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子宮・卵巣がんのサポートグループ あいあい 運営メンバー/まつばらけい、大谷勝子
活動が風穴となって医療の透明性を高めるきっかけに
まつばら けい
2000年に子宮がんの手術を受け、同年、患者なかまや協力者らとともに「あいあい」を立ち上げる。共著書に『なぜ婦人科にかかりにくいの?』(築地書館)、『子宮・卵巣がんと告げられたとき』(岩波書店)などがある。
おおたに かつこ
2001年に子宮頸部腺がんの2B期と診断される。治療法に迷い「あいあい」の電話相談を活用して、納得した治療を受けることができた。以来、患者会の必要性を強く感じ、「あいあい」の運営に関わるようになった。
たわら もえこ
大阪外国語大学卒。サンケイ新聞記者を経て1965年より評論家・エッセイストとして活躍。95年より群馬県赤城山麓の「俵萠子美術館」館長。96年乳がんで右乳房切除。01年11月、「1・2の3で温泉に入る会」発足。
宝島社の事件から思う医療ジャーナリズムの在り方
俵 5月11日付の朝日新聞の記事「薦めていません『いい医者、病院』本 患者団体、宝島社に抗議」を見て“これは大変なことだな”と思って、どういう経緯だったのかぜひ伺いたかったの。
まつばら 宝島社の本『全国ネットワーク「患者の会」が薦める! 病気別全国600いい医者 いい病院』に、取材も掲載の承諾もなかったのに、当会が取り上げられてしまったんです。
全国600いい医者 いい病院』に、取材も掲載の承諾もなかったのに、当会が取り上げられてしまったんです。
俵 全く知らなかったの?
まつばら はい。本が店頭に並んでから出版を知って、当会が取り上げられていて驚きました。それで宝島社の担当編集者に抗議というより問い合わせの電話をしたのですが、その人は編集プロダクション任せで、該当する記事を誰が執筆したのかも知りませんでした。取り上げた患者会の約半数から掲載の承諾も得ていなかったそうで、新聞報道後、回収が決まったそうです。こういう本が出てきた背景には、構造的な問題――医師や医療機関に関する情報の不足があるんじゃないでしょうか。
俵 たしかにそうね。
まつばら 日本では医師や医療機関を客観的に評価したデータが乏しいんですよね。唯一の根拠となりうるのが“症例数”。それで“症例数別ランキング本”の出版が相次いでいるんです。でも「症例数の多い病院」イコール「質の高い医療サービスを行っている」や、各々の患者が望む治療をしているとは限らない。それ以外にがんの場合は“5年生存率”があるけれど、それも現状では医療機関によって算出方法にばらつきがあってあてになりません。それで患者会に蓄積された情報が、とても頼りにされているんです。個別の相談に応じて、医師の探し方などをアドバイスしています。
俵 自分自身にとって誰がいい医者でどこがいい病院かってものすごく難しい問題でしょう。それをそんなにお手軽に扱うということははっきり言って医療ジャーナリズムの自殺行為だと思いますね。週刊誌を中心にしてこういうランキングがはやりすぎているわね。
まつばら “医師選びは寿命のうち”と、医師・医療機関の評価にさらに関心が高まっています。命に関わる分野なのに、以前は、著者が根拠を示さず勝手にランキングした本や、役職が高い人をリストアップした名医本が多かった。役職が高いことは、臨床能力が高いこととイコールではないのですが。ただ、地域の拠点的な大病院を知る上ではデータ本が、婦人科がんの医療機関別症例数や主な治療内容を知るには、日本産科婦人科学会の婦人科腫瘍委員会の報告が参考になります。
患者会と出合ったことで治療の選択肢が広がった
俵 患者の側では医療ジャーナリズムが信用できないとなるとどうしていいか分からない。あなたはどうやっていい先生、いい治療と巡り会ったのですか?
大谷 最初にがんの専門病院に行ったとき、偏平上皮がんか腺がんか明らかでなかった段階で『手術か放射線かどちらか選べ』って言われたんですね。私も初めて聞いた病気(子宮頸部腺がん)ですしどうしていいか分からなくて、友達に電話やメールで『どうしたらいい?』って尋ねたんです。そしたら1人の友達がまつばらさんが運営に携わっている会を教えてくれたんです。それで治療法に迷って専門医に相談したいと思い、まつばらさんに電話したら、放射線科医と婦人科医を紹介してくれました。
俵 最終的にはどういう基準で決断しました?
大谷 婦人科では手術の説明はありましたけど、広汎子宮全摘出術後の後遺症や合併症がどんなに大変かということは説明されなかったんですね。で、手術と放射線治療のメリットとデメリットを天秤にかけて、症例が少ないけれど後遺症がより少ない放射線治療を選びました。『腺がんに放射線は効かない』って婦人科医には言われたんですけど、放射線科医は『腺がんも放射線は効きますよ。手術に匹敵する治療法です』って説明されたんです。
まつばら 子宮頸がんの初期治療は手術中心。まして子宮頸部腺がんの放射線治療は、世界的には手術と治療成績が同等という報告が出ていますが、日本では放射線が効かないという考えが根強くて、大谷さんのような選択をした方はまだ少数です。
大谷 選択肢が与えられたことはとても良かったと思います。アメリカでは標準治療の一つなのに日本ではまだまだ普及していませんから、この治療にめぐり合えたことはとてもラッキーでした。今でも、時間が経ってから出てくる後遺症の不安はありますが手術よりは格段に少ないようですね。こういう治療法もあるのだということを沢山の方に知ってほしいという思いもあり、患者会に参加しています。
まつばら “万人にとっての名医は存在しない”と思うんですね。当会としては「一つの情報源だけを鵜呑みにしないで複数の情報源を当たって、ご自分で判断、選択してください」と申し上げています。
俵 大谷さんはいい患者会に出合えましたね。私なんか引き受けた原稿や講演をどうしようとうろたえているうちに入院の日が来ちゃった。まさに“多忙に殺される”。だから大谷さんのように納得のいく治療が選べた方を羨ましく思いますよ。
まつばら 「いい患者会」だったかどうかは……(笑)。大谷さんのニーズに、合った会だったんだと思います。
俵 『早く手術をしなさい』って言われると焦っちゃうのよね。すぐにでも死んでしまうんじゃないかって。ある対談で『まだ時間があります。よく考えなさい』って言われたことがあって強く心に残っています。もし医者にそう言われたら私も『そうだ。よく調べてじっくり考えよう』という気になったかも知れない。いい患者会にも出合えて治療を選ぶことができたかも知れない、と思うと後悔が残ります。
万人にとっての名医は存在しない
まつばら 私たちは会発足の準備段階で、「特定の医師・医療機関に限らない、開かれた患者会を作りたい」と医療関係者の方々に相談しました。当時は「医師や医療機関によって治療法が違うんだから、そんなことしたら、患者さんが混乱しちゃうよ」と心配する声が多かったのが印象的です。年輩の医師の中には「僕はそんなところに患者を紹介しない。惑わされちゃうから」とおっしゃる方もいました。
俵 それだけ婦人科がんの情報は開かれていなかったということですね。
まつばら あるがん専門医は「婦人科がん医療は暗黒大陸だ」とおっしゃいました。
俵 「あいあい」は電話相談をやっていらっしゃるの? あなた自身が相談にのるの?
まつばら はい。
俵 どのような相談が多いですか?
まつばら 多いのは「いい医師、医療機関を知りたい」「治療法が決められないけどどうしたらいいか」「医師とコミュニケーションが取れない」など。少数ながら「これからどうやって生きていったらよいか」「お墓をどうしたらいいか」など、多岐にわたっています。
俵 お墓まで! 私の会の場合はね、術後退院後のクオリティ・オブ・ライフ という観点の質問が多いですね。温泉は一つのシンボルですけれども。今会員が400人をちょっと超えていますが、いろんな支部の人たちと話していると『あの病院のあの先生がとってもよかった』という会員と、同じ医師に正反対の評価をする人がいます。そういうのをしばしば聞いているとあなたがおっしゃった“万人にとっての名医は存在しない”という考え方はその通りだと思います。
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