小児特有のがん「肝芽腫」。この患者会がつなぐ「患者-医療者」の交流
がんの子どもたちが笑顔でいられるよう「疼痛緩和」のための医療連携を

取材・文:町口 充
発行:2012年10月
更新:2013年5月

  
神原結花さんと高橋直美さん

「肝芽腫の会」共同代表の神原結花さん(左)と高橋直美さん(右)


「小児がんが治っても治らなくても、治療を続けていても続けていなくても、がんばっている子どもたちが少しでも笑顔ですごせるようにしてあげたい」との思いから、小児がんの疼痛緩和の取り組みを積極的に行っている「肝芽腫の会」。違う病院の医師同士など、それぞれの立場の違いを超えた連携こそが重要と訴えています。

乳幼児に多いがん「肝芽腫」

肝芽腫の会発行の冊子

肝芽腫の会発行の冊子。希少な病気のためなかなか入手できなかった治療に関する情報を各専門科の医師にチェックをしてもらい、1冊にまとめたもの

肝芽腫は子どもの肝臓にできるがんの1つ。ただし発症率は低く、小児がん全体の約1~2%で、日本では年間25~40人ほどが発症しているといわれます。主に0~4歳までの乳幼児に多い病気です。

肝芽腫の子どもの親たちでつくる肝芽腫の会が発足したのは2003年2月のことです。

共同代表の1人、神原結花さんの場合、長男が2歳のときに肝芽腫を発症。小児がんの専門医がいる神奈川県立こども医療センターで手術と抗がん剤による化学療法を受け、1年後に退院。15歳になった今は高校1年生となり、晩期障害はいくつかあるものの、工夫と努力をしながら元気に毎日をすごしています。

もう1人の代表である高橋直美さんの場合は00年、長男が1歳になるときの健診で肝芽腫が見つかり、やはり神奈川県立こども医療センターに入院。しかし、手術のあとも再発を繰り返し、闘病が続きました。

肝芽腫は患者数が少なく、同じ病気を抱える仲間同士が出会うことは稀です。神原さんと高橋さんは、たまたま同じ病院で治療を受けたことをきっかけに出会い、親の会である「肝芽腫の会」を発足させました。

その後、高橋さんの長男は治療の甲斐なく05年に亡くなりました。しかし、高橋さんは「自分が経験したことを少しでも多くの人に伝えたい」と引き続き会のメンバーとして活動しています。

「疼痛管理」対照的だった2つの例

希きしょうしっかん少疾患のため会員数は少ないし、また、全国に散らばってもいるため、インターネットを通じた交流がメインとなっていますが、08年からは年に2回のシンポジウムを開催。テーマは「小児がんの疼とうつうかんわ痛緩和」です。

シンポジウムを始めたきっかけは、その前年の同じ時期に会員の子ども2人が経験した、あまりに対照的な疼痛管理でした。

1つは北海道の子どものケースです。

手術や抗がん剤治療を行いましたが再発。激しい痛みを訴えるようになりましたが、主治医は当初、「気のせいだ」となかなかとりあってくれず、結局、痛みを抑えられないまま、その子は亡くなりました。

今では、「疼痛ケアとは、終末期に限らず、治療の最初から取り組むべきこと」との認識が、普及しつつあります。それでもまだまだ、医師でさえも疼痛管理についての正しい知識を持ち合わせていない実態があるのです。

医師個人の問題ではなく連携のないことが問題

もう1つは群馬のケース。こちらは、主治医が病院の中だけでなく地域のペインクリニックとも連携。疼痛のコントロールがうまくでき、笑顔ですごすことができました。

神原さんは言います。

「疼痛管理は医師個人の技量の問題ではありません。この2つの例からは、医師が対応できないときは、ほかの医師などと連携するべきなのに、その体制ができていないことを感じました。その結果、不利益を被るのは患者ですから、医療者同士のネットワークを何とか少しでも広げてほしい。そのためには患者の親である私たちが声を上げていかなければと始めたのが、このシンポジウムです。神奈川県立子ども医療センターの血液再生医療科が全面的に協力してくださり、継続して開催しています」

ホンネが飛び出す白熱の討論

シンポジウムは講演のあと、参加者全員によるディスカッションが行われるのが特徴。

「医師も看護師も薬剤師も家族も、同じ1つのテーブルを囲んで対等に話し合うようにしています。そうすると、自分の世界では当たり前だったことが別の世界ではまるで知られていなかったりして、『え?そうなの?』という発見が毎回あるんです。患者に対しても『本当のところはどうなの?』と聞かれるので、私たちもホンネの話ができます。だから普通のシンポジウムとは違って、白熱のディスカッションという感じですね」と高橋さん。

メインテーマは「疼痛緩和」ですが、「痛み」にかかわるさまざまな問題について議論しています。これまでのテーマは、「医療用麻薬の誤解を解く」「知っておきたい栄養の基本」「化学療法時の口腔・消化器症状の緩和」など、「がんの子どもが笑顔でいられるにはどうしたらいいか」をめぐり、活発な討論が行われました。

神原さんは言います。

「がんに伴う痛みを取り除くことは、病気に立ち向かうためにも、その人の生きる力を最大限に引き出すためにも必要なことです。異なる施設の医師や病院同志の連携が必要な場合も多々あります。そのような連携を築くためにどうしたらいいか、意見を交換し合う場がこのシンポジウムです」

シンポジウムに1人でも多くの人に参加してもらい、得られた成果を医療の現場に

神原さん、高橋さんの願いは、シンポジウムに1人でも多くの人に参加してもらい、得られた成果を医療の現場に広げていきたいということ。第10回のシンポジウムは、9月22日に開催予定。午後1時から5時、場所は神奈川県立こども医療センター本館2階講堂にて行われる

シンポジウムの要旨をダイジェストする会報「えがおロク」(左)と会のパンフレット(右)

シンポジウムの要旨をダイジェストする会報「えがおロク」(左)と会のパンフレット(右)

親の訴えによる医療連携で笑顔の療養が実現

会が作成した、緩和ケアについてのリーフレット

会が作成した、緩和ケアについてのリーフレット。「がんの痛みにはどのようなものがあるか」「痛みは取り除くことができるものである」など、痛みの緩和を求める人が、だれでも手軽に周囲の関係者に提案しやすいよう、要旨を1枚のリーフレットスタイルにまとめてある

連携の大切さをあらためて知る出来事がありました。

肝芽腫の会の会員の子どもが、ある大学病院に入院中でした。「子どもが強い痛みを感じたときに自分で鎮痛剤を打てるようにしてほしい」と願い出たところ、主治医は「それはできない」という返事でした。

そこでその親は、会の協力医の1人に相談。大学病院に協力医の意見を伝え、その病院では使っていなかったPCAポンプ(患者が自分で鎮痛剤の点滴を調節できる装置)をレンタルで導入してもらい、子どもの笑顔を取り戻すことができました。

また、肝芽腫の会では、緩和医療の大切さを知ってほしいとリーフレットも作成。同会のホームページから自由にダウンロードできるようにしています。

成長してから出る「晩期障害」への助成を

[晩期障害の内訳](会のアンケートより/33人中)

晩期障害の内訳(会のアンケートより/33人中)

回答者33人中、15人が「晩期障害がある」と回答。「いわゆる晩期障害といわれるもの以外に気になる症状」への回答には、「自閉症などの発達障害がある」「言葉の遅れ」「同年齢に比べると理解力が低いと感じる」「疲れやすい」「風邪などの感染症にかかりやすい」「腹痛を訴えることが多い」などの回答が複数みられている

さらに神原さんらが訴えているのが晩期障害の問題。小児がんの治療は進歩していて、治癒する割合も高くなっていますが、その一方で成長期に抗がん剤や放射線治療を受けた影響で、治療終了後、何年もたってから、治療の副作用があらわれることがあります。

しかし、小児がんの治療と晩期障害の関係についてはまだ明らかになっていないことが多く、成長してから「晩期障害では?」と疑われる症状が出ても、それを証明するのがなかなか難しい、と神原さんは語ります。

小児慢性特定疾患に対しては医療費助成の制度があり、肝芽腫もそれに含まれていて治療費は公費負担。ところが、治療終了後5年がたつと、再発と認められた場合以外は助成を打ち切られてしまいます。つまりそれ以降、晩期障害が出たとしても、医療費助成を受けることができないのです。

「それに、以前は助成対象が20歳未満までとなっていましたが、予算が削られ18歳未満までと変更されました。とくに肝芽腫のような5歳以下で発症する病気の場合は、大人と違って、成長してからいろんな晩期障害があらわれることが予想されます。国や自治体は未来のある子どもたちのため、長期にわたるフォローアップをぜひとも講じてほしいと思います」

このように、2人は訴えています。


肝芽腫の会

E-mail: kangashunokai@zd.wakwak.com
ホームページ: http://enjoy.pial.jp/~kangashu-no-kai/


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