半年、1年のドラッグラグでも膵臓がん患者にとっては長いから

海外で使われている薬を今すぐ日本でも使えるようにしてほしい

取材・文●町口 充
発行:2014年6月
更新:2014年10月

  

パンキャンジャパン理事長の
眞島喜幸さん

海外で使われている抗がん薬が、日本で使えるようになるまで時間がかかってしまうドラッグラグ。患者さんたちの強い声に押されて少しずつ解消されつつあります。それでも、難治性がんの筆頭である膵臓がんの場合、たとえ半年、1年でもドラッグラグは生死にかかわる問題です。「海外に比べ日本で使える薬がまだまだ少なすぎる。治験ももっと増やしてほしい」と切実な声があがっています。

NPO法人 パンキャンジャパン
(すい臓がんアクションネットワーク――PanCAN Japan)

理事長:眞島喜幸
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-12-1 Q-DAN1991 5階
TEL:03-3221-1421 FAX:03-3211-1422
ホームページ:www.pancan.jp/
メール:info@pancan.jp

胆道がんと合わせると女性の死因1位

がんの中でも最も生存率が低い難治性のがんといわれるのが膵臓がんです。米国ロサンゼルスに本部を置く膵臓がん患者支援団体PanCAN(パンキャン:すい臓がんアクションネットワーク)の日本支部で、NPO法人パンキャンジャパン理事長の眞島喜幸さんは次のように語ります。

「膵臓がんの5年生存率はわずか6%。平均余命は1年といわれ、毎年2万9,000人以上が亡くなっていて、がんの部位別死亡原因の第5位となっています。女性の場合は、膵臓がんと隣接する胆道がんを合わせると、大腸がんや乳がんを押しのけてがん死亡原因のトップになるんですよ」

早期発見が難しいうえ、再発・転移しやすいのが膵臓がん。発見後、手術可能なケースは20~30%ほどしかなく、手術できたとしても7割が再発するといわれています。それなら薬による治療に期待したいところですが、ここにも問題があります。

「治療薬(抗がん薬)の数については、部位がん別でいうと、乳がんが一番多くて、主要ながんでは少なくとも10剤ぐらいの抗がん薬が承認されています。ところが、最も薬を必要としている膵臓がんは2013年の秋まではたった3剤しかありませんでした。しかし、本当に3剤しかないのかというと、米国では10剤近くが承認されて現在使われています。『薬がない』のではなく、『海外にはあって、日本にはない』のです」

パンキャンジャパンは「状況を変えるために自分たちがアクションを起こそう」と、早期承認を求める署名活動を始め、2013年6月、3万1,382筆の署名を携えて田村憲久厚生労働大臣に面会。要望書を提出しました。

ドラッグラグが少し縮まった!

「ドラッグラグ解消の要望書」として、署名31,382筆を田村厚生労働大臣に提出(2013年6月25日)。左から2人目が眞島さん

図1 膵臓がんの治療薬

要望書の概略は、次のようなものです。「現在、膵臓がんで使える抗がん薬はジェムザール、TS-1、それに分子標的薬のタルセバの3剤しかありません。欧米ではすでに標準的に使われている薬のうち、日本で13年5月に承認申請が出された4剤併用のFOLFIRINOX療法、治験中の〝ジェムザール+アブラキサン併用療法〟、ならびに、家族性膵臓がんに著効があるとされる〝ジェムザール+シスプラチン併用療法〟の1日も早い承認を求めます」

これに応えて、行政の動きは早いものがありました。FOLFIRINOX療法が申請から7カ月後の12月、承認されて使えるようになったのです。

NCCN(米国国立総合がんネットワーク)が、膵がん診療ガイドラインにファーストライン標準治療薬としてFOLFIRINOX療法を紹介したのは11年2月ですから、それから3年弱で日本でも使えるようになりました。

さらに〝ジェムザール+アブラキサン併用療法〟についても、国内での治験を経て今年4月にも承認申請が行われる予定で、順調に推移すれば年内には承認される見通しとなっています。かりに今年12月に承認されれば、ドラッグラグは1.3年に縮まります。

「日本でジェムザールが膵臓がん治療に承認されたのが01年4月。米国では96年5月に承認されていましたから、約5年のドラッグラグがありました。それから10年たって、タルセバが11年7月に日本で承認されましたが、ドラッグラグは5.7年で、全く進歩がありませんでした」

こう話す眞島さんによると、それが今回のように一気に短縮された理由は、「何といっても患者の声の大きさ」だそうです。

ジェムザール=一般名ゲムシタビン TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム タルセバ=一般名エルロチニブ FOLFIRINOX療法=ロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)+5-FU(一般名フルオロウラシル)+イリノテカン(商品名カンプト/トポテシン)+エルプラット(一般名オキサリプラチン) アブラキサン=一般名ナブパクリタキセル シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ

何より大事な「薬を求める患者の声の大きさ」

5年のドラッグラグを経たジェムザールの保険適応に際し、早期承認を求める運動の先頭に立ったのが、新山義昭さん(故人)という再発膵臓がんの患者さんでした。膵臓がんの世界的な標準治療薬であるジェムザールは、2001年当時、日本では非小細胞肺がんにしか認められていませんでした。新山さんは膵臓がんにも使えるようにと、5万人の署名を集めて厚生労働大臣に直訴。そのかいあって膵臓がんへの適応が実現したのです。

2013年に行った2療法の早期承認を求める署名活動では、他の患者会からの支援も大きな力となりました。「とくに卵巣がん体験者の会スマイリー代表、片木美穂さんには力を貸してもらいました」と眞島さん。

スマイリーは、海外で再発卵巣がんの治療薬として承認され使われているドキシルやジェムザール、ハイカムチンのいずれもが日本では使えないというドラッグラグの現状を訴え、長年の運動の末に日本での承認を果たしました。ジェムザール、ハイカムチンについては「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において公知申請が認められ、承認されました。

その後、片木さんは自分たちが勝ち取った成果をほかの患者会にも広げたいと、ドラッグラグ解消を求めるがん患者会に対し、積極的にアドバイスをしたり、一緒に行動したりしているのです。

ドキシル=一般名ドキソルビシンリボソーム製剤 ハイカムチン=一般名トポテカン

日本版「人道的使用制度」の実現は?

表1 臓器がん別臨床試験数

眞島さんは、最近、議論が盛んになっている「日本版コンパッショネートユース制度」の導入にも強い感心をもっています。なぜなら、ドラッグラグが仮に1.3年に縮まったとしても、「それでも膵臓がんの患者さんにとっては遅い」からです。

コンパッショネートユースとは「人道的使用」という意味で、重度の病気でほかに治療法がない患者さんや臨床試験に参加したくても条件にあてはまらない患者さんに対して、海外でも使われるなど安全性がある程度認められた未承認薬・適応外薬を提供する仕組みのこと。欧米ではすでに導入されていますが、日本版でも実現できないかと厚生労働省が検討を進めています。

眞島さんはこう語ります。「欧米でどの患者さんも使える薬があるのなら、日本の私たちも今すぐにでも使いたいと思うのは自然のことだと思います。なぜなら、膵臓がんの患者さんは余命が3カ月や6カ月の人も多い。現在承認を求めているアブラキサンにしても、申請が出されて使えるようになるには最速でも7~8カ月かかります。それまで待てない患者さんが現実にいるのですから、そういう人たちを救済する制度があってしかるべきです」

日本では次の薬を開発するための治験も少なすぎる、と眞島さん。「米国では、調べたら参加者を募集中の治験の数が137もありました。ところが日本では現在進行中の治験はゼロ。これでは日本発の有効な薬はなかなか出てこないし、患者さんが受ける治療の選択肢も狭められたままです」「たとえ余命わずかといわれても、患者さんが諦めることなく、希望の持てる治療」の1日も早い実現を――膵臓がんの患者・家族からの心からの訴えです。

専門医と患者の橋渡し――パンキャンジャパン

活動の主旨と目的

パンキャンジャパン(2006年設立)は膵がん撲滅のために活動する患者支援団体。
米国にある本部と連動し、国内外の医療福祉従事者、行政、関連企業、他の患者団体などと協力して、次のミッションに取り組んでいます。
❶臓がん研究を促進するための研究者・医療者支援
❷安心して治療が受けられるようにする患者・家族へのサポート
❸膵がん啓発を通して希望を与える

いま力を入れている取り組み

▼パープルリボンキャンペーン
09年から始めた膵がんの啓発キャンペーンです。広島を皮切りに毎年全国各地でセミナーを開催し、膵がんの診断や治療に関する最前線の話を専門の医師らに講演してもらうとともに、パネルディスカッションなども行っています。専門医にかかることが大切なので専門医と患者さんとの橋渡しも行っています。
▼北海道発!難治性がん啓発キャンペーン
また、北海道は膵がんと肺がんの死亡率が全国ワースト1位。そこで11年から札幌市で、ほかの患者団体などと一緒になって「難治性がん啓発キャンペーン」を毎年行っています。今年からは東京でも難治性がんの啓発キャンペーンを行う予定で、がん研有明病院との共催でセミナーを計画しています。

患者サポート

▼PALS(パルズ)電話相談センター
膵がん患者さんとご家族が必要としている情報を提供したり、一緒に探す電話相談。
日時:水曜~金曜(14:00~17:00)
TEL:03-3221-1421

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