ドイツがん患者REPORT 23 「チャリティ・ライブコンサート」

文・撮影●小西雄三
発行:2016年9月
更新:2018年10月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

6年前の大腸がん告知から2度の転移を体験し、いまも抗がん薬治療中の小西さん。この夏、がんサバイバー企画のチャリティ・コンサートに参加しました。


7月30日。僕のバンド〝INCS(インクス)〟はチャリティ・ライブコンサートに参加しました。いつものことながら、どういう内容か知らなかった僕は、会場に到着してチャリティ・コンサートだと知りました。バイエルン地方のラジオなどでコンサートの宣伝を兼ねて、何度も放送されていたと後で聞きましたが、普段ラジオを聴かない僕はまったく知りませんでした。

前週の金曜日(7月22日)、自宅から直線距離にして5kmほどのショッピングモールで18歳の青年による銃乱射事件が起こり、犯人を含め10人が犠牲になった事件の直後で、コンサートはあまり気が乗らないのが普通かもしれませんが、僕は演奏するのが好きだし、テロがよく起こる金曜日ではなく、土曜日だからと出かけて行きました。

コンサートの出演者たち

会場はミュンヘン市営交通博物館(写真1)で、20組近くのアーティストが参加しました。博物館の広い敷地内で、地区の消防団が放水ショーを行ない、マジックショーなどもありました。

コンサート会場の市営交通博物館。建物内に線路が設置されている

コンサートはシンガーたちがメインで、音楽とトークで聴衆を楽しませていました。僕のバンドは、若い女性がん患者をアクト・フォト・シューティングで支援する組織「R.Y.S」の推薦で参加しましたが、僕たち以外は、60・70年代にヒットを飛ばして活躍していたシンガーたちだそうです。

その時代、僕はドイツに住んでいなかったので、彼らのことを知りませんでしたが、日本でいえば、歌謡曲の歌手みたいな感じかな。しかし、びっくりしたのは、みんなクラシックやオペラなどがバックボーンにあるので、3オクターブぐらい軽く出して歌っていることでした。

個人のがんサバイバーの企画

コンサートの題名は、「Tanze im Regen」(雨の中のダンス)。

主催者はマニュエラという、がんサバイバーの女性でした。がん闘病中に、いろんな医療機関にお世話になり、がん患者の援助会などにも勇気づけられたそうです。そして生き残れたことに感謝し、そのお礼として、今度は彼女が「少しでも経済的に援助したい」と、このコンサートを企画したそうです。

前述の有名なシンガーたちも、会場のミュンヘン市営交通博物館も無償で協力。ビールサーバー付きのドリンクスタンドやバーベキューのスタンド、これらすべての費用が小さな企業や飲食店、その他この企画に賛同した人たちの寄付と無償の協力によるものだそうです。僕はマニュエラを知りませんが、そこそこ著名な人かもしれません。しかし、個人の企画にこれだけの人々が賛同して協力してくれることが、僕はやっぱりうれしかった。

天気のせいか、値段のせいか

1つ残念なことは、観客が思ったより少なかったことです。当日は快晴。そうなると、ミュンヘンっ子たちは川やプールに湖と水遊びに出かけ、それ以外はビヤガーデンで過ごすのが一般的な週末の過ごし方になるからかな?入場料が28ユーロ(3,200円位)と少し高めで、観客の多くはその服装から察するに、少し上流っぽい人が多いように見えました。僕としては、入場料を1,000円位にすれば、何倍もの観客を集められて、がんへの啓蒙という視点からもよいし、寄付ももっと集められたのにと思いました。

しかし、主催者の彼女は満足しているようで、ライフワークとして毎年やる決意を固めたそうです。彼女にとっては、何もかも初めてのこと。いろんな失敗を検証して、毎年よくしていくと言っていました。

コンサート終了後、すぐ来年の企画を始めたようで、僕のバンドにもう来年の出演の依頼がありました(写真2)。どこまでも、ポジティブな人です。

演奏中の〝INCS〟。座ってギターを演奏する筆者

がんサバイバーへの差別と区別

余談ですが、僕はがんサバイバーとして、「差別」はされたくありませんが、「区別」は必要だと思っています。僕は見た目も精神的にも健常者と変わりませんが、肉体的には以前と違っていろいろと障害があり、体力や持続力もはるかに低下していて、見かけの年齢通りにできないことが多いのです。もちろんがんサバイバーには個人差があり、人によっては、健常者と変わりなく回復した人もいるでしょうが、そうでない人も多いはずです。

たまに、がんサバイバーで健常者以上に活躍している人の話を聞きます。そうすると、心の中で「頑張れ~」と思う反面、「この人ができるんだから、あなたにもできるでしょう」という声なき声を感じて、プレッシャーに感じることがあります。

「がんサバイバーにもいろいろあって、ほかのがんサバイバーと同じ能力を求められてもできないし、できることはやってるんだよ」と反論したくなります。〝病み上がりのハンディ〟は、れっきとした事実なんです。

以前、抗がん薬の副作用で足の裏がしびれて、歩行困難に陥り、ものすごくゆっくりとしか歩けない時期がありました。ある日、道を渡ろうとしていると、クラクションを何度も鳴らされました。僕は一見、健常者に見えるので、ドライバーは僕がふざけてわざと車の通行の邪魔をしていると思ったのでしょう。通り過ぎるときにののしられました。

障害者は腕に黄色の障害者マークをつけていますが、僕もそれをつけていれば、問題なしだったのかもしれないし、杖をついていれば理解されたのかもしれません。しかし、僕はそうしたくない。みんなが、僕のような人を見たときに、「ふざけてる」とは思わず、「どうしたのかな?大丈夫なのかな?」という他人をちょっとだけ思いやる心、そういう心の余裕のある社会になってほしいのです。多分、それが僕の思う健常者との区別で、僕の望みでもあります。

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