脂肪肉腫の術前療法に小線源療法などは可能か?

回答者:川井 章
国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍科医長
発行:2011年9月
更新:2013年10月

  

もものしこりが気になり、病院へ行ったところ、粘液型脂肪肉腫と診断されました。しかし、腫瘍が血管に接しているため、術前に放射線治療を行い、腫瘍を小さくしてから手術することになりました。小線源療法や重粒子線治療という最新の放射線治療もあるようですが、これらで術前の放射線治療をすることはできないのでしょうか。

(長野県 男性 57歳)

A 術前には行わない。通常の放射線外照射を

ご相談者の場合も「Q:平滑筋肉腫との診断。術前化学療法をせずに手術だけではだめか」というご質問と同じように、手術できちんと腫瘍を取り切ることが1番大事です。しかし、腫瘍が血管に接しており、その部分を十分に切除できない(=再発の危険性が高まる)ことが危惧されるため、再発の抑制効果を期待して術前放射線治療を行うわけですね。

粘液型脂肪肉腫は、軟部肉腫のなかでは比較的、放射線感受性が高いといわれていますから、お尋ねのような状況であれば、術前に放射線を当てた後、手術をすることも良い方法と考えられます。

軟部肉腫に対する放射線治療としては、少量の放射線照射を多数回繰り返す(例 2グレイ×25回=計50グレイ)通常の外照射のほかに小線源療法や重粒子線治療などの放射線治療もありますが、術前放射線治療として用いられるのは通常の放射線の外照射です。

小線源療法はブラキセラピーともいい、手術時、腫瘍を切除した部分(腫瘍床)に細いチューブを入れておき、術後にチューブのなかに放射線同位元素を送り込んで高線量の放射線を局所に当てるという治療法です。ですから、これは術前に行うわけにはいきません。

また、重粒子線治療は、手術に代わる局所根治性の向上を目指した放射線治療と考えられ、重粒子線治療が行われた場所を切除することは、現在はほとんど行われていません。通常、放射線が当たったところは、癒着、線維化などの炎症が生じ、基本的には手術がしづらい状況になります。重粒子線治療ではとくにその傾向が強く出ます。そのため、術前放射線治療として重粒子線治療が選択されることは基本的にはありません。

肉腫に対する小線源療法や重粒子線治療、さらに通常の放射線治療には、それぞれに利点、欠点があり、腫瘍や患者さんの状態によって治療法やそのタイミングを適切に選択していくことが重要です。手術を行う整形外科や外科の先生、放射線治療を担当する放射線科の先生とよく相談して、最も適切な治療法を選ばれることをお勧めします。

重粒子線=放射線の1種。ピンポイントに照射することができるだけでなく、がんに対する殺傷の力も高い
放射線感受性=体の組織や臓器による、放射線が体に及ぼす影響度の違いのこと

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