治体の役割のはず。少数だけど、いえ少数だからこそ、国や自治体による支援が必要なのではないでしょうか」

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