肩付近への移植。人工関節と自分の骨のどちらがよいか
左の肩の近く(上腕骨近位)に痛みを感じて、病院を受診し、いろいろな検査を受けた結果、軟骨肉腫と診断されました。今後、手術によって、腫瘍を切除して、人工関節か私自身の骨を移植するなどの処置をすると主治医に言われました。人工関節と自分の骨を使うこととで、どのような違いや特徴があるのでしょうか。また、肩は自由に動くのでしょうか。
(群馬県 男性 27歳)
A 一長一短があるが、若い人には自分の骨を勧める
上腕骨近位にできた軟骨肉腫を切除して、その後、再建術を行った場合、再建物が人工関節であっても、ご自身の骨であっても、肩関節を自由に動かすことはなかなか難しいのが現状です。
肩を動かしているのは、三角筋という筋肉です。三角筋の中には、さらに腱板という肩を安定させる筋肉があり、これらの筋肉は腋窩神経という神経が動かしています。上腕骨近位の軟骨肉腫では、これらの筋肉と神経を切除することが多いため、その後、再建術を行っても、肩関節を自由に動かすことは難しくなってしまうのです。ただし、腫瘍が小さかったり、腫瘍のできた場所によっては、腋窩神経を残すことができる可能性もあります。また、術後、肘から先の手関節、手指などを動かすことが可能かどうかは上腕の他の大きな神経(正中神経、橈骨神経、尺骨神経など)を残すことができるかどうかに左右されます。
では、人工関節と自分の骨の違いは何かというと、最も大きいのは手術時の侵襲(身体的な負担)や手術後のトラブルの有無・程度等と考えられます。
手術における侵襲は一般に人工関節のほうが小さいと考えられます。人工関節は文字どおり人工の関節で、チタンやコバルトクロムなどの材質でできています。腫瘍とその周辺を切除して、これらの人工物をその部分に装着します。患者さん自身の骨を使う手術に比べると、手術の難易度や繋いだ血管が詰まるなどのリスクは低いのが特長です。手術時間は比較的短く、4時間ほどです。
一方、患者さん自身の骨を使う場合、骨としては下腿の腓骨がよく使われます。手術の難易度は比較的高く、脚にもメスを入れて、骨を切除するため、その分、侵襲は大きくなります。また手術では、非常に細い血管を結ぶため、手術時間も長く、10時間近くかかることもあります。血液が十分に流れなくなり、移植した骨が死んでしまう危険性もあります。こうしたトラブルが起きると、再手術をせざるを得なくなります。
手術後のトラブルで多いのは細菌の感染です。どちらかというと、人工関節のほうが細菌感染を起こしやすく、いったん感染すると、人工関節を抜き去って、後日、再手術をして、再び装着しなくてはいけません。一方、患者さん自身の骨を使った場合は、抵抗力が強いため、細菌に感染しても、感染が治癒する可能性があります。
また、人工関節は入れ歯と同じで、異物であるため、中長期的には、破損したり、接続部位が緩んできたりもします。
以上のように、人工関節と患者さん自身の骨とでは、それぞれ一長一短がありますが、27歳というご相談者の年齢を考えると、可能であれば、ご自身の骨で再建するのがよいと思います。これまでの症例を見ると、おおむね30代以下の方は、自分の骨で再建したほうがトラブルが少ないからです。若いため長い手術にも耐えられる体力があります。反対に、40~50代以上の方は、人工関節を選択されるとよいかもしれません。
また、人工関節と、自分ないしは他人の骨の両方を組み合わせて使う再建術も試みられていますが、標準的な治療ではなく、評価はまだ定まっていません。
これらの長所と短所を知った上で、改めて検討してみられるとよいでしょう。