肺腺がんの胸膜播種。よい治療法はないか

回答者:坪井 正博
神奈川県立がんセンター 呼吸器外科医長
発行:2011年11月
更新:2013年12月

  

64歳の夫のことでご相談です。夫は3センチ大の右肺腺がんが見つかり、くわしい検査の結果、胸膜播種が認められるため、ステージ(病期)4と診断されました。医師から「手術は難しく、全身化学療法くらいしか手はない。予後は極めて厳しい」といわれました。胸膜播種でも期待できる何かよい治療法はないでしょうか。

(三重県 女性 62歳)

A 全身化学療法を勧める

胸膜播種というのは、がんが肺を覆う胸膜を突き破って、そこからがん細胞が散らばり、胸の中全体に無数の微小転移巣を作ることを指します。肺表面近くにできやすい肺腺がんの場合、増殖するとよく起こります。こうなると、がんをすべて撃退することは難しくなります。体力が許せば、基本的に全身化学療法(抗がん剤治療)を選び、体力がない場合、あるいは抗がん剤治療を拒否された場合には緩和ケアのみを行います。

手術時にたまたま胸膜播種が発見された場合、もとのがんができた肺葉(肺の最も大きな区画)と目に見える転移巣を手術で切除してから、抗がん剤治療を開始するという手もあります。しかし、この治療法が、抗がん剤治療のみより治療効果が大きいという、はっきりしたエビデンス(科学的根拠)は現時点ではありません。

私の経験では切除せずに手術を中止して、すぐ抗がん剤治療に切り替えたほうが治療成績はいいようです。いずれにしても、早い段階で全身化学療法が必要なのは、胸膜播種の場合、すでにリンパ管を通じてがんが全身に転移していると見なせるからです。

肺腺がんの胸膜播種で使う抗がん剤は組織型(細胞の形)、EGFR遺伝子変異などによっていくつかのオプションがあります。

EGFR遺伝子変異がない場合、①ブリプラチン+アリムタ、②カルボプラチン+タキソール+アバスチンが標準的です。②はしびれなどの末梢神経障害の副作用が出やすいので、私は①をお勧めすることが多いです。

アバスチンは、奏効率は期待できるものの、副作用が大きい割に使用に関していくつか注意点があるうえ、生存期間を延ばす効果が不十分と評価する人がいます。実際に、この分子標的薬を使うことは医師の間でも意見が分かれています。患者さんご自身のリスクとベネフィット(利益)について、担当医から聞かれることをお勧めします。

EGFR遺伝子変異があった場合、イレッサやタルセバといったEGFRリン酸化阻害剤で胸膜播種が消失することもあります。

私が担当した胸膜播種の患者さんの中には、全身化学療法の目ざましい改善例がありました。治療成績は患者さんご自身の気構えに左右される側面もあるので、心と体が許すなら前向きに治療に取り組んでいただきたいと思います。

EGFR遺伝子変異=遺伝子変異のため、EGFR(上皮成長因子受容体)ががん細胞表面に過剰発現していること
ブリプラチン=一般名シスプラチン アリムタ=一般名ペメトレキセド カルボプラチン=一般名パラプラチン タキソール=一般名パクリタキセル アバスチン=一般名ベバシズマブ イレッサ=一般名ゲフィチニブ タルセバ=一般名エルロチニブ

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