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ウェラー・ザン・ウェルの会 会長/川竹文夫
目指すのは「がんになる前よりも、さらに健康で、もっと幸せな人生」
かわたけ ふみお
NPO法人「ガンの患者学研究所」代表でもある。1990年、NHKのディレクターとして番組作りに携わっていた当時、人間ドックで腎臓がんの診断を受ける。93年にがんの自然退縮をテーマに「人間はなぜ治るのか」(教育テレビ)を制作、以来心のありかたからがんとの関係を考える運動を展開している。
たわら もえこ
大阪外国語大学卒。サンケイ新聞記者を経て1965年より評論家・エッセイストとして活躍。95年より群馬県赤城山麓の「俵萠子美術館」館長。96年乳がんで右乳房切除。01年11月、「1・2の3で温泉に入る会」発足。
個人相談のできる場を作ろうと発足
俵 「ウェラー・ザン・ウェルの会」は、川竹さんが代表をつとめておられる「ガンの患者学研究所」が運営母体になっているようですね。一方、「ガンの患者学研究所」のほうも、「『患者による、患者のための』ボランティア団体」とホームページにありますから、一種の患者会と呼べると思うのですが、二つの団体の関係は正確にはどんなものですか?
川竹 「ガンの患者学研究所」のほうは97年に私が設立したNPOで、三つの目標を掲げています。その一つめが体にやさしいがん治療の普及、二番目ががんを治す最大のカギと言われる心の癒しを得られるよう患者を励ますこと、そして三番目がすべての患者ががんになる以前より心身ともに健康で幸せな人生(ウェラー・ザン・ウェル)を実現できるよう支え合うこと、ですね。
具体的にはがん患者と家族の方を対象にした、ワンデー・セミナーや講演会を開いたり、『いのちの田圃』という月刊誌を発行するといった活動をしています。
「ウェラー・ザン・ウェルの会」はそうしたセミナーや講演会の参加者の中でも、特に熱心な方たちに会員になっていただき、主に参加者から受ける相談を軸にした例会を開催しています。最初は個人相談をお断りしていたのですが、深刻に悩んでいる方や体力的にセミナーに参加できない方も多いので、個人相談を受けられる場を作ろうと発足させました。月に3回限りですが、電話相談も受けています。
俵 「ガンの患者学研究所」はいろいろな事業を手がけるNPOであり、その活動のひとつとして「ウェラー・ザン・ウェルの会」という患者会を運営しているわけですね。会員は今800人くらいだそうですが。
川竹 どんどん増えているので、800人は超えているはずです。ご家族を加えると1000人以上になると思います。
俵 例会はどんなふうに進めますか。
川竹 まず、参加者がグループに分かれます。各グループにがんが治った先輩が二人ついて、参加者の悩みを聞き出します。 そのあと、グループごとに「こんな話がありました」と結果を発表し、出てきた問題について全員が一緒に考える合同ミーティングを行います。もちろん私も積極的にアドバイスします。 治療をいやがる夫を家族としてどう支えたらいいでしょうとか、主治医とうまくいかないとか、出てくる悩みは本当にさまざまですね。
NPO法人が運営の母体である利点
俵 会員になる方は、ほとんどが「ガンの患者学研究所」のセミナーや講演会の参加者なんですか。
川竹 ワンデー・セミナーには必ず一度は参加していただいています。
俵 セミナーは有料ですか。「研究所」ではビデオも販売していますね。
川竹 そうですね、ワンデー・セミナーの参加費が2500円で、私個人のリレー講演が2000円です。ビデオ『ガン・完全治癒の法則』は全3巻で1万2000円です。
実は、「ウェラー・ザン・ウェルの会」の入会資格は、がんの患者さんかその家族であること、このビデオと私の著書『幸せはガンがくれた・心が治した12人の記録』を購入していただき、『いのちの田圃』を年間予約購読していただくこと、なんです。入会金も会費もいらない代わり、この3点セットで「ガンの患者学研究所」の考えを理解してください、ということですね。
俵 運営母体がNPO法人だから、収入活動をしてもいいわけですね。
昨年の3月には、「ガンの患者学研究所」ではがんを克服した人100人と患者1000人を集めた『千百人集会』という一大イベントもなさったでしょう。あのときは宿泊代などを除く純粋な参加費が7000円で、かなり高かったですね。うちの会からも何人か参加したはずですが、がんの治療費も3割負担になって、患者の経済的負担が増している今日、行けませんという人も多かったの。
川竹 金額ではずいぶん悩みました。あれだけの人数が集まる会場を2日間借り切るなど、経費は事実かかったんです。ただ、一切後援を受けなかったので、あのくらいの金額にせざるを得ませんでした。企画段階から、『健康食品のサンプルを配らせてくれたら300万円寄付する』といった話はいっぱいありましたが、全部断りました。
俵 本当に、会を作るとそんな話ばかりね。でも、がんの無料イベントがたくさんある時代に、NPOで独立採算でやっていくというその運営形態を貫くのは、大きな課題ですね。
事務局は何人いらっしゃるの。 有給の方もいるんですか。
川竹 今は12人です。全員有給です。どんなにいい活動をしていても、お金がなければ続けられませんし、広がっていきませんから、そこは本当に神経を遣います。
活動費を捻出するために、私は多いときは月に10回以上、全国を講演して回っています。もちろん私はいっさい無給です。
俵 私の会もNPOにと思うんですが、経理などがたいへんなのね。経理専門のスタッフもいるんでしょう。
川竹 います。NPO法人独特の帳簿のつけ方もあるので、研修に行ってもらって厳守しています。
俵 セミナーの参加費や雑誌の購読料などで、ペイできているの?
川竹 だいたいペイしています。
俵 それはすごいわねえ。
魚は差し上げません。釣り方を考えましょう
俵 もうひとつ、特にお聞きしたいことがあるんです。私自身、「再発したけど抗がん剤治療はいや」といった相談を受けることが多いんですが、医者ではないからちゃんとした返事はできません。そういう場合、どうしていますか。お金をもらっている以上、なおさらきちんと答える責任があると思うんです。
川竹 一言で言うと「魚は差し上げません。釣り方を一緒に考えましょう」とお答えしています。
私はNHKのディレクターだった在職中に『幸せはガンがくれた?』を出版していたので、当時からときどき相談の電話が来ましたが、当時は深く考えず、「○○がいいんじゃないですか」なんて答えていました。でも、それは患者さんに対して本当の親切にならないんですね。大事なのは、あくまで自分の知識と判断力と責任で選ぶ能力を身につけることです。
ですから、「もし再発したら、川竹さんならどこの病院に行きますか」といった質問にも、絶対に答えません。冷たいと言われることもあります。
俵 安心しました。患者はつい、あなたならどうするとか、自分の奥さんだったらどうするか、などと聞きたくなりますが、患者にならなければ患者の気持ちはわからないし、患者だって一人ひとり皆さん違っていて、同じ立場の人などいないのですから。
川竹 がんの特効薬がない以上、どの治療法を選ぶかはこれから先の生き方を選ぶことと同じです。つまり、その人に代わって生きられない私が、治療法を選ぶことなどできません。私自身の手間を考えても、この病院がいいですと答えれば5秒ですが、なぜ答えられないかを説明すると30分もかかる。教えられるなら教えたい。けれども、それはできないし、やってはいけないことだから、延々と時間を割いて話をする。食い下がる人には、そう説明しています。
俵 私も、再発した人と会ったときにどう対応したらいいか、悩んでいます。朝、美術館のドアを開けるとポツンと立っていて、私の顔を見たとたん、ポロポロ涙をこぼした人がいた。「再発しました」と言われても、私には何も言ってあげられない。でも、泣かせてあげる人や場所だって、必要だと思うんです。川竹さんのご活動には、そうした意味もあるのでしょうか。
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