濾胞がんと診断。経過観察でいいのか

回答者・杉谷 巌
日本医科大学付属病院内分泌外科教授
発行:2014年10月
更新:2015年1月

  

首にしこりがあり病院を受診したところ、甲状腺の右葉に結節が見つかりました。超音波検査では良性の結節が疑われるとのことでしたが、細胞診を行ったところ鑑別困難と診断され、甲状腺右葉切除手術を行いました。術後の病理検査の結果、濾胞がんとわかりました。主治医からは遠隔転移の可能性は低く、経過観察で様子を見ていきましょうと言われています。このまま追加の手術などせずに、経過観察だけで大丈夫でしょうか。

(63歳 女性 愛媛県)

追加手術は必要なし 半年に1度の経過観察を

日本医科大学付属病院内分泌外科教授の杉谷 巌さん

濾胞がんは良性腫瘍である濾胞腺腫との区別が難しいことで知られています。腫瘍を包む被膜が破れていたり(被膜浸潤)、腫瘍細胞が血管内に浸潤していたり(脈管侵襲)する場合に濾胞がんと診断されますが、手術前に細胞診でこれらの有無を見極めることはできない(鑑別困難と診断される)のです。従って、ご相談者のように、超音波検査では良性の結節が疑わしいが、細胞診で鑑別困難(濾胞がんの可能性もありうる)ということで手術をし、病理検査の結果、濾胞がんであることが判明することも時々あります。

濾胞がんには肺や骨などに血行性の遠隔転移を起こすものがありますが、この方の場合、「遠隔転移の可能性は低い」ということなので、濾胞がんの中でも微少浸潤型に相当すると考えられます。

微少浸潤型濾胞がんは、軽度の被膜浸潤があるなど浸潤の程度が軽いものを指します。この場合、腫瘍がきちんと切除できていれば完治することが多いので、追加の治療は行わずに経過観察することが多いです。

一方、被膜浸潤や脈管侵襲が高度の場合(広汎浸潤型濾胞がん)などでは、血行性の転移を起こしやすいと言われています。その場合、手術で残りの甲状腺を全摘出して、放射性ヨウ素内用療法を行います。

経過観察にあたっては、血中のサイログロブリン値の推移が参考になります。その値が手術後に手術前と比べてしっかり下がり、その後も上がってこないということであれば、遠隔転移は起こっていないと考えられますので、引き続き半年に1回程度経過観察を行っていくことで良いでしょう(ただし、甲状腺を全摘していない場合、残りの甲状腺に何らかの変化があると、サイログロブリン値が高値のまま続くこともあります。また、抗サイログロブリン抗体陽性(橋本病)の人では病気があってもサイログロブリン値が上がりにくいです)。もしも、血中サイログロブリン値が手術後低下しない場合や、再び上昇してきた場合には、PET検査や肺CT検査、また骨のシンチグラフィなどで、転移が起きやすい部位を1度確認しておくのがよいでしょう。

手術後に濾胞がんと診断されたからと言って、全ての場合に再手術で残りの甲状腺を摘出しなければならないということではありません。病理組織検査の所見などから、遠隔転移を起こすリスクがどの程度あるのかを見極めることが重要です。

放射性ヨウ素内用療法=甲状腺がヨウ素を取り込む性質を持つことを利用し、I-131と呼ばれる放射能を放出するヨウ素のカプセルを内服することにより行うアイソトープ治療(放射線内照射) サイログロブリン=甲状腺濾胞細胞で産生される分子量66万の糖タンパク 橋本病=甲状腺に慢性の炎症が起きている病気で、とくに女性に多く見られる疾患

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