早期肺がんの可能性が。胸腔鏡手術を勧められたが……
81歳の父のことでご相談です。健康診断で肺に影が見つかり、後日、CT検査と気管支鏡検査を受けました。気管支鏡ではがんの組織は採取できなかったということでしたが、医師からはおそらく早期の肺がんがあるだろうと言われ、治療法として胸腔鏡手術を勧められました。この胸腔鏡手術とはどのような手術なのでしょうか。高齢なので、本人もできるだけ身体への負担が小さい方法での治療を望んでいます。手術はすぐに受けたほうがよいのでしょうか。
(神奈川県 男性 53歳)
A 胸腔鏡手術がベストとは限らない
早期の肺がんらしい病変はCTではすりガラスのように見えるのではないでしょうか?
このような画像をすりガラス様陰影といい、がんと推測されるすりガラス様陰影のうち8~9割ほどは、実際にがんです。逆に、このような病変の1~2割はがんではありません。がんでない場合は、肺炎などによる肺の傷跡や異型腺腫様過形成といわれる前がん病変がほとんどです。
すりガラス様陰影の肺がんというのは、がんと言ってもとても早い段階にあり、進行も非常にゆっくりしています。多くの場合、3~5年ほどは、はっきりと増殖することもなく、大きさもほとんど変わりません。がんでない場合は、経過を観察しているうちに消失してしまうこともあります。
ですから、すりガラス様陰影の病変について肺がんが疑われるとしても、診断・治療を急ぐ必要はありません。81歳という年齢を考えると、なおさら急がなくともよいでしょう。
胸腔鏡手術とは、胸に5ミリ~1センチほどの傷をつけ、その傷から肋骨のすき間越しにビデオカメラの付いた管(胸腔鏡)を胸の中に入れ、ビデオモニターを見ながら同様に胸の中に入れた細長い器具を使って行う手術のことです。
長所は、開胸手術に比べて傷が小さいことです。短所は、モニターに映った平面画像だけで胸の中の状態を判断するため、情報が限られ、手術をしにくいことが挙げられます。
ことに、すりガラス様陰影の病変が肺の深部に埋もれている場合には、病変の位置や広がりを胸腔鏡だけで確認することはしばしば困難です。
一部の医師や医療機関は胸腔鏡手術を推進していますが、傷口を小さくすることと病巣を確実に切除することを天秤にかけた場合、後者のほうがずっと重要であると私は考えます。これは、ご相談者のお父様のような高齢者に限らず、若い方に対しても同様に言えることです。