ドイツがん患者REPORT 27 「アドヴェント(Advent)」

文・撮影●小西雄三
発行:2017年1月
更新:2017年1月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

「もう、いくつ寝ると、お正月……」

師走になれば、やたらと気せわしい気分になって、「はやく来い来い お正月」と、童謡の歌詞のように毎日願っていたことを、この季節になると思い出します。

僕の住むドイツでは、お正月ではなくって、クリスマスが最大のイベントです。子供はもちろんのこと、 大人もプレゼントやクリスマスの準備に追われて多忙ながらも、クリスマスが来るのをうきうきと待ち望んでいるように見えます。日本でなら「指折り数えて」というところですが、表現として、ドイツでは当てはまりません。

アドヴェント(Advent)とは?

アドヴェントとは、日本語では待降節(たいこうせつ)または降臨節(こうりんせつ)と呼ばれるキリスト誕生までの4週間を指す期間のことです。アドヴェントが始まると同時に、クリスマスマーケットもオープンします。

ミュンヘンの中心部にあるマリエン広場のクリスマスマーケット

ドイツでは、プレゼントはサンタクロースではなくて、クリスキンドと呼ばれる天使が運んでくることになっています。それで、クリスマスマーケットもクリスキンドマルクトという名前です。

サンタと同じニコラウスという人物もいて、「ニコラウスの日」というのが別にあります。サンタとはちょっとイメージが違い2人組で、ニコラウスの相棒はグランポスという名前で、子供にとって見るからに恐ろしい風体をしています。そして、子供に「良い子でいたか?」と質問します。良い子の場合は、ニコラウスからプレゼントがもらえますが、良い子でなかった場合は、グランポスにぶたれるということになっています。まるで、なまはげのようですね。

多くの子供は、プレゼントは欲しいけれど、みんな1つや2はぶたれる理由があるから恐怖心もあり、「好きだけど怖い」といったコンフュージョンな気持ちになるようです。

僕の娘も、ニコラウスたちが来たときは、やっぱり怖くって、泣き出しそうになっていました。息子のほうは、どう見ても娘より良い子ではないのに、自覚がないせいか平気でした。その上、グランポスの質問を、「そうそう、姉ちゃんは、言うこと聞かなかったし」みたいに、自分のことを棚に上げてうなずいていました。「自分のことがわかっていないほうが、人生得なんだなあ」と得心してしまいました。

グリューバインの出店

クリスキンドマルクトには、いろんな出店が出ています。伝統的な手作りのツリーの飾り、スウィーツ、ろうそく、プレゼントになるようなもの、飲食店も多く出ています。

グリューバインという名の香辛料とオレンジのしぼり汁の入ったホットワインで、冷えた指先を熱いカップで温め、胃の中に流し込んで体の中からも温め、ちょっぴり疲れた体を癒し、「さあ、もうひと頑張り」っていう人たちで、にぎわっています。

アドヴェントカレンダー

最近は、日本でも見ることがあると思いますが、こちらではアドヴェントカレンダーというものを、子供たちはこの時期にもらいます。

このカレンダーには、1から24まで番号のついた窓が設置されていて、この24個の窓を、12月1日から毎日1つずつ開けていき、最後の24番を開けたらクリスマスイヴという仕掛けになっています。昔と違い、今は菓子メーカーが、すべての窓に違う形のチョコレートを入れた手間のかからないものを販売しています。

息子のアドヴェントカレンダー

グミで世界的に有名なHARIBOも、グミで作ったフィギアを入れたアドヴェントカレンダーを販売していますし、ブロックのような組み立てフィギアのメーカーのプレイモビルも、24個の違ったフィギアを入れたものが最近ではあるようです。これは、かなり高価なものです。

娘にはそういった出来合いのチョコレートでもよいのですが、乳製品のアレルギーがある息子には、家内は息子の食べられるお菓子を用意して、自家製のアドヴェントカレンダーを作っていました。娘は24歳、息子は21歳になっていますが、子離れしていない家内は、今年も子供たち用にアドヴェントカレンダーを作っていました。

4本のろうそく

イヴから4週間前に、アドヴェントが始まるので、昔からの風習として、4本のろうそくを用意して、1週間に1本ずつ火をともしていく風習があります。松やモミの木の枝を組み合わせてクランツ(冠)と呼ばれる輪を作り、少しデコレーションして、12時、3時、6時、9時の位置にろうそくを設置します。子供ですと毎日ですが、大人は毎日火をともしながらも、数える単位は週単位ということかな。

自宅の4本のろうそく

盛り上げ効果?

「数えるのが下手だから」という意地悪な見方もありますが、毎日小さなプレゼントをもらうことで、クリスマスまでに気分を盛り上げて、期待を膨らませるという効果は大きいと思います。

アドヴェントカレンダーの場合は、24個の窓を開けると、確実にクリスマスはきます。残念ながら、がん治療はそうはならないケースが多いですね。治療にも〝治療計画〟というのがあり、アドヴェントカレンダーのように、1つずつこなしていきます。ただし、違いはあります。窓を開けたら、中に何も入ってなかったということも、治療の場合は起き得ます。それどころか、「このアドヴェントカレンダーは、あなたに合ってないから違うものに交換します」とか、もう20個も窓を開けたのに、「もう一度、1番からやり直し」とか起こることもがん治療には多いように感じます。

僕は最初の闘病のとき、〝カムバック予定カレンダー〟を作りました。それは、約8カ月で完治。11カ月後には仕事に復帰となっていました。残念ながら、何度も僕のアドヴェントカレンダーは、新しいものに変わっていきました。今でも、予定通りにはいきません。患者のみんなが、アドヴェントカレンダーのように予定通りにいき、しかも開けてみて、「中身がなくてがっかり」なことがなくなるくらいに、医療が進歩することを願ってやみません。それを「僕は指折り数えて」待っています。

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