手術を勧められたが、スーテントを使用したい

回答者:大家 基嗣
慶應義塾大学病院 泌尿器科講師
発行:2007年5月
更新:2013年12月

  

64歳になる父が胸の痛みを訴えて、精密検査で腎がんと診断されました。左の肺に見つかった直径4センチの腫瘍は、左の腎臓から転移したものだったそうです。現在、インターフェロンなどで治療しているものの、あまり効いていないようです。「腫瘍の縮小が見られたら、手術によって切除する」という説明を受けたのですが、他の薬による治療法はないものでしょうか。欧米ではスーテントという優れた効果が期待できる薬があると聞きましたが、個人で輸入してでも使いたいと考えています。この抗がん剤について教えてください。

(静岡県 女性 33歳)

A リスクを熟慮することが大切

肺への転移が認められる進行腎がんに対して、インターフェロンで肺転移巣を縮小させた後、手術で肺転移巣と腎臓の原発巣を切除するという治療法は選択肢の1つといえます。

とくにインターフェロンは肺とリンパ節への転移巣に効きやすいので、転移巣が1~2個で片方の肺のみに限られている場合、しばしば行われる方法です。ただし、インターフェロンの腎がんに対する奏効率は10~20パーセントなので、お父さんのように腫瘍が縮小しないことも少なくありません。腫瘍の縮小が見られなくても、全身状態が良好で十分な体力があれば、手術で肺転移巣と原発巣を切除できるかもしれません。

お尋ねのスーテント(一般名スニチニブ)は2006年2月から欧米で販売されている進行腎がんに対する経口の分子標的薬です。

腎がんは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を血管に向けて分泌し、それが血管内皮細胞のVEGF受容体と結合するとVEGF受容体が働き始め、腫瘍への栄養補給ルートとして新たな血管がつくられます。スーテントは血管内皮細胞のVEGF受容体を標的とした分子標的薬で、その働きを抑えることで血管新生を阻害し、腎がんの増殖を抑制したり死滅させたりするのです。

欧米で行われた臨床試験では、スーテントの奏効率は40パーセント、3カ月以上のSDは27パーセントにのぼるという優れた治療効果が確認されています。一方、副作用としては発疹などの皮膚症状や下痢、高血圧などに加えて、従来の抗がん剤と同じ骨髄抑制なども見られ、その程度もグレード3や4のような重度のものも認められます。さらに効かなくなると、一挙に腫瘍の増殖が進むというリバウンド現象も報告されています。

重要なのは治療効果や副作用は、主に欧米の白人を対象とした臨床試験で得られたデータであるということです。2007年4月現在、日本人の腎がん患者を対象とした治験が進められている最中で、どのような治療効果が得られ、どのような副作用が現れるのかは、まだ十分によくわかっていません。

お父さんの場合、確かにスーテントの服用で肺転移巣や原発巣が縮小する可能性はあります。ただし、スーテントを個人輸入して使用する際は、以上のことを主治医と十分に相談し、危険性と利益について念入りに検討したうえでお決めになることが大切です。

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