アリムタとシスプラチンの併用療法という治療選択でよいか
非小細胞肺がんで、進行していると言われました。EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子検査では、遺伝子変異なしとのことでした。さらに、組織型を調べた結果、非扁平上皮がんの大細胞がんらしいとのことです。新しい抗がん剤のアリムタ(一般名ぺメトレキセドナトリウム水和物)とシスプラチン(一般名)を併用した化学療法を始めることになりそうです。新しい化学療法に期待もありますが、副作用などに不安もあります。この治療選択で、よいのでしょうか。
(秋田県 女性 50歳)
A 適切な治療選択。治療後、アリムタだけを続ける維持療法も
肺がんの疑いがある場合、「生検」といって組織・細胞をとってくる検査を行います。細胞を顕微鏡で見て、がんであれば小細胞肺がんと非小細胞肺がんに、さらには非小細胞肺がんを扁平上皮がんか非扁平上皮がんに大別します。
非小細胞肺がんであれば、EGFRの遺伝子変異(異常)の有無を調べる検査を行います。この遺伝子変異がある場合は、EGFRをターゲットにしたイレッサ(一般名ゲフィチニブ)やタルセバ(一般名エルロチニブ)という分子標的治療薬を用いた治療を行います。
ご相談者のようにEGFR遺伝子変異がない場合、イレッサの効果は期待できません。細胞の形(組織型)に再び戻って薬の選択を考えます。最近の研究から、扁平上皮がんか非扁平上皮がんで、薬の効果に違いのあることがわかってきました。昨年5月に保険承認されたアリムタは、非扁平上皮がんに有効な抗がん剤です。
現在の標準的抗がん剤治療の1つとして、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)とシスプラチンの併用療法があります。そこで、ヨーロッパを中心に非小細胞肺がんを対象にジェムザールとシスプラチンの併用とアリムタとシスプラチンの併用とを比較した臨床試験が行われました。その結果、2つの治療法は、全体的にはほぼ同等でしたが、組織型で見ると、非扁平上皮がんでは、アリムタとシスプラチンの併用療法のほうが、治療効果が優れていることがわかりました。2次治療や維持療法などの臨床試験でも、アリムタが非扁平上皮がんによく効くことが明らかになりました。
ご相談者は非扁平上皮がんの大細胞がんらしいとのことですので、現時点では、アリムタとシスプラチンを併用する抗がん剤療法は適切な治療選択と考えます。 アリムタの副作用には、骨髄障害、肝機能障害、倦怠感、浮腫、発疹などがあります。骨髄抑制や脱毛は、タキサン系の薬よりは軽いです。また、アリムタの副作用はビタミンB12、葉酸の補充で減ることが知られているので、アリムタを使う場合にはビタミンB12、葉酸も必ず服用、摂取します。
シスプラチンには、腎臓障害、骨髄抑制のほか吐き気の副作用があります。アリムタと併用では吐き気、嘔吐が強く出る可能性がありますが、吐き気に対する新しい制吐剤として昨年12月にイメンド(一般名アプレピタント)、今年1月にアロキシ(一般名パロノセトロン塩酸塩)が保険承認されました。イメンドは、抗がん剤の投薬日以降に起きる遅発性の吐き気を抑えます。この2つの制吐剤を使用することで、吐き気はかなり抑えられるのではないかと言われています。
アリムタとシスプラチンの併用療法を終えたあと、アリムタだけを続ける維持療法という考え方があります。臨床試験では、約3カ月程度の生存期間の延長効果が報告されています。ただし、1次治療終了後、治療を休んでがんが再び大きくなったとき、あるいは新しい病変が出てきたときに治療した場合との比較での治療効果は示されていません。また、副作用がないわけではありませんし、費用もかかります。担当医の先生を含め十分にご相談下さい。