がんの子どもの生活支援策を、医療者・学校・保護者の連携から推進しよう

学校へのスムーズな復学で小児がんの子どもたちに学力の保障を

取材・文●増山育子
発行:2013年2月
更新:2013年5月

  

エスビューロー代表の安道照子さん

エスビューロー事務局長の長澤正敏さん

NPO法人エスビューロー
TEL/FAX:072-622-6730 E-mail:esbureau@hcn.zaq.ne.jp
ホームページ:http://es-bureau.org
<本部事務局> 〒659-0015 兵庫県芦屋市楠町8-13
<大阪支部> 〒567-0047 大阪府茨木市美穂ヶ丘3-6-403

がん治療による入退院のために通学できない場合、現行制度では教育を受けられない「学習の空白期間」が生じやすい。がん闘病中といえども学齢期の子どもには教育の機会が保障されなければならない。小児がんの家庭を支援するNPO法人エスビューローは、闘病中の子どもの学習を支援するサポートシステムを始動させた。この問題は、公教育とNPOなどの民間が協力して進めていくべきだと訴える。

公教育だけでは無教育になることも

がん治療中の子どもに「学習の空白期間」が生じるのはなぜか。NPO法人エスビューロー事務局長・長澤正敏さんは、次のように指摘する。

「入院中の小中学生の教育を担う院内学級は小児がん治療を行う病院すべてに設置されているわけではありません。院内学級がないところでは病院のある地域の特別支援学校が実施する訪問学級が利用できますが、教師の訪問回数には限りがあり、学習時間が不足しがちです」

そもそも院内学級はその病院を校区に含む地域の小中学校や特別支援学校が分教室として病院内に設置するものだ。子どもは地元の学校から院内学級を設置する学校へ転校しなくてはならない。退院して地元の学校に戻るのにも、再び転校の手続きが必要だ。

そのため、化学療法の合間に一時退院したときや自宅療養をする場合も、この学籍の移動がネックとなって、学習の空白期間になる可能性がある。かねてより、この問題の打開のために患者会や医療者・教育者らが、地元の学校と院内学級の両方に学籍をおけるよう(二重学籍)要望しているが、いまだにかなっていない。

さらに深刻なのは高校生だ。高校生の院内学級は全国的にも数カ所あるだけ。特別支援学校の高等部に転校するのも現実的には選択しにくく、がん治療中の高校生が学ぶ体制はほとんどないのが現状である。

学習の空白期間を埋める「ネットでeクラス」

このような状況を改善させる支援策はほとんど見当たらないが、エスビューローによる「ネットでeクラス」という1つの試みがある。

これは、インターネットに接続できる環境であれば、自宅でも病院でも使える遠隔学習システムだ。

教科書に準じた動画教材がそろっているほか、テレビ会議システムを用いて専門の研修を受けたボランティア講師から個別指導を受けられるので、体調や進度に応じて勉強を進めることができる。講師にはかつて小児がんを経験した大学生も採用されている。

エスビューロー代表の安道照子さんは言う。

「子どものときに闘病体験をした者同士だからこそ、わかりあえることがあります。このシステムを立ち上げたのは、当事者同士が話し合える場をつくるという目的があったのです」

脳腫瘍を患い「ネットでeクラス」に参加する中学1年生の女の子は、「病気の後遺症のため字を書くのも遅いので、学校では授業についていくのが大変です。『ネットでeクラス』では、病気のことを知っている人に自分のペースで教えてもらえるので、安心して勉強できます」とのこと。

長澤さんは、「公教育だけでは、小児がんの子どもたちの学習期間の空白は埋まりません。私たち民間のNPOなどが公教育と連携して、補っていかないといけないのです」と必要性を強調する。

円滑な復学に欠かせない学校との連携


小学4年生から高校3年生まで最大で20人が、インターネットのテレビ会議システムを使った支援を受ける。講師との1対1の「個別学習」、および、みんなで集う「ホームルーム」とがある。左はネットでeクラスを紹介するDVD

治療を終えて地元の学校に戻るときには、「運動ができないので体育は見学する」「治療による視覚障害で黒板の文字が見えにくくなったので席を一番前にする」など、さまざまな配慮が必要になる。これらの配慮がなければ、学校生活が難しくなる。一方で、必要な配慮に対するクラスメイトからの誤解や偏見を受けて、学校へ行きにくくなる子も少なくない。

したがって、子どもへの配慮が特別視されないためには、クラスメイトへの説明も大切になってくる。説明に際しては、親や学校、医療関係者が連携して、正しい知識と情報をクラスメイトに伝わるようにする。

長澤さんは「復学をスムーズにするためには入院中に子どもと学校とのつながりを保つことがポイントです」と話す。

「院内学級や訪問学級に転校すると、その子の席や靴箱が取り除かれることはよくあります。クラスのなかでその子の存在が忘れられないよう、学校の先生はクラスメイトにその子にあてた寄せ書きを書いてもらい、それを持ってその子のお見舞いに行ったり、院内学級でも地元校で使われているプリントやテストを活用するなど、つながりを維持する努力をしてほしいのです」

退院が近づいたら、主治医、学校の担任・校長や主任などの管理職・養護教諭、院内学級の担当者、保護者が退院後の学校生活を話し合う場をもつことも重要だ。しかし実際には、そういった話し合いの場がきちんと持たれることも少ないという。なぜなら、学校も小児がん治療後の復学支援の経験をもつ場合も少ないため、どうしたらいいかわからいケースが多いからだ。実際、親の働きかけで、初めて退院後の学校生活について話し合いがもたれることも多い。

エスビューローは、「小児がんの子どもの復学を関係者がどのように連携して支えればよいか」を伝えるために、復学ガイダンスのドキュメンタリーDVDを作成した。

「小・中学校の関係者の方々や、院内学級、小児がん患者家族や医療関係者の方々に、ぜひ見ていただきたいです」と長澤さんは話す。

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