術後補助療法を受けるべきか

回答者:吉田 純司
国立がん研究センター東病院 呼吸器外科医長
発行:2007年8月
更新:2013年11月

  

右下葉に3センチの扁平上皮がんができ、1カ月前に手術で右下葉を切除してもらい、ステージは1B期と診断されました。既往症に心筋梗塞、前立腺がん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)があり、心筋梗塞のために体にステントが入っています。COPDによって日常生活が困難なことはまったくありません。以上の状況で、主治医から以下の3つを提案されています。(1)シスプラチン(商品名ブリプラチンまたはランダ)、あるいはパラプラチン(一般名カルボプラチン)をベースにした抗がん剤治療。(2)UFT(一般名テガフール・ウラシル)の内服。(3)治療は何もしない。 エビデンスがないことを理由に、主治医からは(3)を勧められています。(2)のデメリットが許容範囲で多少なりとも可能性があるなら、(2)を受けてみたいという気持ちもあります。アドバイスをお願いします。

(青森県 男性 71歳)

A 抗がん剤が奏効するのは1割程度

肺がんの術後補助療法としては、(1)のプラチナ系抗がん剤をベースとした治療の研究が最も進んでいます。1B期の患者さんにこの治療を行ったときの効果に関しては、まだ安定したデータが得られておりませんが、治療をしなかったときに比べて、5年生存率が1割ほどよくなると考えていただいてよいでしょう。

ただし、術後補助療法は相手、すなわちがん細胞が見えない状況で行うものです。どこかに隠れているかもしれないがん細胞を叩くために行うのですが、実際にはがん細胞はいないかもしれません。

あなたの病状では、がん細胞が隠れていない可能性が6~7割あります。この場合、抗がん剤治療は無意味で、かえって損です。がん細胞が隠れていたとして抗がん剤が効かない可能性が2~3割ある場合も損。隠れているがん細胞を抗がん剤で抑え込んで5年後を無事に迎えられる可能性は1割ほどありますが、しかし、あなたがどの状況なのかは誰にもわかりません。

副作用の問題も考慮する必要があります。プラチナ系の抗がん剤の主な副作用には吐き気、倦怠感があり、タキサン系の抗がん剤と組み合わせると指先がしびれるなどの神経障害も起こりえます。副作用の程度は個人差がたいへん大きいのですが、そのために亡くなる方も、1パーセントほどいらっしゃいます。

また、5年後に元気でいらした場合、それが抗がん剤治療を行ったためかどうかもわかりません。がん細胞がそもそもいなかった可能性もあるからです。このように、先にも後にもわからないことが多い中で、「1割の差」に賭けるかどうかは、最後は“気合”の問題になるかもしれません。

(2)のUFTが扁平上皮がんの術後に効果があるという明瞭なデータはまだありません。ただし、1B期の腺がんでは5年生存率が1割ほど改善するというデータがありますから、1B期の扁平上皮がんでも似たような効果が期待できるかもしれません。

UFTの副作用には、吐き気や食欲不振などがありますが、一般的には軽いといえます。ただし、2年間服用しなければならず、副作用もその間続きます。副作用の軽重を考えて、UFTを選択するという方法はあると思いますが、その効果は定まってはいません。

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