肺がんの治療成績は手術数と比例する?
最近、69歳の父が肺がんと診断されました。腺がんで1B期とのことで、手術を勧められています。知人に聞くと「手術を数多く行っている病院ほど肺がんの手術後の治療成績がよい」と言いますが、本当にそうなのでしょうか。これは、学会でも発表されているのでしょうか。年間どのくらいの手術数のある病院を選んだらよいのでしょうか。
(島根県 女性 38歳)
A 年間25例以上をとりあえずの目安に
日本の肺がんに対する手術の技術水準は、一般的には欧米よりもかなり高いレベルにあります。日本で肺がん手術が受けられることは幸運なのです。ただし、日本の中でも、技術水準にはある程度の差があります。
昨年10月に日本胸部外科学会が調査結果を発表し、その中で肺がんの手術件数と術後30日以内の死亡率との関係を分析しています。全国711施設について、年間の肺がん手術件数10件未満、10~25件未満、25~50件未満、50~75件未満、75~100件未満、100~150件未満、150件以上の7つのグループに分け、死亡率との関係を検討しています。
その結果、年間150件以上の施設の死亡率が0.3パーセントだったのに対し、10件未満の施設では1.6パーセントと、手術件数の多い施設ほど、有意に死亡率が低くなることがわかりました。手術件数の多い施設は、手術や術後の管理に慣れていますから、当然の結果とも言えます。
この報告を見ると、年間25件以上の施設の成績はどのグループもほぼ同じですから、年間25件以上をとりあえずの目安としてよいでしょう。
手術件数はがん専門病院が確かに多いのですが、こういった病院にはがん以外の領域の専門家はおりません。ですから、心臓疾患などの重い合併症を持つ方は、そのような領域の専門家もいる総合病院や、大学病院で手術を受けられたほうがより安全かもしれません。
また、手術件数の多い施設では「この外科医に頼みたい」と依頼しても、ご希望通りにはいきません。そのような病院は若い外科医の訓練の場でもありますので、通常の手術は若手とベテランのスタッフが組んで執刀するからです。
もちろん、手術のレベルが落ちないように、安全に十分配慮をして行っています。あなたが手術を頼みたい外科医も、そのような場で訓練を積んできたことをご理解ください。
なお、ご質問の治療成績の意味が、肺がんが治るかどうかということなら、手術件数との関係はあまりないといえます。手術は基本的に胸の中の病巣を取り除くだけです。肺がんが治るかどうかは、がん細胞が体に残るかどうかで決まります。
ある程度の施設なら手術による取り残しがないようなきちんとした手術をするのであって、がんが治るかどうかは手術の内容というよりも、手術をした時点でがん細胞がよそに広がっていないかどうかで主に決まるのです。このことも踏まえたうえで、病院を選んでください。