甲状腺乳頭がんで手術を勧められている。手術以外の治療法は?

回答者:杉谷 巌
がん研有明病院 頭頸科副部長
発行:2009年11月
更新:2013年10月

  

総合病院の検査で、甲状腺に腫瘍が見つかりました。細胞診の結果、甲状腺乳頭がんと言われました。腫瘍の最大径は2センチほどで、肺転移なし、リンパ節転移なし、甲状腺外への浸潤なしとのことです。手術を勧められています。自覚症状はほとんどなく、日常生活では不自由を感じることはまったくありません。手術は受けなければいけないのでしょうか。手術以外の治療法はないでしょうか。ご意見をお聞かせください。

(青森県 53歳 女性)

A 2センチ程度の大きさなら基本的には手術をしたほうが安全

甲状腺にできるがんにはいくつかの種類がありますが、甲状腺乳頭がんは、それらの甲状腺がんの中で1番多い種類の名称です。全甲状腺がんの約90パーセントです。一般的に性質がおとなしく、成長が遅いため、治りやすいがんとして知られています。

最近は相談者のように健康診断で、無症状で見つかるケースも多いです。米国のデータでは、甲状腺がんは、ここ30年で3倍近く増加しています。増えているのは健康診断で見つかるごく小さな乳頭がんです。一方この間、甲状腺がんによる死亡数は変わっていません。こうしたことから、小さな無症状の乳頭がんは生命にかかわることはほとんどないと言えます。

腫瘍の最大径が1センチ以下の微小乳頭がんなら、手術をしないで経過観察をすることもあります。

相談者のように2センチ程度の大きさで、リンパ節転移や肺などへの遠隔転移がなく、甲状腺外への浸潤がないがんは、低危険度群乳頭がんと考えられ、10年生存率は99パーセント以上です。それでも、基本的には手術をしたほうが安全かと思います。やがて増大すると、発声や呼吸、嚥下などに影響することがありうるからです。

治療(手術)方針には、2通りあります。1つは、手術前の超音波検査で調べたがんの広がりに応じて、できるだけ正常の側は温存するよう甲状腺の切除を行い、手術後の補助療法は行わないという甲状腺温存治療です。メリットは、副甲状腺の機能低下などの合併症が起こる確率が低く、多くの場合、手術後に甲状腺ホルモンを飲む必要がないことなどです。デメリットは、次に述べる全摘手術に比べて、再発率が若干高いことです。

当院での治療成績では、温存した甲状腺への再発は1.4パーセント、肺などへの遠隔再発は1.2パーセント、リンパ節再発は7.2パーセントでした。2つ目の方法は、甲状腺全摘です。手術後、放射性ヨードによる補助療法も行います。温存治療に比べて、生存率は変わりませんが、再発率が若干低くなることが期待されます。デメリットは、生涯、甲状腺ホルモンを薬として飲まなければならないことです。また、副甲状腺機能が低下すると、カルシウムとビタミンDの薬も飲み続けなくてはなりません。

それぞれの治療方針のメリットとデメリットをよく理解したうえで、担当医と十分に話し合って、治療法を選択してください。後遺症がなるべく少ないように、経験豊富な医師にきちんと切除してもらって、傷跡もきれいにしてもらうことが大切かと思います。

手術以外の治療法はありません。放射線治療も化学療法も効果はありません。民間療法など、他の治療法はお勧めできません。

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