肺腺がんが見つかった。身体に負担のかからない手術を受けたい

回答者●坪井正博
神奈川県立がんセンター呼吸器外科
発行:2008年10月
更新:2019年7月

  

67歳の母のことで相談です。右肺の上葉に2センチほどの大きさの肺腺がんが見つかりました。身体に負担のかからない手術を受けたいと願っています。資料を見ると、肺葉切除と縮小手術とがあるようですが、手術方法で再発への影響はありますか。身体に負担がかからず、しかも再発リスクの少ない手術方法を選びたいと思います。アドバイスをしてください。

(38歳 女性 岩手県)

標準は肺葉切除。縮小手術希望の場合は、主治医に相談を

神奈川県立がんセンター
呼吸器外科の坪井正博さん

ご指摘のように、肺がんの手術には肺葉切除と縮小手術とがあります。肺は胸の左右に存在し、葉(よう)と呼ばれている部分に分かれています。右肺には3つの葉、左肺には2つの葉があります。肺葉切除は、がんのある場所に応じて、肺葉単位に切除する手術です。

縮小手術は、肺葉を構成する区域の切除もしくは肺葉の一部を切除する手術です。術式の違いによる再発への影響は、現時点でのエビデンス(科学的根拠)では、縮小手術のほうが肺葉切除よりも局所再発率、すなわち手術で切ったところのすぐそばの肺の中や近くのリンパ節に再発するリスクが高いことが知られています。また、2センチ以下の肺がんでも20パーセント弱程度のリンパ節転移があるため、現在の標準的術式は肺葉切除とリンパ節郭清です。

ただし、94年前後からヘリカルCT、いわゆるらせん型CTが導入され、この高分解能CTで淡いすりガラス様に見える肺がんや、その影のほとんどがすりガラス様で中に濃く写る芯のような部分があって一見”目玉焼き”のような肺腺がんが見つかるようになりました。そうした影を呈する2センチ以下の肺腺がんなら再発・転移のリスクがほとんどないことがわかってきました。こうしたおとなしいタイプには、縮小手術も許容されるようになると思います。こうした小型の肺腺がんの区域切除もしくは部分切除が標準的手術の肺葉切除と同様の治療成績を得られるのかの評価、確認をする臨床試験が積極的に行われています。肺葉切除と縮小手術を比較する臨床試験はすでに米国で開始され、日本でもこの秋くらいに開始される予定です。

しかし、標準はあくまでも肺葉切除です。縮小手術を希望される場合には、必ず主治医にどんなタイプの肺腺がんなのか、予想される再発のリスクなどをよくお聞きになってください。

縮小手術は、肺葉切除よりも身体に負担がかからなくて、やさしい手術と思われがちですが、エビデンスはありません。肺葉切除と縮小手術とを呼吸機能の面から比べると、手術後3カ月間位までの呼吸機能のダメージ率は前者が大きいですが、半年後や1年後には両者の違いはなくなると言われています。また、呼吸機能の回復では、患者さんがどれだけリハビリを自覚してがんばれるかで、身体への負担度は変わってきます。痛みも、半年以上たつとあまり変わりません。入院期間はどちらも4、5日から1週間でほぼ同じ。このように、現時点では縮小手術は何をもって身体に負担がかからないのか、非常にあいまいな状況と言えます。がんの手術ではまず、がんを確実に切除することが重要です。身体への負担を考え過ぎるあまり、がんを取り残してしまっては、本末転倒と言えます。

お母さんが、手術後の傷を気にされているときは、胸腔鏡による手術も選択肢の1つになります。胸腔鏡手術の経験を持つ医師に相談してください。

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