スペシャル対談
「がんばらない」の医師 鎌田實 VS 「こころと体の」遺伝子学者 村上和雄

撮影:大関清貴
発行:2005年5月
更新:2013年8月

  

ポジティブな考え方が遺伝子を動かす
人間として生き、存在していることは遺伝子の奇跡

鎌田實

かまた みのる
東京医科歯科大学医学部卒業。
長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、管理者に。がん末期患者、お年寄りへの24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(ともに集英社刊)がベストセラー。最近発売された『病院なんか嫌いだー良医にめぐりあうための10箇条』(集英社新書)『生き方のコツ 死に方の選択』(集英社文庫)『雪とパイナップル』(集英社)も話題に

村上和雄

むらかみ かずお
1936年生まれ。63年京都大学大学院博士課程修了(農芸化学)。米国バンダビルト大学医学部助教授。78年筑波大学応用生物化学系教授等を経て99年より筑波大学名誉教授。83年に酵素「レニン」の遺伝子解読に成功し、90年マックスプランク研究賞受賞、96年日本学士院賞受賞。著書に『生命の暗号』(サンマーク出版)『笑う!遺伝子』(一二三書房) 『世界は1つの生命からはじまった=サムシング・グレートからの贈り物 』(きこ書房)他多数

遺伝子スイッチのオン・オフで病気が治る可能性がある

鎌田 遺伝というと、人間にはどうすることもできない決められた運命のようなものと思いがちですが、先生は遺伝子学者でありながら、運命はそう決まっているわけじゃないということを書かれていますよね。まずそのへんのお話からお聞きしていいですか?

村上 確かに一般的には遺伝というと非常に固定的なイメージで考えられています。顔が親に似るというのは遺伝で、私らはいくら環境を変えようと、日本人は日本人の顔をしている。それは変わらない。しかし最近、ヒトの遺伝子の解読が進み、少なくとも研究者の間では遺伝子のイメージが、ダイナミックなものに変わりつつあるんじゃないかと私は思っています。
人の遺伝子はだいたい30億ぐらいの化学文字からなっている。その遺伝子の総体をDNAといっているわけですが、私が興味を持ったのは、そのヒトDNAの中で働いているのは3パーセント前後にすぎないということなんです。

鎌田 30億の文字のうち、働いているのは3パーセントだけなんですか。

村上 働いているのは何かというと、タンパク質やホルモン、酵素をつくったりする情報です。残りの97パーセントは何をしているのかわからない。ジャンクだという人もいるが、私は97パーセントがジャンクだというのはありえないと思っています。

鎌田 ジャンクというのは日本語でくだらないものとか?

村上 そう、まったく役に立たないもの、あるいはゴミみたいなものという意味ですね。で、ゴミが97パーセントということはないだろうと。じつは非常に大切な働きをしていると私は思っています。まだ遺伝子というものはわからないことがたくさんあって、暗号解読が終わったとしても、それはお経でいえば難しい漢字の文字の順番がわかったというレベルのことであって、解読はまさにこれからだということをまず知ってほしいんです。わかっているのはどうも多くの遺伝子は眠っているらしいということです。
そうすると、眠っているいい遺伝子のスイッチをオンにして、起きている悪い遺伝子のスイッチをオフにすることができれば、病気なども治る可能性が何倍にもなるのではないか。ひょっとすると人間は大化けするかもしれない。少なくとも遺伝子がオン・オフの状態になっているということがわかりだした。そのことを私は非常にエキサイティングだと思うんです。

鎌田 それは先生の独創的な発想なんですか

村上 いえいえ。それはもう今から50年ぐらい前に科学的には大腸菌で見つかっているんです。栄養源として大腸菌にブドウ糖を与えると、大腸菌はそれを食べるわけです。乳糖と2つ同時に与えるとブドウ糖だけを食べ、乳糖はまったく食べない。分解しないんですね。ところが、そこからブドウ糖を抜いて乳糖だけにすると、初めは食べないんですけど、やがて乳糖を食べ、分解しだすんです。適応する。乳糖を分解する遺伝子はもともとあった。しかしそのスイッチがオフになっていたと考えられるんです。

鎌田 うん、なるほどね。

村上 潜在能力と言われているものがもともとあったのか、あるいは新しく獲得したのかという解釈の問題はありますが、しかし、科学的な基礎となるこの発見は50年ぐらい前にあって、そのオンとオフのメカニズムの研究が現在かなり進んでいるんです。大腸菌という一番簡単なものから人間の遺伝子のオン・オフのメカニズムが少しわかりだした。どういうときに遺伝子がスイッチオンになるか、この問題は非常に面白いわけです。
この遺伝子のオン・オフの問題は、単に科学の問題じゃなく、人間の可能性の問題とか、教育の問題とか、まさに病気の問題とか、健康の問題を考える上でヒントになってくると思うんです。今、多くの研究者がやっているのは、たとえば運動すると筋肉がつく、つまり体操などの物理的な刺激で筋肉タンパク質を作る遺伝子のスイッチがオンになるという研究。

鎌田 僕たちは運動するといういわばエクササイズ=学習で筋肉が増強すると思い込んでいたわけだけれど、その背景には遺伝子が関係しているということですね。

村上 そう。その遺伝子はもともとあったもので、ただスイッチがオフになっていただけだと。しかし、エクササイズがないとスイッチがオンにならないから、トレーニングによって筋肉を増やす。しかしその前に、遺伝子というものが無ければ、もともとそれは起こらないわけです。多くのビタミンとかタンパク質はオン、オフに直接関係しているというデータは出てきた。

メンタルやスピリチュアルなものが大きな影響を与える

鎌田 遺伝というと、それはもう与えられた運命のように一般には思われていました。たとえば、血友病の遺伝子があれば、発病するというふうに。そういうはっきりと遺伝していくものもあるけれども、遺伝子はあるのにそれが働かなかったり、働いたりしている遺伝子がむしろ逆にうんと多いということがわかってきたということですか。

村上 そうです。がんにしても高血圧にしても、糖尿病にしてもみんな遺伝子は持っていると思うんですよ。しかしそれもスイッチがオンにならなければ発病しないわけですね。
ちょっと話はズレますが、例えばがん遺伝子といっているのは、ある意味大事な遺伝子かもしれないんですね。要するに細胞を御していくための基本的に大切なものかもしれない。だからがん遺伝子というと一般には悪玉なんですけど、それはある場合には細胞がきちんと増殖するために大切な遺伝子かもしれないんです。だからがん遺伝子をやっつけるということをやれば、へたすると人間の細胞を増殖していく能力までもやっつけてしまう可能性もある。

鎌田 がん患者さんたちにとってはなにかヒントになるような話ですね。

村上 私は血友病とか、はっきりした遺伝病以外は、病気になる遺伝子は全ての人がみんな持っているんだと思います。

鎌田 がんも糖尿病も、多くの人が遺伝子はみんな持っている。先生も僕もですか?

村上 持っている。ただし、それがオフであればいいわけです。オンやオフになる要因はなにかというと、食べ物や喫煙の習慣、ストレスなどその人を取り巻く環境でしょう。例えば、肺がんの場合ですね。おそらく煙草を吸わなければ発がんしない人がいるわけで、でもその人は元々がん遺伝子を持っていて煙草が引き金となってスイッチがオンになったりするわけです。
特別な遺伝病を除いて、私はほとんどの病気は、遺伝子が食べ物やストレスなどの環境によってスイッチがオンになったりオフになったりしていると考えたほうが正しいと思っているんです。それから環境ホルモンとか、おそらく薬も、オンとかオフに関係していて、物理的な刺激や、化学的な要因によってスイッチがオン・オフになると。さらに人間にはメンタルとか、もっと言えばスピリチュアルなものも体に大きな影響を与えている。これはほぼ間違いないと私は思っているんです。
例えば好きなことをやるときはあまり疲れないけれども、いやなことをやると非常に疲れる。それはまさに心の持ち方が体に大きな影響を及ぼしているということで、私は直感的に遺伝子がどこかで関係していると思った。なぜなら、体の中の司令官を私は遺伝子だと思っているからです。遺伝子が動かなければ体が動かないわけですから。

鎌田 わかりました。すると遺伝というのは運命ととらえないほうがいいっていうことですね。自分の考え方や生き方によって遺伝子はオンになったりオフになったりすると。

村上 完全にコントロールできるかどうかはわからないけれども、ある程度コントロールはできるはずだと。タンパクが動いたとか、ホルモン活性化がみられた、自然治癒力が増した、免疫力が上がったなどと言いますが、そのためには、免疫タンパク質が作られなきゃならない。免疫タンパク質を作っているのは遺伝子ですから、一番元に遺伝子というものがあるはずだと。ただ、体のどこに影響をおよぼしているのかとかいうことは、まだ未知の分野なわけですね。

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