肝臓がん手術の危険性は?ほかの治療法は?

回答者:椎名 秀一朗
東京大学医学部付属病院 消化器内科講師
発行:2005年5月
更新:2013年10月

  

55歳の兄のことで相談します。兄はC型肝炎で、定期的に検査を受けていましたが、先日、2センチほどの大きさの肝がんが1つ見つかりました。手術は可能なようですが、手術後に肝不全を起こす可能性があり、その場合は肝移植も検討すると言われました。手術の危険性はどの程度あるのでしょうか。超音波による画像診断ができない位置にあるため、エタノールの注入療法はできないそうです。手術をしない場合、ほかにはどのような治療法があるのでしょうか

(埼玉県 52歳 女性)

A ほかの医療機関の意見を聞いてみるのもよい

肝がんの手術の危険性は、がんの大きさや数、がんができた場所、肝機能などによって違います。最近のデータでは、肝臓がんの手術によって亡くなる率は1~2パーセントです。20~30年前は、10パーセント以上の死亡率でしたから、だいぶ下がってきています。

この方の場合、手術後に肝不全を起こす可能性があり、その場合は肝移植も必要と言われていることから、肝機能が比較的悪く、その分だけ手術の危険度は高い可能性があります。

エタノール注入療法はできないと言われたようですが、医療機関によって、超音波を操作する技術などに差があるので、場合によってはできる可能性もあります。

エタノール注入療法以外の治療法には、ラジオ波焼灼療法やマイクロ波凝固療法、肝動脈塞栓術などがあります。この中で、とくにこの方に勧められる治療法はラジオ波焼灼療法です。ラジオ波焼灼療法は2004年4月から保険適応になったこともあり、エタノール注入療法に代わり、広く行われるようになっています。

ラジオ波焼灼療法とマイクロ波凝固療法は、どちらも熱で組織を破壊する治療法です。マイクロ波の場合は1回の焼灼で壊死させることができる範囲が小さいため針を何度も繰り返し刺さないといけませんが、ラジオ波の場合は針を1度刺すだけで3センチの組織を破壊できます。そのため、ラジオ波はマイクロ波より合併症が少なく、治療成績も安定しています。

肝動脈塞栓術は、主にがんがたくさんあって、ラジオ波焼灼療法や手術などができない場合に行う治療法です。肝動脈塞栓術だけで肝臓がんを完治するのは難しいのが現状です。がんが1つであるこの方には、肝動脈塞栓術はあまり向かないと考えられます。

ラジオ波焼灼療法と手術を比較すると、ラジオ波焼灼療法は手術よりも肝不全を起こす可能性が小さいという特長があります。総合的に考えると、可能ならラジオ波焼灼療法を第1選択として、それが難しい場合は手術を選ばれるのがよいかもしれません。ラジオ波焼灼療法もエタノール注入療法と同じく、超音波で病変を検出する必要があります。場合によっては、ほかの医療機関の意見も聞いてみるとよいでしょう。

55歳という年齢や肝機能の状態を考えると、がんの治療が完璧に行われたとしても、肝不全が進行し、70、80歳まで生きる可能性は小さいと考えられます。したがって、肝移植も選択肢の1つに考えられたほうがよいと思います。

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