前がん病変。治療しなくていいのか
B型肝炎で、前がん病変であることがわかり、不安を抱えています。主治医の先生は、「はっきりがんという診断になるまで経過観察」という判断でした。本当に治療しなくてもよいのでしょうか。
(兵庫県 男性 55歳)
A がんに移行するのは3割。経過観察でよい
肝硬変は、結節といって、つぶつぶのものがたくさんできて硬くなっている状態です。慢性肝炎や肝硬変では、肝臓の細胞が死んでいく一方で、この結節が代わりにできてきます。
B型肝炎ではC型肝炎やアルコール性肝炎に比べてこの結節が大きいので、小さながんと紛らわしいのが特徴です。また、5ミリくらいのがんならば、結節の中に混じっていてもわかりづらく、1センチほどの大きさになってから初めてがんを疑い、検査を行います。最近では、画像診断が進歩したので、前がん病変、すなわち正常細胞とがんの境にある境界病変の状態がわかるようになってきました。
しかし、このような前がん病変、境界病変が必ずがんになるとは限りません。前がん病変、境界病変から実際にがんになる方は、2年くらい経過を見ていくうちで3割です。7割の方は変わらないか、まれに消えてしまう方もいらっしゃいます。
ご相談者が疑問に思われているように、この前がん病変に対する治療についてはさまざまな考え方があります。
肝がんは、1度でき始めると年間の発がん率が高くなるので、進行したがんになる前の早いうちから治療を開始することで、がんの芽を摘んでしまうという考え方はあります。一方で、定期的に超音波検査やCTなどの検査をきちんと行っていき、病変が大きくなるなどの変化があった時点で詳しく調べ、手術やラジオ波焼灼療法などの然るべき治療を行うという考えもあります。前者は内科医師に、後者は外科医師に多い考え方です。
2年間無治療で経過を見ていたとしても、7割の方はがん化しませんので、がんになるかならないかわからない病変に対して手術などの治療を行うことで、体、とくに肝臓に大きな負担を与えてしまうこともあります。
そもそも、肝炎を持っている患者さんの場合、肝臓がよく働いていないところに手術によって一段と機能を落としてしまうことになり、場合によっては普通の生活がむずかしくなってしまう可能性もあります。
手術以外の治療には血管内治療(IVR)、ラジオ波焼灼療法という方法がありますが、がんに栄養を送る血管を塞いでがんを兵糧攻めにする血管内治療は、前がん病変の場合にはあまり効果的ではありません。
肝がんでは、がんに栄養を送るために新しい血管ができ(新生血管)、その分、門脈からの血流は減るという特徴があります。しかし前がん病変では新生血管は少ないので動脈を塞いでも病変を兵糧攻めにすることはできず、また門脈からの血流も減っていないので、そちらから栄養がいってしまうからです。
手術や血管内治療に比べて選択しやすいのはラジオ波焼灼療法です。皮膚の上から針を刺し、針先からラジオ波を出して病変部分を壊死させる治療法で、針を刺すなどの負担はありますが手術に比べると低侵襲です。
このように、前がん病変では治療を行うか、また治療を行う場合どのような方法を選択するか、専門医のなかでも意見が分かれています。ただ多くの場合、ご相談者のように、はっきりがんとわかるまで経過観察するケースが多いです。
また最近では、検査方法も進んできており、前がん病変であっても、早期に肝がんであるかどうかがわかるようになってきて、早い段階から治療することもできるようになってきました。
例えば、早期肝がんの治療としてHIFU(強力集束超音波治療)という治療法も登場しています。HIFUは、体の外から、超音波をがんに集中させて当てる治療で、体への負担がなく、また副作用も少ない治療です。
このように、早期発見、早期治療が可能になってきたので、主治医の先生が言われるように、経過観察をして、がんとわかった時点で早期に治療に取り組まれることをお勧めします。