手術後、抗がん剤と放射線治療を勧められたが……

回答者:吉田 純司
国立がん研究センター東病院 呼吸器外科医長
発行:2005年5月
更新:2013年11月

  

62歳の兄のことで相談します。非小細胞がんと診断され、右肺の上葉とリンパ節を切除する手術を受けました。手術後の顕微鏡検査の結果、病期は3a期と言われました。今後は、抗がん剤と放射線で治療するそうですが、インターネットなどで調べたら、手術後には放射線治療を行わないほうがよいという記述を目にしました。手術後の放射線治療は、受けたほうが良いのでしょうか。

(栃木県 女性 59歳)

A リンパ節に広がっている場合、放射線の効果は小さい

過去の研究をまとめた報告によると、肺がんの手術後の放射線治療は、3期ではとくに役立ってはおらず、1期と2期の場合はかえって悪い結果が出ています。ただし、このデータはやや古いため、そのまま現在に当てはめるには多少無理があります。とはいえ、3a期の肺がんでは、手術後の放射線治療は効を奏さないだろうというのが現在の標準的な見解です。

ただし、ご相談者のようなケースでも、例えば、右肺上葉につながる気管支の粘膜にがんがわずかに残っているときには、これを手術後の放射線治療で抑え込めることが期待できます。そうではなく、リンパ節にがんが広がっている場合は、手術後の放射線治療が役立つことは少ないでしょう。

肺がんの3a期は、がんが全身化していることが多い状態です。こういう状態では、抗がん剤による治療が中心になります。

手術後の抗がん剤治療では、5年生存率を5~15パーセント上積みできるというデータが出ています。間をとって10パーセントとすると、10人に1人に対し、手術後の抗がん剤は役立ちそうだということになりますが、逆に言うと、10人のうち9人には効果がないということです。「効果がない」中には、手術後に抗がん剤治療を受けたために、副作用などでかえって寿命を縮めてしまう可能性も含まれています。

そもそも手術でがんを完全に取り切れていれば、手術の後に抗がん剤治療を行う必要はないわけです。そうした人に抗がん剤治療を行うことは無意味なだけでなく、有害ですらあります。

ご相談者の場合、がん細胞は体のどこかに潜んでいるかもしれませんが、手術で取り切れていて、すでにないかもしれません。本当のところはわからないのです。手術後の治療は、放射線の場合もそうですが、いわば「見えない相手」との闘いです。ここが、相手、すなわちがんが見えている状態で行う治療と根本的に異なります。

肺がんの手術後の治療は、以上のことを知った上で、主治医とよく相談し、ご判断下さい。

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