太った人の手術は危険か?
肺腺がんの1A期と診断されました。医師からは、手術を行うと治る可能性が高いと言われましたが、同僚から「太っている人の手術は危険らしい」という話を聞きました。そのような話を初めて聞き、少し不安になっています。私は今、身長166センチで、体重は88キロです。確かに太っていますが、ダイエットはこれまでとくにしたことはありません。また、タバコはこれまでほとんど吸ったことがありません。太っていると、手術の危険性は本当に高まるのでしょうか。本当だとしたら、この状況でダイエットをしたほうがよいのでしょうか。
(徳島県 男性 56歳)
A 動脈硬化などの危険性が高まると実感
肺がんの手術を行ったことが原因で亡くなる人の割合は、日本の一線級の病院では、1パーセント未満です。あなたのように、1A期で56歳と比較的若く、なおかつタバコをほとんど吸ったことがない人の場合、その割合はさらに下がるでしょう。喫煙者の手術は、非喫煙者に比べ、手術の危険性が明らかに高まります。逆に、「タバコをほとんど吸ったことがない」方の手術の危険性は、喫煙者に比べ明らかに低いのです。
さて、「肥満」ですが、手術に明らかにマイナスという論文は、実はごくわずかしかありません。
しかし、実際の臨床の場では、肥満の方の手術は危険度が高まるという実感を持ちます。
たとえば、太っている方では動脈硬化が起きていることが多く、血液の巡りが悪くなる可能性が高まります。そのため、心筋梗塞や脳梗塞などの合併症を引き起こしやすくなります。また、肥満の人はおなかが重いために、下半身から心臓に戻る血液が淀み、血液の塊ができやすくなります。その血液の塊が肺に流れ込んで、致命的な肺塞栓を起こす危険性が高まります。さらに、痰がたまりやすくなり、肺炎にもなりやすくなります。
肥満かどうかは、BMI*でわかります。BMIは世界共通の肥満度の指標で、「体重÷(身長×身長)」で求められ、標準は22です。あなたのBMIは「88÷(1.66×1.66)」で約32になり、かなり肥満であることがわかります。逆にいうと、BMIから求められるご相談者の望ましい体重は約60キロになります。ですから、あなたの手術は太っている分、危険度が多少高いといえるでしょう。
では、これからダイエットに励むのがよいかというと、手術前にがんの進行で体力を消耗すると手術後に亡くなる率が高まるという論文もあるため、少なくとも急激なダイエットは勧められません。
ですから、このまま手術を受けられ、前記したような危険性を減らすために、術後にできるだけ早く動き回るようにされるとともに、血液が固まりにくくなる薬を適宜使ってもらうのがよいでしょう。
*BMIの計算では、身長×身長(単位はmを使用)の数値で体重(kg)の数値を割り算します