左肺全摘と言われた。術後の生活が不安

回答者:坪井 正博
神奈川県立がんセンター 呼吸器外科医長
発行:2011年7月
更新:2013年12月

  

左の肺の上葉と下葉に1カ所ずつ、腺がんが見つかり、左肺を全部切除しなければならないと言われました。本当に全摘が必要でしょうか。またもし全摘しなければならない場合、日常生活で支障はありますか。肺を切除した後の生活で、なにか気をつけるべきことなどがあれば教えてください。

(和歌山県 女性 52歳)

A 積極的な運動で呼吸機能は回復可能

まず、2カ所の腺がんの1つが原発(最初にできた肺がん)で、もう1つがそこからの転移と考えるのか、それぞれ別物(原発)と考えるかによって、治療方針、手術のやり方(術式)が変わってきます。前者の場合、病期は3A期で、進行がんですし、リンパ節に腫れ(転移)がないと判断されているのであれば、後者はがんの大きさによりますが1期のがんが2つあり、それぞれ比較的早期のがんと判断します。

ただ、2つしか影がない場合にそれぞれの影の部分から気管支鏡検査などで少量の細胞組織をとって、こちらが原発で一方が転移と言い切るのは至極困難です。リンパ節転移がないと判断される症例であれば、術後の生活に十分な呼吸機能が残されることを条件にがんを切除して調べる(診断)と同時に治療を兼ねるという考え方が一般的です。

手術のやり方は、がんの大きさ、場所、がんの影や形によって決まります。2つのがんがともに3センチ前後の大きさであった場合やともに明らかに浸潤がん(たちの悪そうながん)の場合には左の肺を全摘します。もちろん、術後に右肺だけになるより左肺が残っていたほうが良いので、おとなしそうな影の腺がんが肺の外側にあるような場合には、部分切除や区域切除といった小さくとる手術(縮小手術)を組み合わせてがんを切り取ることもままあります。

次に、ご相談者が不安に思われている左の肺を全摘した場合です。肺は、心臓がある関係から左右の大きさが違います。右肺は56パーセント、左肺は44パーセントという割合で分かれています。ですから、左肺を全摘するといっても半分無くなるわけではないのです。

左肺を全摘した患者さんの中には、積極的にリハビリに取り組まれて手術後もゴルフやテニス、水泳、登山などを楽しんでおられる方がいらっしゃいます。一方、右肺を全摘する場合は、がんのできた場所、手術前の無気肺(空気が入っていない肺)の大きさにもよりますが、機能していた半分以上の肺がなくなるので、左肺全摘に比べればはるかにきついです。ただし、それなりの時間(6カ月~1年以上)がかかりますが、リハビリによって回復は十分望めます。

手術後は、呼吸筋をしっかりと使って呼吸し、残った側の肺を意識して膨らませるようにすることが大切です。切除した側は膨らまないので胸の動きが左右対称とはいきません。その分意識してバランスよく呼吸筋を鍛えることを心掛けてください。左右のバランスが悪くなると、背骨が曲がってしまうこともあるので、時々鏡を見て体がまっすぐになっているかを確認しましょう。

肺の手術を受けるにあたって、非常に大事なことは、運動をして体を鍛えることです。日ごろあまり運動をしていない人は、手術が決まったその日から運動をして、手術に備えて体を鍛えること、体力を維持することが重要です。そして術後も、リハビリとして自分のできる範囲で運動を続けてください。ウォーキングや、深呼吸、胸を大きく動かすラジオ体操などがおすすめです。

肺の手術をして一時的に肺活量は減りますが、運動をして呼吸筋がしっかりしてくると、上手に呼吸ができるようになり、肺活量も回復してくる患者さんは少なくありません。

また、肥満の方は寝るとお腹の脂肪が肺を押し上げるので、肺が膨らむのを妨げるほか、体が大きいとその分必要な酸素も増えるので、肥満の方はダイエットをおすすめします。

手術は、元の生活を取り戻して初めて「成功」といえます。手術そのものはわずか数時間ですので、その成功はむしろ患者さん自身の努力にかかっています。術後リハビリを患者さんがいかに頑張るかで、手術前の状態に近づくことが十分に望めますので、是非、患者さんご自身も参加するという意識を持って治療に臨んでください。

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