ストーマについての情報がもっと欲しい、そしてオストメイトの実情をもっと知って!
若い女性オストメイトたちよ「1人で悩みを抱えないで」

取材・文:増山育子
発行:2010年2月
更新:2013年4月

  

がんになるだけでも大変なのに、その上にストーマ(人工肛門・人工膀胱)となった若い女性たち。ストーマケアはどうすればいいの? 結婚は? 妊娠・出産は? 仕事は? ……悩みはデリケートで深刻だ。そんな女性オストメイトたちの患者会「ブーケ」が、設立10周年を迎えた。ともすると不安や心配、恐怖で押し潰されそうになる女性オストメイトたちに捧げる言葉は、「あなたは1人じゃないよ」。


ストーマ患者会といえば「社団法人日本オストミー協会」が有名だ。実はこのオストミー協会の会員は高齢者が多いという特徴があり、若い女性オストメイト()は世代間ギャップを感じることも多いという。

オストメイト=人工肛門・人工膀胱保有者

ストーマ管理の悩みは同じだが、世代独特の悩みはどうする?

写真:ブーケを支えているスタッフたち
ブーケを支えているスタッフたち(真ん中が工藤さん)

21年前、23歳で直腸がんのためオストミー()手術を受けてオストメイトになった「若い女性オストメイトの会『ブーケ』(以下、ブーケ)の工藤裕美子さんは、オストミー協会の交流会に行くと両親よりも年上の人ばかりで、可愛がってもらったけれど仕事や恋愛・結婚、妊娠・出産について話題にするのは場違いな気がしたと振り返る。

「ストーマケアに関する悩みは同じでも年代によって切実な問題は何なのかが違いますね。若い女性特有の悩みを相談できる場がほしいと思ったのがブーケ発足のきっかけでした」

やがて工藤さんはオストミー協会を通じて同年代の女性オストメイトたちと出会う。彼女たちとならば悩みや問題を共有でき、心身両面の苦痛がわかりあえるのだ。同じ体験をした人が頑張っていることを知れば元気が出る。1人じゃないってとても大切……そう確信した。

そこで1999年、仲間5人で『ブーケ』を発足させ、工藤さんが事務局を引き受けた。はじめは会員になる人がいるのかと不安に思ったが、10年を経た現在、会員数331名の大所帯となった。

「ここに仲間がいるよ、悩みを1人で抱え込まなくていいのだということを、誰にも相談できずにいる若い女性オストメイトに伝えていきたい」。それがブーケ誕生から今まで、そしてこれからも変わらぬ願いだ。

オストミー=肛門や膀胱の機能を失い、排泄物を排出するために腸管に人工的に設けた小孔。この小孔を腹壁に導き、設けた開口部をストーマという。
オストミーには、結腸人工肛門(コロストミー)、回腸人工肛門(イレオストミー)、人工膀胱(ウロストミー)などがある

まず医療者にオストメイトとストーマケアを知ってほしい

「一般の方はもちろん、医師や看護師さんもストーマをわかってないですよ!」

会員のMさんは、自分のストーマ造設のことを思い出して不満を口にする。Mさんのストーマ造設は緊急手術だった。その病院の医師も看護師も、突然オストメイトになり不安でいっぱいのMさんの疑問に何も答えられない。Mさんは愕然とした。

「大腸を切って、お腹に排泄口を作って、それで終わり? これの扱い方、説明してよ!」

オストメイトと言っても十人十色。ストーマ周辺の状態や皮膚の敏感度など個人差が大きく、さまざまな要因を考慮して自分にフィットするストーマ装具を選ばなくてはならない。そしてそれとの付き合いはずっと続き、ときには排泄物の漏れや皮膚のかぶれ、痛み、痒みなどのトラブルにも見舞われる。「何年たっても失敗したときは落ち込んで、涙ながらに後始末をする」と多くの人が胸の内を語る。

Mさんにストーマケアについて教えてくれたのは病院のスタッフではなく、装具販売店のWOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)だった。WOCナースとはストーマケアの専門知識・技術をもつ、認定された看護師の呼び名である。オストメイトにとって頼りになるWOCナースは増えたとはいえ、まだ十分な数には達していない。

その後、Mさんはストーマ外来()のある病院に転院した。転院先の病院ではWOCナースが親身に話を聞いてくれる。

「ただストーマ外来はいつも予約でいっぱい。トラブルが起きて診てほしいときに診てもらえるわけではありません。それで受診が遅れて重症になったらと思うと心配です」

ストーマ外来=医師や皮膚・排泄ケア認定看護師などにより、ストーマの問題や生活の心配事などの解決を目指し、専門的にご相談に応じる外来

どこにいてもストーマの十分な情報が欲しい

写真:書籍「元気の花束」や会報誌「ブーケ」、10周年記念誌「花束のおくりもの」

ブーケ会員さんたちの声がぎっしり詰まった書籍「元気の花束」や会報誌「ブーケ」、10周年記念誌「花束のおくりもの」

ブーケが2年毎に実施する会員へのアンケートではストーマ外来の受診頻度について調査しており、「定期的に受診している」が2割程度、「過去に受診したが現在は通っていない」「不定期な受診」「または受診したことがない」がそれぞれ2割から3割弱という結果が出ている。

「退院後のケアの不安などで相談できる場があればよいと思う」「副作用や合併症で悩んでいるので術後のアフターケアをしてほしい」「どこの病院、どこの科でストーマを造っても、公平に十分にストーマケアを受けられるよう願っています」「造設時はもちろん、何年たってもデリケートな問題なので配慮してほしい。ほかの患者さんに聞こえるようなところでストーマケアの話をするのはやめてほしい」「近隣にストーマ外来ができてほしい。通院先の病院でも専門の医師や看護師の方に気軽に診てもらいたい」「入院中にできるだけたくさんのメーカーの装具を試して自分にあったものを教えてほしい」……。これはアンケートの自由記載欄に記された文章の1部である。

工藤さんは「05年と09年の結果をくらべても自由記載の欄に書き込まれる医療者へ願うことの内容に変化がありません。オストメイトをめぐる医療は私たちが期待するほど変わっていないということでしょう」と指摘する。

ブーケのアンケート調査は会員の特徴、福祉制度、ストーマ装具、医療、災害時の備えという項目で集計され、冊子やホームページにまとめられている。自分たちの医療に対する想いのすべてを医療者に届けたいと、WOCナースを通じて病院やストーマ装具類を扱うメーカーにも配布している。

ストーマ装具の進化と限界究極の装具とは?

工藤さんが手術を受けた21年前、病院で紹介された装具は、袋に糊がついているだけでとても社会復帰できる代物ではなかった。

それから装具は進化した。

メーカーは機能性、利便性、快適な使用感を追求して工夫を凝らし、種類も豊富だ。そのぶん数ある装具の中から自分にあうものを見極めるのが大変になった。排泄物の漏れ、周辺の皮膚のかぶれ、臭い、音。気になることをあげればきりがない。自分にぴったりフィットするものにあたればいいが、そうでもない場合がほとんど。装具があわないと仕事はおろか生活そのものがままならない。ある会員はサンプルを取り寄せて使ってみるのだが、本当の使い心地がわかるまでに使い切ってしまうのが常だと話す。また調子よく使っていた装具が製造中止になることもある。

がん闘病と並行して行うストーマケアが楽であればどれだけ患者は救われるか。

「希望は全員がぴたりとあう装具をつけられること。つまりはオーダーメイドですね。そのための問題としてはお金でしょうか。でも私たちは生活に支障が出てくるのですから制度として考えていただきたいです」

本当は話したかったことをわかり合える仲間がいる喜び

先出のアンケートでは会員がブーケに望む活動は大きく2つに分けられる。

1つは「会員同士の交流」。仲間作りだ。

緊張しながら交流会に足を運ぶのだが初対面にもかかわらずすぐにうちとけ、まるで初めて会った人たちとは思えない。1時間後にはメールアドレスや携帯の番号を教えあっている。

オストメイトであるがゆえに普段封印してきた「しゃべりたいこと」がたくさんある。家族や友人や、ましてや主治医や看護師にさえわかってもらえなかった思いもここで話せばわかってもらえる。その安心感はなにものにもかえがたい。

外出が無理な会員さんは交流会などに参加できないが、会報やメーリングリスト、ホームページで悩みを相談したり、アドバイスし合ったりが可能だ。

中途半端な知識ではなく、デリカシーをもって接してほしい

写真:10周年記念イベント

10周年記念イベントでは太田クリニック院長の太田昌資さんが講演を行ったほか、京都橘大学看護教育研修センターの判澤恵さん、ブーケ会員である声優の真山亜子さんの記念講演も行われた

もう1つ、ブーケ会員が望むのは「オストメイトのQOL(生活の質)を高める活動」である。

たとえば「装具メーカー・医療機関への提案」や「オストメイトへの理解を社会に求める働きかけ」などだ。

一般にオストメイトという言葉を聞いたことがある、オストメイト用トイレについて知っている人は増えているようだ。

しかしそれは著名人が「大腸がんでオストメイトになりました」と公表するのをテレビで見てイメージづけられたという程度で、オストメイトみんながその人と同じ状況だと誤解される危険がある。一見知られているようだが、実はよく知られていない中途半端な状態となってしまうわけだ。

オストメイトたちは自分たちについて正しく知って理解してほしいと思う一方、排泄に関することだから隠したいし、知られたくないという気持ちもあって胸の内は苦しい。相手が体についてデリケートになっていることを思いやるといった、そういう気持ちがあれば、デリカシーのない言動でオストメイトを傷つけることはなくなるのではないだろうか。

ブーケ設立から10年。工藤さんは、つらい思いをしているオストメイトに「1人じゃないよ」と訴え続けている。


若い女性オストメイトの会『ブーケ』
事務局 工藤裕美子
TEL:03-5821-2151 FAX:03-5821-2156
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