肺がんが脳転移。ガンマナイフ治療はどうか
肺がんの治療を終えて、3年が経ちました。最近の検査で、幸い肺には再発がなかったのですが、脳に4つの小さな転移が見つかりました。放射線治療が必要とのことです。インターネットで調べてみたところ、ガンマナイフ治療というものがあると知りました。具体的には、どのような治療なのでしょうか。治療の仕方、入院期間、副作用など、通常の放射線による全脳照射と比較して治療効果にどのような違いがあるのでしょうか。メリット・デメリットなどを教えてください。
(東京都 男性 58歳)
A 正常な脳を障害しにくい治療。選択肢として検討を
別の臓器にあったがんが脳に転移した場合、その腫瘍を転移性脳腫瘍といいます。転移性脳腫瘍の治療にはいくつかの選択肢がありますが、手術による腫瘍の摘出、全脳照射(放射線治療)、ガンマナイフ治療などの定位放射線治療、経過観察などが一般的です。
ガンマナイフ治療は、コバルト線源を用いた高線量を一括照射することによって、周辺の正常脳組織を傷つけることなく、腫瘍そのものに集中的に強い線量を照射し高い治療効果をもたらします。
ガンマナイフ治療が適切とされるのは、①20~30mm前後の外科手術による摘出が必要な大きながん、②10~20mmの大きさのがんで脳浮腫を伴うもの、③5mm程度の小さながんでも脳幹や運動野など、生命維持や身体機能維持に直接かかわる部位の病変の場合です。相談者の症例は、②に当てはまるのではないかと考えられます。
治療の際、患者さんの頭部に専用の固定フレームを取り付けて、治療用のMRI、CTによる画像診断を行います。そのうえで、治療専用ソフトを用いて、照射範囲や照射線量を吟味し治療計画を決定します。その後、照射をしていきます。
頭部にフレームを取り付けるのは、前述の各種検査の位置情報を専用コンピュータへ正確に認識させ、精密な治療を可能にするために大切な処置です。患者さんにとっては頭にフレームを取り付けることは、恐怖を感じるかもしれません。実際には、局所麻酔を行うなど、できるだけリラックスして治療を受けていただけるように工夫も重ねていますので、どうぞご安心ください。
照射時間は1~2時間前後です。前後の処置を含めて、治療は1日で完結するため、患者さんの状態にもよりますが、入院期間は日帰り~2泊3日までです。
治療計画を立てる際には、腫瘍にのみ強い線量をあて、周囲の脳組織への過剰照射を極力さけるように照射計画を行います。そのため、ガンマナイフ治療後に脳浮腫が起こる場合は、全体の10%以下にとどまっています。また、ガンマナイフ治療では、放射線治療を受けたときに生じやすい、骨髄抑制、脱毛、放射性皮膚障害などの合併症は、起こりません。
ガンマナイフ治療の目的は、「がんをこれ以上大きくしない」ことです。多くの症例でがんの縮小や消失がみられますが、がんを消すことばかりにとらわれていると、必然的に照射線量も高くなってしまいます。
過剰な照射線量による合併症によって、患者さんのQOL(生活の質)が低下しないよう、転移性脳腫瘍のガンマナイフ治療では、必要かつ十分な線量で治療できるように心がけています。
放射線治療と比較した場合、放射線治療では頭全体へ照射を行うため、MRIなどで描出されてこない微小ながんも治療できるのが利点です。5~10mm以下の小さながんが多発していたり、がん性髄膜炎を引き起こしていた場合には、放射線治療が選択されることになります。
ガンマナイフ治療と放射線治療は、治療原理が異なるため、治療の適応については、患者さんの全身状態や、転移の状況により検討が必要です。