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一生飲み続ける慢性骨髄性白血病薬の経済的負担は「重い」
医療費負担の軽減のため高額療養費制度の見直しを!

取材・文:菊池憲一(社会保険労務士)
(2010年4月)

分子標的薬グリベック(一般名イマチニブ)などの登場で、慢性骨髄性白血病患者の生存率は飛躍的に延びた。
しかし、患者は高額な薬を生涯服用しなければならず、その経済的負担は大きい。慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」など血液疾患支援・患者団体4団体は共同で、医療費負担の軽減のため、高額療養費制度の見直しを訴えている。

負担軽減を課題に掲げた患者・家族の会を発足

写真:田村英人さん
「いずみの会」代表の田村英人さん

慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」は、「グリベック服用の負担軽減」を大きな課題に掲げて、「高額療養費制度の見直し」を提案している。

代表の田村英人さん自身、2003年4月、53歳のときに、慢性骨髄性白血病を告知された。同年6月から、グリベックを服用している。

幸い、グリベック寛解)に至ったが、病気が完全に治ったわけではない。寛解は、治癒、根治、完治とは違う。治療をしないでいると、白血病細胞が再び増えてくる可能性がある。そのため、グリベックなどの薬を、生涯服用しなければならない。しかし、薬は高額である。田村さんも、経済的負担に苦しみ続けている。

田村さんは病気になったとき、インターネットなどで情報を探し、いろいろな機会を求めて、フォーラムなどにも参加した。しかし、同じ白血病でも種類によって治療は異なり、病気に対する感じ方も違っていた。

「慢性骨髄性白血病の人だけが集まって、話し合える場がほしい、という意識が強くなりました」と田村さん。

血液がん患者会のNPO法人血液情報広場「つばさ」主催のフォーラムで、その思いを語ったら、代表の橋本明子さんらから応援を得ることができた。

2007年秋、慢性骨髄性白血病患者会発足の準備会を立ち上げて、同年12月、「いずみの会」を発足させた。

同会は、2009年4月、会員やフォーラムの参加者に呼び掛けて、アンケート調査を行った。

慢性骨髄性白血病患者が治療を受けるにあたって日頃から抱いている思いや、治療上困難に感じている点について把握し、よりよい治療方法について、患者さんの家族、または医療者、製薬会社への情報発信を行うことが調査の目的だった。

137人の回答からは、左記のような結果が出た。

慢性骨髄性白血病の治療では、「治療に関わる医療費の負担」を困難と感じる割合がとくに多く、経済的な負担が最も大きな問題であることが明らかとなった。

また、現在ほしい情報については「自身の今後の見通し」に次いで「医療費」が多かった。

田村さん自身、高額な医療費に苦しんできたから、この調査結果はよく理解できた。

寛解=病気の症状が軽減またはほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態

4団体共同で高額療養費の見直しを訴えていく

写真:09年12月、報道機関を対象とした「高額療養費に関する懇談会」を開催した
09年12月、報道機関を対象とした「高額療養費に関する懇談会」を開催した

2001年に登場した慢性骨髄性白血病治療薬グリベックにより、長期生存を期待できる患者は増えた。しかし、この治療には高額の医療費がかかり、また治療期間も生涯と長期にわたる。そのため、患者の経済的負担は大きい。

長期間にわたって、高い治療費を患者が負担しなければならない状況を受けて、昨年12月、「つばさ」「いずみの会」「日本骨髄腫患者の会」「骨髄異形成症候群(MDS)連絡会」の血液疾患支援・患者団体4団体は、「血液がん・高額療養費見直しを提案する連絡会」(代表・橋本さん)を発足させた。 4団体は共同で、高額療養費制度の自己負担上限額の引き下げを訴え、その早期実現を第一に目指す考えだ。

また、連絡会は昨年12月3日に、報道向けの懇談会を開催。

(1)がん・非がんすべての疾病ごとに「高額医療」を知識として集めて共有する、(2)地方自治体に医療費問題での協力を要請する、(3)シンポジウム開催(5月9日早稲田大学井深ホール)――など、今後の活動内容についても発表した。

高額療養費の払い戻し額は病院の領収書で予想できる

日本の健康保険法と国民健康保険法には、高額療養費制度がある。これは、被保険者()または被扶養者が同一の医療機関(薬局を含む)に対して、同一の月に、窓口で支払った医療費が自己負担限度額という一定の額を超えた場合、その超えた額を還付する制度である。

自己負担限度額は、40頁表のように年齢や所得によって多少異なる。また、高額療養費の支給要件、払い戻し額などは、医療機関から全国健康保険協会や健康保険組合などの保険者()に提出されたレセプト(診療報酬明細書)1件ごとに、保険者が確認する。そのため、高額療養費制度による払い戻しがあるかどうかは、患者側にはわかりにくい。それでも、病院の領収書と薬局の領収書を見れば、予想はできる。

例えば、所得が「一般」に区分される50歳代の被保険者Aさんが外来通院をした場合、次のようになる。

外来診療費の領収書の合計保険点数と、薬局の領収書の合計保険点数を足した保険点数に10円をかけた額が表の「医療費」となる。この額を表の計算式に入れて計算すると、「自己負担限度額」が出てくる。実際に医療機関の窓口で支払った額から自己負担限度額を差し引いた額が「高額療養費」として、Aさんの個人口座に払い戻されることになる。

被保険者=健康保険に加入し、病気やけがなどをしたときなどに必要な給付を受けることができる人
保険者=健康保険事業を運営するために保険料を徴収したり、保険給付を行ったりする運営主体

[70歳未満の方の高額療養費自己負担限度額]
(70歳以上の方と70歳未満の方の世帯合算を含む)
区分 表記 自己負担限度額 12カ月の間に4回以上対象となる場合の
4回目からの自己負担限度額
一般 B 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 44,400円
上位所得者
(国民健康保険税の算定の
基礎となる基礎控除後の所得が
600万円を超える世帯)
A 150,000円+(医療費-500,000円)×1% 83,400円
市民税非課税世帯 C 35,400円 24,600円
[70歳以上の方の高額療養費自己負担限度額]
区分 自己負担限度額
外来
(個人ごとに計算します)
世帯単位で入院と外来が
複数あった場合は合算します
一般12,000円44,400円
現役並み所得者44,400円80,100円+(医療費-267,000円)×1%
(4回目から44,400円)
市民税非課税世帯II8,000円24,600円
I15,000円
医療費の総額(10割)となります

患者負担は薬代だけで年間約60万円!

グリベックの「薬剤料(薬価)だけ」にしぼって、試算してみると――。

グリベックの薬価は、3128.5円。標準的には、1日4錠服用する。外来通院で、医師からグリベックを1日4錠、4週間分(28日分)を処方してもらうと、保険点数にカウントされる薬剤料だけで35万円ほどになる。患者の自己負担割合が3割なら、Aさんが医療機関の窓口で支払う額は、薬剤料だけで10万5000円ほどになる。

表の式で計算すると、自己負担限度額は8万0930円。窓口で支払った額10万5000円から、自己負担限度額8万0930円を差し引いた2万4070円があとで払い戻される。

Aさんは、10月中、11月中、12月中に、外来通院で、グリベックの4週間分の処方を受けた。3回とも、同じ計算式にもとづいて、高額療養費が払い戻された。翌年1月中の外来通院のときは、「多数該当」となり、自己負担限度額は4万4400円に軽減された。診療を受けた月以前12カ月以内にすでに3回以上高額療養費が支給されているときは、4回目から自己負担限度額が軽減される。Aさんの場合、翌年1月中に受診したとき、この多数該当が適用された。窓口で支払った10万5000円から、自己負担限度額4万4400円を差し引いた6万0600円があとで払い戻された。もし、翌年2月中、3月中……という月1回の外来通院リズムで、4週間処方を受け続けたら、毎回、自己負担限度額4万4400円が適用される。

しかし、自己負担限度額が4回目以降、4万4400円となっても、薬代だけで年間の負担額は約60万円(4回目以降、4万4400円×12回=53万2800円)にものぼるのだ。

処方間隔を3カ月にすることで負担は減少

薬の投与量は、厚生労働省の「規則」「告示」などで、1回14日分、30日分、90日分を限度とする、などと決められている。この「規則」「告示」などを調べた結果、グリベックには投与期間の上限が定められていないことがわかった。

「直近12カ月の間に、4回以上対象となる場合の自己負担限度額は4万4400円と定められています。そのため、現状制度での経済的負担額の低減方法としては、処方間隔を3カ月(90日分)にすることで患者さんの負担はとてもミニマムになります」(田村さん)

この方法を、Aさんのケースで試算してみると……。

Aさんが、医師の理解と協力を得て、3カ月処方に切り替えると、年間の自己負担限度額は17万7600円(4回目以降、4万4400円×4回)となり、4週間処方に比べて、年間35万5200円(53万2800円-17万7600円)も医療費負担が軽くなる。

現状制度での負担軽減法を周知徹底していく

「まずは、グリベックの3カ月処方で慢性骨髄性白血病患者さんの医療費負担が軽減できるように、この方法を周知徹底するための広報活動に取り組んでいきたい。また、今後は、長期治療中の患者さんの負担軽減のために、高額療養費制度の自己負担限度額をもう少し生活実感に近い金額まで引き下げられないか、など制度そのものの改定を訴えていきたいと思っています」と田村さん。

1疾病、1剤、1治療法に焦点を当てるのではなく、高額療養費制度自体の改定を、連絡会として訴えていきたいという。

「最終的な夢は、慢性骨髄性白血病の治癒につながる薬が開発されることです。そうすれば、薬を一生服用する必要もなくなり、経済的な問題もなくなります。患者、医療従事者、製薬会社が協力し合い、情報交換をして、思いが1つの方向にまとまるように今後も努力していきたいと思います」(田村さん)


慢性骨髄性白血病(CML)患者・家族の会 いずみの会
代表 田村英人
〒229-0012 神奈川県相模原市西大沼5-20-13
問い合わせ
FAX 042-745-0989
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