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希少がんゆえに治療や薬剤の認可が進まない──状況の打開を訴える患者会
褐色細胞腫の治療に保険適応を!そして、調査・研究の充実を

取材・文:町口 充
(2012年4月)

及川信さん
褐色細胞腫を考える会の代表
及川信さん

はじめは良性で見つかっても数年から数10年を経て悪性腫瘍として再発する可能性のある褐色細胞腫。希少疾患で専門医は少ないうえ、手術以外の治療は保険適応外。患者さんたちは、「病気についての調査・研究を継続させるとともに治療の保険適応を」と訴えています。

21歳で転移が見つかり悪性と診断される

横浜市在住の及川信さん(41歳)が褐色細胞腫と診断されたのは、大学4年生だった21歳のときです。

この病気では、腎臓上部にある副腎髄質や傍神経節に発生した腫瘍が増殖し、カテコールアミンというホルモンが過剰に作られるようになります。カテコールアミンが大量に血液中に分泌されると、重症の高血圧となって脳卒中や心筋梗塞などに発展する危険があり、また、代謝亢進、血糖値上昇などを引き起こします。

腫瘍の多くは副腎髄質にできますが、及川さんの場合は傍神経節にできるタイプでした。褐色細胞腫の多くは良性ですが、悪性のものも10%程度あります。及川さんは最初に発見された時点で、すでに何カ所かに転移があり、多発性の悪性腫瘍と診断されました。

治療のため仕事を諦めざるをえない

及川さんは振り返ります。

「手術で膀胱に転移していた腫瘍を取り、その後は元気になりました。血圧の薬は飲み続けていましたが、就職も決まり、普通に日常生活を送っていました。ところが3年後に再発。膀胱のほかに、転移が骨にあったため手術ができず、抗がん剤や放射線治療で半年以上仕事を休む結果となり、結局、会社を辞めざるをえなくなりました」

希望を失い、家の中に引きこもる毎日。病気もそうですが、仕事がないことがどれほど人にダメージを与えるかを知りました。

親のつてもあり、「運よく再就職が決まり、社会復帰できた」という及川さん。結婚は諦めていたそうですが、出会いがあり、35歳のとき結婚し、今は2児の父です。

「病気のことも理解して結婚し、子どもも産んでくれた妻に感謝しています。どん底のニート暮らしから復活した後、せっかくの人生なのだから楽しく生きようと、頑張って20年になります。私の場合は転移が続き、耳の骨の腫瘍によって右耳の聴覚が半分失われているものの、外見上は元気で普通に生活できるから、まだいいほう。同じ病気でも重症で治療に次ぐ治療で動けなくなる人もいます」

保険でできる治療が手術だけしかない

会で作成した「患者手帳」
会で作成した「患者手帳」。医師に伝える際などに役立てられる。病気や治療法の詳細がコンパクトにまとめられており、個人ごとで大きく異なる症状や検査・治療の経過を書き止めておけるバインダー手帳対応の記入式。会員・非会員を問わず、必要な人に提供している

そんな及川さんに患者会の立ち上げをアドバイスしたのが、元主治医であり、褐色細胞腫の数少ない専門家である医師の成瀬光栄さん。現在は、国立病院機構京都医療センター臨床研究センターの内分泌代謝高血圧研究部部長を務めています。

褐色細胞腫は患者さんが日本に3000人ほど。うち悪性が320人ほどと推定される希少疾患です(厚生労働省研究班による09年の全国疫学調査)。

国の援助は乏しく、医師が「研究の充実と患者さんへの経済的支援を」と国にいくら訴えてもなかなか進みません。患者さん自らが声を上げる必要があると、08年12月、はじめて開催された「褐色細胞腫市民公開シンポジウム」をきっかけに患者会設立の話が進み、翌09年2月、患者と家族の会である「褐色細胞腫を考える会」がスタート。及川さんは代表を引き受けました。

「共同宣言」の書面
2011年12月、褐色細胞腫の米国患者会pheoparaTROOPERSを招いて、合同シンポジウムを行った。その際、「国を越え協力し合うことを約束」して結んだ「共同宣言」の書面

発足以来、一貫して訴えているのは国からの公的支援。それも、せめて保険が適応される治療を増やしてほしいという切実な訴えです。

「治療のうち保険が適応されるのは手術だけで、ほかの薬物治療や放射線治療は保険が認められず、自費です。これではあまりにも厳しいです」と及川さん。

たしかに治療は、手術による腫瘍の摘出が基本となる。ところが、それで終わりとならないのがこの病気の特徴です。

将来悪性になって再発するかどうかは、手術した時点では判別が難しいため、手術後も一生涯、定期的なホルモン検査と画像検査が必要です。転移があればその都度、手術で腫瘍を取り除きますが、手術が難しいケースが多く、その場合は抗がん剤による化学療法や放射線治療による治療を行います。また、及川さんのように降圧剤の服用が欠かせない場合もあります。

1回50万円の放射線治療が一生続けられるか

欧米では、抗がん剤治療や、薬剤を使った放射線治療が広く行われています。

そのうちの1つであるCVD治療は、エンドキサン)、オンコビン)、ダカルバジン()の3種の抗がん剤を併用した治療です。日本ではこれらの薬の併用を、褐色細胞腫の患者さんに認められておらず、保険適応外。

同様に、MIBG()という薬を使った放射線内照射(アイソトープ治療)治療も欧米では広く用いられている治療ですが、日本ではこの薬は未承認です。

「MIBG治療は1回の費用が40~50万円かかり、半年~1年と間をおいて2回、3回と治療しますが、全額自己負担です」

また、欧米では新たな治療薬として分子標的薬スーテント)の有効性が報告され、使用が始まっています。日本でもスーテントは消化管間質腫瘍(GIST)や腎細胞がんなどで承認されています。しかし褐色細胞腫に対しては未承認で、やはり使えません。

このほか、デムサー()という薬剤があります。がん細胞がカテコールアミンを作るのを抑え、症状を緩和する薬です。これも日本では薬自体が未承認で、同じく使うことができません。

MIBGやデムサーは日本では販売していないので個人輸入するしかなく、患者さんにとっては煩雑な手続きが必要なうえ、高額な治療費の負担を強いられるのです。

「デムサーは通常、手術をする際に使います。手術中に腫瘍を刺激すると、血圧を高くするホルモンがさらに大量に出て術中に患者さんが亡くなってしまうケースがあります。それを防ぐために手術前に飲むのが欠かせない薬なのですが、日本では使えないというのは、おかしい」と及川さんは語ります。

エンドキサン=一般名シクロホスファミド
オンコビン=一般名ビンクリスチン
ダカルバジン=一般名も同じ
MIBG=一般名メタヨードベンジルグアニジン
スーテント=一般名スニチニブ
デムサー=一般名α-メチルパラタイロシン

治療の保険承認を一刻でも早く

季刊で出される会報
季刊で出される会報。中央にデザインされた「ブラウン・リボン」は、世の中に褐色細胞腫を知ってもらうためのシンボルマーク。現在、家族会員・賛助会員を含め、会員は66人

会では全国の会員を対象に、「みなさんが現在抱えている問題は何ですか?」というアンケートを実施。寄せられた回答の多くが「経済的負担」の問題でした。

「年間4~5クールの治療入院で、医療費負担が重荷です」

「MIBG治療を受けていますが、保険適応外のため高額なうえに、治療薬を個人輸入しなければならず、時間的、経済的に負担が大きい。保険適用を希望します」

「以前は3カ月に1度の入院治療でしたが、腫瘍が大きくなり、2カ月に1度CVD治療を受けています。健康保険組合から多少は還付されますが、出費が大幅に増えています。それも一生続ける治療なのです」

いずれも悲痛な声ばかりです。

会では厚労省に対して、「CVD治療、MIBG治療の保険適応」「MIBG治療薬、スーテント、デムサーの日本での承認」を速やかに行うよう要望書を提出して陳情を行っていますが、いまだ実現していません。

調査・研究を継続してほしい

会が製薬会社に協力を依頼し制作した点滴ラインの遮光フィルム
会が製薬会社に協力を依頼し制作した点滴ラインの遮光フィルム。CVD治療の薬剤ダカルバジンは、光に影響を受けて血管痛を引き起こすことがあるため、点滴ラインを遮光したいという会員の要望を元に実現した

もう1つ、会としてとくに訴えているのが、病気についての調査・研究の継続です。及川さんは語ります。

「この病気は人によって現れ方が違うし、治療法も違う。私のように一見すると元気な人もいれば、治療に次ぐ治療で手術を10回以上受けている人もいます。私の場合、主な症状は血圧上昇ですが、中には血圧は上がらずに高血糖になるタイプの人もいます。そうかと思えば、高血圧にも高血糖にもならない人もいて、きめ細かな個別治療が求められる病気です。それなのに希少疾患であるがゆえに研究が進んでおらず、特効薬もなく、病気のことをよく知るお医者さんも少ない。そのため、満足な治療を受けられずにいる人が少なくありません」

同疾患は、08年度からは「厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業」の対象になり、研究班(班長・成瀬さん)による調査研究が行われてきました。しかし、12年度以降、調査・研究が継続されるかは未定です。この調査・研究の継続を、会は訴えています。

「研究班による疫学調査も集積し、全国の患者総数がようやくわかってきたところ。治療法確立のための研究に、ようやく本腰を据えられる、まだ入口段階にすぎません。それなのにもし、調査・研究が打ち切られるようなことがあったら、これまでやってきたことが無駄になるばかりでなく、治療法の確立も遠のいてしまいます」

こう語気を強める及川さん。

「適応外治療薬の承認が進まないのは、希少疾患だからデータが集めにくいことが理由とされがちですが、外国ではすでに承認済みで普通に使われている薬剤です。もちろん、特効薬となるような新しい薬を作ってほしいという希望はあります。でも、今求めているのは、保険治療で最低限のことをしてほしいということであり、それで助かる人がどれだけいるか、諦めようとしていた治療にどれだけの人が踏み切れるようになるか、この意義をわかってほしい」

及川さんたちは今後も、厚労省に要請し続けていくことにしています。


褐色細胞腫を考える会

代表: 及川信
所在地: 〒224-0036 神奈川県横浜市都筑区勝田南1-1-5-B201
Eメール: brown@pheopara.com
ホームページ: http://www.pheopara.com


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