腺がんの妻にALK阻害剤は使えるか?
妻(49歳)のことでご相談です。妻は3年前に非小細胞肺がんの腺がんと診断されました。診断時には、すでに肋骨の後ろ側に転移がある状態で、「手術はできません。抗がん剤による治療を行います」と主治医から言われ、パラプラチン*とタキソール*による治療を行いました。ただ効果はあまり見られない状況です。最近、肺がんの治療薬としてALK阻害剤というものがあると知りました。もし効果があるのなら、妻にも飲ませたいと思っているのですが、いかがでしょうか。
(広島県 男性 55歳)
A まだ臨床試験中。まずはEGFR遺伝子検査を
ALK阻害剤とは、EML4-ALKというがん遺伝子の働きを阻害してがんの増殖を抑える薬剤です。骨格のタンパク質をつくるEML4という遺伝子とALKという酵素の遺伝子がそれぞれちぎれてひっくり返って結合し、がんの増殖を促すEML4-ALKという特殊ながん遺伝子となったもので、非小細胞肺がんの約4~5パーセントにあるとされています。
2010年のASCO(米国臨床腫瘍学会)において、ALK阻害剤の効果が発表され、EML4-ALK融合遺伝子陽性の人に対して奏効率は57パーセント。87パーセントの患者さんで病気の勢いがとまったとの結果が出ています。
ただし、文面から拝見すると、ご相談者の奥様は現在セカンドラインの治療をどうするかという段階です。標準的な治療の流れからは、タキソテール*やアリムタ*といった抗がん剤を使うか、イレッサ*やタルセバ*といった分子標的薬を使う治療が一般的です。後者、とくにイレッサについてはEGFR遺伝子変異(異常)のある患者さんでより効果が高いことが知られていますので、その遺伝子変異の有無を調べてもらって、その結果次第で治療法を決められてはいかがでしょうか。
ALK阻害剤はまだ保険承認されておらず、臨床試験の段階の薬で、誰もがすぐに使えるものではありません。また、ALK阻害剤も、効果がある一方で、他の抗がん剤と同じように耐性*の問題がすでに出てきています。ASCOの発表では、ALK阻害剤を使って、最初は効いていても、5~6カ月で耐性が起きることが報告されています。
以上を踏まえた上で、EGFR遺伝子異常がないようであれば、主治医の先生に治験参加の可能性があるかご相談されると良いでしょう。ただし、治験中なので、相応の効果が期待できる一方で、予期しない合併症も起こる可能性があることを御承知おき下さい。
*パラプラチン=一般名カルボプラチン
*タキソール=一般名パクリタキセル
*タキソテール=一般名ドセタキセル
*アリムタ=一般名ペメトレキセド
*イレッサ=一般名ゲフィチニブ
*タルセバ=一般名エルロチニブ
*耐性=薬剤の効き目がなくなること