1a期の肺腺がん。放射線治療でもよいか

回答者:坪井 正博
神奈川県立がんセンター 呼吸器外科
発行:2008年12月
更新:2013年11月

  

父(75歳)のことでご相談します。1a期の肺腺がん(がんの大きさは約2.5センチ)と診断され、外科手術を勧められています。しかし父は、年齢と衰えた体力を理由に、手術を受けることを拒み、第2選択肢として提示された放射線治療を希望しています。父はごく軽度の痛風も患っていますが、ほかには、これといった病気はなく、私から見た限りでは、同年配の男性より、体力が衰えているようには見えません。タバコは20歳から55歳ごろまで、毎日20本ほど吸っていたそうです。娘の私からは、父は手術を受けるのが怖いように思えます。「手術が成功すれば、治る可能性は十分にある」と主治医に言われているだけに、手術を受けてほしいのですが、一方では、手術の危険性も気になります。肺がんの手術によって亡くなったり、後遺症や合併症が起きたりするリスクはどれくらいありますか。また、もし放射線治療を選んだ場合、それで肺がんが治る可能性はあるのでしょうか。

(宮城県 女性 47歳)

A 標準治療は手術だが、本人の意志が大切

1a期の肺がんの標準治療は手術です。放射線治療も選択肢の1つに挙げられますが、エビデンス(科学的な根拠)はまだ乏しいのが現状です。

手術が第1選択の治療法ですが、リスクもあります。手術を行い、それによる合併症で亡くなる割合は約0.8パーセントです。亡くならないまでも、不整脈や感染、胸の痛みなどの何らかの合併症は20~30パーセントの人に起きています。

しかし、こうした合併症は、一般的には徐々に回復、軽減していかれる方がほとんどです。75歳といえば数字上は高齢ですが、相応に元気な人で順調に経過すれば、社会復帰は十分に可能です。

また、喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)は700と高いのですが、禁煙して20年経っていることから、肺機能が許せば、手術は可能だと推測できます。

前記のことを考えると、医学的には、手術を受けられることをお勧めします。

しかし一方、ご本人の気持ちも、とても大切です。患者さんが受けたくない治療を無理に説得して行うと、その後の経緯が芳しくないことが多かったり、精神的に追い込まれてしまったりするからです。

たとえば、手術後に胸の痛みが起きた場合、自ら進んで手術を受けた方なら、その痛みを受け止め、積極的にリハビリにも取り組む傾向があります。しかし、本意ではない治療を受けた方は、痛みを受け入れられず、リハビリにも熱が入らない傾向があります。さらには、うつ症状が出て、生きる意欲を失い、高齢者の場合、認知症の症状が出ることもあります。

以上のことを総合してお答えすると、周りの方もまずは手術をお勧めするのはよいと思います。しかし、無理な説得はせずに、最終的にはご本人に選択してもらうのが最も望ましい方法でしょう。

ちなみに、1期肺がんの放射線治療には、がん以外の組織をできるだけ傷つけない定位放射線治療が行われるようになってきました。定位放射線治療には、手術と同等の治療効果が期待できるかもしれないというデータもありますが、現在、臨床試験によって、その効果と安全性の確認が行われている状況です。放射線治療を選ばれる場合は、この定位放射線治療がおそらく望ましいと思いますが、その副作用や合併症がないわけではないので、期待される効果とリスクを了解のうえでチャレンジされるのがよいでしょう。

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