がん治療中もメイクで自分らしく。
ソシオエステで心身の痛みを和らげる

「ソシオエステティック」を病院でもっと活用してください!

取材・文●阿鹿麻見子
発行:2014年7月
更新:2015年2月

  

理事長で、Codes Japon認定
ソシオエステティシャンの
光江弘恵さん

エステティシャンの大杉千幸さん

治療中の脱毛や肌荒れで容貌が変化すると、患者さんは人とのかかわりを疎みがちになったり、痛みで心がふさぐことがあります。そのような状況の人たちに、メイクやマッサージなどのエステティックのスキルや知識を用いて総合的にケアするのが「ソシオエステティック」。これに7年前から取り組んできたソシオエステティシャンは、医療従事者にもっと知ってもらい、もっと活用してほしいと話します。

ソシオキュアアンドケアサポート(SCCS)

〒145-0064 東京都大田区上池台1-19-1-401
HP:mycuresupport.wix.com/sociocure
E-mail:sccs@office-m.cc

病室の母が遺した「綺麗」の重み

「母は私が高校生のとき、心臓病で亡くなったのですが、39歳から42歳まで入退院を繰り返す中で、顔色が悪い自分の姿を見せたくないからと友人の見舞いを断り続け、結局会わないままでした」

NPO法人ソシオキュアアンドケアサポート理事長で、Codes Japon認定ソシオエステティシャンの光江弘恵さんは、自らの活動の原点を、亡き母の病室での姿と、そのときの心情に重ねて語ります。「せめて口紅をひいて眉を整えてあげられたら、母は大切な人たちと最期に有意義な時間を過ごせたかもしれません」

そう振り返る光江さんは、「病人だからといって、なぜ綺麗にしてはいけないの?」という引っかかりを母への思慕とともに心に留め、結婚後に化粧品の製造・販売会社エイボン・プロダクツに就職。そこはピンクリボン活動に力を入れている企業でした。

直営店で美容アドバイザーとして働いていたあるとき、乳がんで抗がん薬治療中の女性から、「子どもの入学式があるので、眉の描き方を教えてもらえませんか?」という依頼を受けました。会ってみると、眉毛だけではなく、まつ毛もほとんど抜け落ちた状態でした。

Codes Japon認定ソシオエステティシャン=Codesと提携したソシオエステティシャン養成講座を修了すると得られる日本国内の民間資格

治療中の女性に喜ばれるメイク


病棟でのソシオエステティックのハンドマッサージのケア。用いるボディミルクは、無香料や様々な香りから患者さんに選んでもらう。香り選びから過去の旅行の思い出話などが語られたり、患者さんに喜ばれるひととき。男性患者さんにも実施しています

そのときの技術を精一杯駆使して、脱毛した女性にメイクアップを施した光江さんでしたが、「もっと上手に、ハンディがある人に喜ばれるメイクができるようになりたい!」と強く感じました。それには、病状や治療によって起こる変化に対応できる技術を身につけることが必要、と痛感。亡き母のことも甦り、「美容を生業とする自分が闘病中の人を美容面から支援すべきではないか」という思いを募らせます。

本で調べたり、持病のある人や医療従事者に尋ねるなど、模索し始めた光江さんは、フランスには半世紀も前からあったソシオエステティックを知りました。これは、病院や高齢者施設などで、何らかの理由で心身に困難や損傷を抱えた患者さんや入居者が、社会とのかかわりや自分らしさを取り戻す手段の1つとして、フェイシャルケアやネイルケアを提供するものです。

「日本にもこれが普及すれば!」。光江さんの心は早るものの、まだ幼かった子どもを残して渡仏するわけにもいきませんでした。その後、フランスで最も著名なソシオエステティックの学校、Codesの講座が日本で開講されると聞き、迷わず受講。仕事を続けながら1年の課程を修了して試験に合格し、日本におけるソシオエステティシャン第一期生の認定証を手にしました。

老いても病んでも美しくあることが「力」

「ソシオエステティックを勉強し始めた今から6~7年前は、病院の先生方もそれがどういうものか、半信半疑だったと思います。実際に私たちの施術によって患者さんが明るくなった様子などを通し、恒常的に取り入れてくださる病院が増え、少しずつ知られるようになってきたと感じます。

それでも、元々エステティックの位置付けが低い日本では、「えっ、有料なの?」という反応だけでなく(笑)、対価を支払うのは患者であり、フランスのように医療機関が負担するケースは稀です。医療機関の制度の中での雇用が理想ですが、まずは従来のエステとの違いから、より多くの施設で理解してもらわなくてはなりません」

年齢を重ねた女性ほど敬われ、老いてこそ似合う口紅の色を知り、白髪の1本1本さえ美しく保つのが当然というフランス。それに比べ日本は、歳をとって今さら綺麗にしたいなんて、はしたない。まして病人は病人らしくしていればいい。このような文化の違いも、光江さんはたびたび感じてきました。せっかくケアをして綺麗になった患者さんが申し訳なさそうな顔をして小さくなっているのは、周囲が無関心な場合だと言います。「ほめ上手な医師の患者さんって、とても明るいんですよ」

だから、患者さんの周囲にいる医療従事者の方々には、患者さんが綺麗になることを積極的にとらえることが大切なのです。そして、そのためにソシオエステティシャンのスキルを患者さんにつなぐ橋渡しを求めます。

「医療以外の多職種のスキルを医療職の中でも行えると安易には考えず、その専門性を認識してほしい。そのうえで、ソシオエステティックが患者さんにもたらす効果に医療従事者が関心をもち、病院の中で私たちが活用される医療のしくみを実現させたい」

患者を支える多職種間の理解と連携を光江さんは願っています。

(上)病棟でのメイクアップケア。使い捨ての綿棒で行うのが、感染予防のために重要なポイントとなる(下)患者さんのご自宅にうかがってのメイクアップケア。ソシオエステティシャンへの依頼は、連携先の訪問看護ステーションからや、在宅診療医からの紹介によるものなど様々だ

がん治療が心身に及ぼす変化

リレーフォーライフでのメイクアップケア。メイクのアドバイスを受けながら、患者さんは鏡のなかでよい肌色に変化していく自身の顔を見て、表情が和らいでいく。内容は、化学療法中に脱毛した眉の描き方、シミ予防、脱毛中の頭皮ケア、爪の黒ずみ対策なども

2年前に乳がんを患ったエステティシャンの大杉千幸さんは、つらい抗がん薬治療を経験しています。ツメが剥がれて手首まで蒼白になり、放射線治療で焼けた皮膚に肌着が触れて激痛に耐える状況でした。

「髪の毛が抜けたらカツラをかぶればいい、と簡単に言いますが、頭皮に炎症があるとつらい。ステロイド薬をポンと渡されてもね……」

心への配慮がなされない虚しさも感じました。そんななか、通院先で光江さんによるソシオエステティックの講演案内を目にし、「自分の経験を人に役立てたい」とNPOに参加しソシオエステティックによるトリートメントサポートを学び始めました。

「がんの治療は心身の痛みを伴い、死が近付けば恐怖がつのり、私たちが暴言を浴びることもあります。そんなとき、ハンドマッサージで温もりを伝えることができますし、ただ向かい合うだけのときもある。様々な局面で見極めができるのが、ソシオエステティシャンですから」

以前、光江さんは医師からの紹介で、進行乳がんの治療のためフランスから来日した女性を励ますために、メイクアップをしたことがあります。

「険しかった表情が次第に和らぎ、ご主人と微笑み合う姿がとても幸せそうでした。女性特有の疾患がもたらすボディイメージの変化、傷付いた心をメイクアップでサポートし、自信を取り戻すお手伝いをさせていただくのは大きな喜びです」

治療中も綺麗でいたいという多くの患者さんのために、数々の出会いの1つひとつを次の仕事に生かす日々です。

美しく心を癒すケアを提供する――ソシオキュアアンドケアサポート

どんな会?

癒しを必要とする人々に向け、ソシオエステティックの施術を通してQOLの維持・向上をサポートしていくことを目指して、2011年に設立された団体。エステティシャン、医療・介護従事者、会の目的に賛同する方々で構成され、約20人のエステティシャンが所属。

活動内容は?

抗がん薬治療や人工透析、ホスピス・在宅療養中の患者さんとご家族への心身のケアとアドバイス及び医療従事者へのケア学習。講演は順天堂大学病院ほか多数。

参加方法は?

ソシオエステティックの目的に賛同する方、学びながら各々の人生経験を生かし、一緒に活動したい方、支援して下さる企業、医療機関等、どなたでも。

患者サポート

▼ソシオエステティックを受けられる医療機関
こくふブレストクリニック(兵庫県宝塚市) いしづか乳腺外科クリニック(兵庫県姫路市)

上記のクリニックでは、他の医療機関で治療をしている人へのソシオエステティックを受け入れています。ほかの医療機関、サロンはホームページにて掲載。

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