高齢者の子宮体がん。手術は無理?
母(86歳)に不正出血が続いていたため検査をしたところ、子宮体がんと言われました。転移はないそうです。手術を依頼したところ、担当医からはあまり良い顔をされませんでした。年齢的に手術は厳しいのでしょうか?
(57歳 男性 佐賀県)
A 手術が可能なら子宮全摘術を
高齢者の場合、必ずしもガイドラインで示される治療が最善とは言えないことがあります。
高齢といっても合併症を多数抱え、寝たきりに近い70代の方もいれば、合併症ひとつなく自立した日常生活を送る元気な80代の方もいます。医師の側も、患者さんやご家族にとっての治療目標を確認して、個別に考えていくしかないのが現状です。
質問者の場合、精査で他臓器への転移はないようですので、比較的早期の子宮体がんと考えられます。不正出血が続いているようですが、子宮内の腫瘍のボリュームが増えるとさらに出血が増し、場合によっては感染症を併発し、*子宮留膿症となる場合もあります。
つまり、無治療や中途半端な治療で様子をみると、いずれ出血や悪臭のある帯下、発熱、疼痛の原因にもなり、QOL(生活の質)を低下させることになりかねません。また、周囲の臓器に浸潤すると、膀胱・直腸の合併症や転移による痛みが生じ、ご本人にとってかなり苦痛を強いることになる場合があります。したがって、高齢でも大きな合併症などがなく、手術に耐えうる全身状態であれば、治癒を目指す観点からだけではなく、症状緩和の点からも子宮全摘術が勧められます。
手術の負担を軽減し、かつできるだけ有効な治療効果を考えた場合、少なくとも単純子宮全摘と左右の卵巣・卵管の摘出が勧められます。手術は1~2時間程度で済みますし、排尿障害などの後遺症もなく、術後の回復も速やかです。
また、術式に限らず、速やかな離床が術後合併症予防からも重要と考えられます。もし、全身評価で手術困難と判断された場合や手術を避けたい場合は、他の手段として放射線療法の適応となります。
手術と比べ治療効果が劣る上、長期入院が必要となるため、高齢者の場合は体力を落として寝たきりになったり、入院中に認知症や痴呆が出現するリスクなども考えねばなりません。
そのため、①身体の負担にならない、②治療合併症が少ない、③症状緩和が可能でQOLを保てる、といった治療選択をされるのがよいかと思います。ご本人の希望を尊重した上で、担当医とよく相談されるとよいでしょう。
*子宮留膿症=子宮内に感染をおこし、腔内に膿がたまった病態