働き盛り世代のオストメイトたちに情報をつなぐ、患者会グループからの発信
もっと知って!オストメイトだって問題なく仕事ができることを
公益社団法人日本オストミー協会
20/40フォーカスグループ
情報配信担当の
池嶋貫二さん
日本で約18万人いるオストメイト。高齢者が多いため、介護の問題がクローズアップされがちだが、20~40代の若年者では仕事、恋愛・結婚、出産などが問題になる。
若年者のオストメイトは人数が少なく、悩みを相談する相手をもたない人も多い。とくに若いオストメイトが直面する就労については、問題解決の手がかりとなる多くの正しい情報が必要とされている。
同年代の知り合いがいないだから相談もできない
がんなどの疾患によって排泄機能が損なわれ、残った消化管や尿管を代替の排泄孔としたストーマという開口部を腹部に造ることがある。このストーマを造設した人をオストメイトという。日本オストミー協会は、ストーマを造設した人たちの患者団体だ。この団体内に、若年オストメイトの活動グループ「20/40フォーカスグループ」(以下、20/40)を立ち上げたメンバーの1人池嶋貫二さんは話す。
「若いオストメイトの主な悩みは、仕事、恋愛、結婚です。女性の場合は、これに出産も入ります。例えば、『恋愛相手にストーマのことをどう打ち明けようか』『就職の際にストーマであることを伝えたほうがいいのか』など、悩みは尽きません。さらに、若いオストメイトは人数が少ないため知り合う機会も限られ、相談できる相手がなく、孤立しがちです。必然的に悩みが深まってしまいます」
日本オストミー協会の会員でも、60歳以上が90%を占め、39歳までは2%という。20~40代では、自分と同年代のオストメイトを数人程度しか知らない場合がほとんどだ。
「みんながどうしているか知りたい」というのが切実な声だが、若いオストメイトたちの悩みは、どこに寄せられるのか。
「相談できる相手といえば、まず医療従事者ですが、例えば就職について相談したいと思っても、医療従事者がさまざまな業種の職場状況に踏み込んでアドバイスできるわけではありません。ほしい情報をどこで、どう探せば得られるのかが手探り状態で、みんな苦労しています」
そんな状況を改善しようと20/40が行っているのが、ブログやメルマガでの情報発信や交流会だ。池嶋さんは、語る。
「『こうすればいい』という方法論はありません。でも、1つの処方箋として、同年代で似たような経験をした人の声が聞けることが大事だと考えているのです」
就職を阻むオストメイトへの誤解
20~40代のオストメイトに共通する重大な悩みは、就職の問題だ。オストメイトが就職し、働き続ける難しさを、池嶋さんは次のように話す。
「著名人のカミングアウトなどでオストメイトが知られてきましたが、それはイメージであって障害そのものの理解ではありません。世間の方々には障害による影響はわかりにくいと思います。それで就業能力を低く見られることがあるのです」
池嶋さん自身、かつて人材紹介会社に勤めていたころ、「オストメイトのような内部障害のある人は体調が不安定だから、採用を前向きには検討しにくい」という企業の採用担当者の声を聞くことがあった。
しかしこのような声は、オストメイトの就業能力を誤解して発せられたものといっても過言ではない。というのも、実際には、障害者枠や一般枠どちらにおいても、多くのオストメイトが就業し社会復帰している。
「これはストーマを造設しても問題なく仕事ができることの証明ともいえます。就労しているオストメイトの姿を実際に見てほしいですね」
障害への誤認識や偏見が「働きにくさ」の一因になっていることは間違いない。それを取り除くために、どうしたらいいかを池嶋さんらは模索している。
1つの方法は、「長期間安定して働いているケースを多く伝えること」。地道だが確実な活動だ。
「例えば、就労をテーマにした啓発活動を行うと、世の中に広くアピールできます。また、就労支援の関係機関による研修などで、ストーマを抱えながら働いている当事者たちの声を伝えてもらいたいと思います」
実際、池嶋さんらは2010年12月、東京で難病や内部障害関係の当事者団体の代表たちと共に、就労をテーマにしたシンポジウムを開いた。参加団体の代表がそれぞれ当事者の声として、就労への考えや提言を述べるという、これまでにない画期的な機会となった。
配慮はほしいが過剰に気遣われたくない
オストメイトの就職活動では、短時間就労やデスクワークなどを条件にすることがある。さらに、トイレの時間が長いこと、力仕事はできないことなどへの配慮を求めるという。だが、ストーマを造設する理由は、大腸がんや膀胱がん、炎症性腸疾患などさまざまだ。例えば、原疾患ががんならば抗がん剤治療による副作用への配慮も必要だったり、職場に求める配慮は疾患によって個人ごとに異なる。そのような個別の要件を、障害者雇用の経験が少ない企業の採用担当者や職場責任者に理解してもらうのは決して簡単ではない。
「職場への要望ばかりを話してうまくいかない場合もあります。ほしい配慮のすべてが叶うわけではありません。採用側同様、求職者側も要望とを整理し、優先順位をつけて絞りこみ、端的に伝える必要があります」
20/40では、職場への要望について仲間同士で質問を投げかけるグループワークを行ったりしている。
「お互いの質問に答えるやりとりをするうちに、気づきがもたらされ、考えがまとまっていくのです」
就職活動の情報がもっと身近にあれば
もう1つ求めているのは、障害者に対応した求人数が増え、情報がもっと入手しやすくなる社会的な環境整備だ。
求人情報の入手先には、ハローワークや人材紹介会社、ジョブカフェ、また、ハローワークや民間企業が主催する面接会、新聞や求人雑誌などもある。さらに人材紹介会社には障害者を専門に扱うところがある。だが、これらを知らないオストメイトも多い。障害者雇用の情報をもっと得やすいものにするために、社会的な支援が必要だという。
また、オストメイトたちが就職・転職する際の選択肢として、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づく、障害者手帳所持者を対象にした「障害者枠」を利用する手もある。
この法律では、「従業員56人以上の企業は、従業員数から計算される一定割合以上の人数の障害者を雇用しなければならない」とされている。障害者の採用にあたって企業側は、求職者の障害の内容や程度を確認し、実際に仕事するうえで必要な配慮は何か、またその配慮は社内で実現可能かどうかを検討していく。
オストメイトの障害等級は、3、4級になり、この制度に当てはまる。若いオストメイトは意外とこの制度を知らない人も多いという。ただしこれは、障害の内容を採用側に詳しく理解してもらうことが前提となる雇用枠である。だから、オストメイトであることを明かしたくない人にとっては役立たない。
「それでも、就職や転職を考えているオストメイトの人たちには、通常の雇用と障害者雇用の両方で検討してみてはどうかとアドバイスしています」
内部障害者を敬遠することなく、内部障害者の就労意欲の高さを評価して、積極的に採用しようとする会社が増えてきてほしいと池嶋さん。
「今後は、在宅就労やワークシェアリングなど、さまざまなワークスタイルが推進されていくことを望んでいます。短時間の雇用でも機能する業務サイクルが実現すれば、もっと多くの人が職を得られます」
悩みを共有し経験者に相談できる場を
就職者の状況も実にさまざまだ。内部障害者であることを明かさずに通常の雇用枠で採用された場合は、病院に行くたびに「言い訳」が必要で、それが度重なると、周囲の見る目が変わったり仕事上の信頼関係に影響を及ぼしかねない。「職場のフォローがなくて、仕事を続けられなくなった」という人もいる。その一方で、オストメイトであることを職場に伝えていれば、通院の承諾なども得やすい。また、障害者として採用されて、「何かあっても普通に接してくれる職場の雰囲気ができてきて、居心地が良く働ける」と話すオストメイトもいる。とはいえ、繁忙期には休みにくいといった状況もあるのが現実だ。
池嶋さんによると、「会社勤めのオストメイトは、食事はもちろん、ストーマケアや洗腸も、周囲に気を遣わせないように自己管理を徹底している」とのこと。その背景には、「過剰に意識されたくないけれど忘れられたくもない」という非常にデリケートな心情があるという。
「ストーマのことを職場に明かすとしたら、どう切り出せばいいのか」「上司だけでいいのか、同僚にも言うのか」「うまく隠し通すにはどんな工夫をしたらいいのか」。仕事をしながらも、オストメイトの悩みは尽きない。
「経験者同士は、『1を話したら、7、8までもわかる』というくらい、思いを汲みとれるものです。思いを話せたとき、その人の可能性の扉が開かれていきます」と池嶋さん。だからこそ、「オストメイト同士のつながりを増やす活動」が必要であり、こうした思いのなかで、オストメイトたちは働いていることをぜひ知ってほしいと池嶋さんは語る。
日本オストミー協会・20/40フォーカスグループ
(人工肛門・膀胱をもつ若年者グループ)
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