抗がん剤による全身治療となった。放射線併用はダメなのか

回答者:坪井 正博
神奈川県立がんセンター 呼吸器外科
発行:2009年7月
更新:2013年11月

  

2007年8月、胸腔鏡手術で右肺腺がんの中葉切除をしました。肺がんの大きさは3センチで、病期は1B期でした。07年11月よりUFT(一般名テガフール・ウラシル)を飲んでいます。CTの検査では08年12月、右肺に8ミリ大の高分化腺がん、さらに、09年3月、右肺に9ミリ大と数ミリの多発結節4カ所が見つかりました。同年4月のPET-CT(陽電子断層撮影とコンピュータ断層撮影が一体になった最先端の診断装置)では、高悪性度や高活動性の病変を思わせるような異常集積は指摘できない、右肺の多発結節は認められる、サイズが小さいため、偽陰性の可能性がある、とのことです。MRI(核磁気共鳴映像法)では、ごく軽微な脳虚血と軽度の脳委縮だけでした。放射線科の医師と相談のうえで治療するとのことでしたが画像に写っていない微小ながんが肝臓等にあるかもしれないので、抗がん剤で全身治療になりました。私の場合、放射線併用はだめでしょうか。重粒子線を行うことはできないのでしょうか。もう1つ、腫瘍内科医ではなく外科医の治療でよいのでしょうか。

(福島県 女性 60歳)

A 放射線併用の治療は、現時点では一般的な治療ではない

肺がんの手術後、微小ながんが血液もしくはリンパ液の中に潜んでいて、血液やリンパ液の流れに乗って、全身に転移することがあります。転移先で一番多いのは肺内です。次が肝臓で、脳、骨、副腎、皮膚などにも転移します。

画像上で、5カ所の陰影が見つかっているとのことですが、PET-CTの検査では、1センチ以下の病変にはほとんど糖の取り込みが認められないことが多く、画像からのみで、悪性なのか、良性なのかは診断できません。診断をはっきりさせたいと希望されるときは、針生検などで細胞を採取して検査をする必要があります。大きさが9ミリだと、針生検の針が当たらないこともあります。そんなときにどうしても診断をつけなければいけないとすると、手術をして病変を丸ごと、あるいはその一部を切除する必要があります。

相談者の手術後の経過や、画像から考えると、非結核性抗酸菌症や、かび、結核などの感染症の可能性がゼロとは言えません。しかし、一般的には4カ月間で影の増大や個数の増加が認められていることから、がんの転移を疑って、抗がん剤治療を選択します。放射線治療は併用しません。その理由は、放射線で、がんの見えるところだけをたたき続けることが、本当に生存に役立つのかどうか、証明されていないからです。放射線併用の利点は、目に見えるところのみを焼き切れることです。ただし、併用によって、肺の障害が強く出て、呼吸機能の悪化など、副作用が出る可能性があります。ご質問のように「放射線併用はだめでしょうか」と問われると、「だめです」とは言い切れませんが、現時点では、一般的な治療ではありません。

放射線治療の1つの重粒子線治療についてですが、がん細胞が潜んでいる状態であるとすれば、重粒子線治療だけで治ることは考えられません。また、現状では、重粒子線治療の治療成績は、保険診療で行われている定位的放射線照射の成績とそれほど変わりません。重粒子線治療は、高度先進医療なので、医療費の自己負担が高額になります。このことも考慮して、治療選択をしてください。

腫瘍内科医と外科医についてですが、肺がんの外科医の中にも、抗がん剤治療や、放射線療法に精通し、一生懸命治療に取り組んでいる医師がいます。肺がんは、手術だけでは治りにくく、手術後の再発への抗がん剤や放射線による治療法の組み合わせを常に考えておく必要があります。重要なのは、病院名や、腫瘍内科という看板ではなく、医師個人です。患者さんのことを親身になって考えてくれる医師かどうかです。責任をもって診れるならしっかり診る、自分が診れないなら適任者に紹介できる医師であれば、肩書きにこだわられる必要はないでしょう。

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