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ドイツがん患者REPORT 39 「バランスをとる」
「11月なのに暖かいなあ」と思っていたら、突然の雪景色。にわかにクリスマスの雰囲気になりました。ドイツでは、クリスマスが日本のお正月。最大のイヴェントであるのは、今も昔も変わりません。
家の近くの赤十字広場でも小規模ながらクリスマスマーケットが開店しました。毎年同じような店ばかりに思えるのですが、この30年ほどでスウィーツはクレープ屋がメインになったりと、少しずつ変化はありますが、ホットワインの店前が一番混雑しているのは、昔から変わっていません。
そして、12月に入りアドヴェント(Advent)も始まり、「もういくつ寝ると……」なんて、子供たちはクリスマスを待ちわびていることでしょう。
待ちわびていた「ゼローダ治療を止める」だったのに
同じように、首を長くして待ちわびていた*ゼローダ治療を止めてから、はや2カ月になろうとしていますが、際立った回復はしていません。
確かに、下痢や腹痛は、治療中に比べるとましになってると思うのですが、ここ3週間ほど体調がよくないのです。まるで冬眠しているかのように眠くって、だるくて、慢性疲労症みたいになっています。
それで先週、ホームドクターへ相談に行きました。血液検査の結果は、いつもと同じように全体的に値が低く、ヘモグロビンが少ないので、鉄分の補給を試してみることになりました。体に害になるものでもないだろうと、毎日カプセルを1つ飲み始めたら、僕の体が驚いたのか、下痢がひどくなりました。慣れてくれば収まると思うので、服用を続けていくつもり。とにかく、少しでも元気になればという願いを込めて。
*ゼローダ=一般名カペシタビン
バイエルンで小児科医が不足
「パナマ文書」で有名になった南ドイツ新聞はお堅い新聞ですが、〝タブロイド紙〟とでもいうのか、柔らかい記事をメインにしたミュンヘンの地方新聞の中の1紙の一面に、「バイエルンで、小児科医が不足‼」と大きく出ていました。
普通は、不足するものを補充すればビジネスになるのですが、健康保険の報酬制度では、専門医が開業しても儲からなくなり、全体的に専門医の不足が指摘されている昨今、小児科医まで足りなくなったのは困ったことです。
大人の場合は、具合が悪くなれば、まずホームドクターで診てもらいます。子供は、普通のホームドクターには行かず、初めから小児科専門医になります。子供が病気になっても小児科専門医が少なくなれば、病院へ行くことになり、救急指定の病院は大変困ることに。予防注射なども含めて、いろんな理由で小児科にかかることが多くなっているが、ドイツも日本と同程度の少子高齢化が進んでいて、本来なら小児科医が余ってきそうなのに。
慢性的な看護師不足
先日、テレビでは看護師の不足が取り上げられていました。この話題は、昔から何度も話題に上っているので、「いつもの事」と言う気がしました。今回、報道のきっかけは、入院中の患者が胃に大量出血を起こしたが、看護師が多忙のため、気付かれなかった。そのため手遅れとなり、死亡したという事件があって、クローズアップされたわけです。
僕も看護師の人手不足が原因で、「夜中にコールして、長い時間痛みを我慢して、来てくれるのを待った」経験をしょっちゅうしています。
この3年間は入院していませんが、「変わっていない」ことに、ちょっとがっかりしました。痛みを我慢するぐらいならまだしも、命にかかわりそうな事例も、僕は入院中に見ています。
肝転移切除のために入院した大病院での出来事
それは、8年前、大腸がん肝転移を切除するために入院していたミュンヘン大学病院で起こりました。その病院は、欧州一の手術台数を誇り、臓器移植などでも有名で、欧州でも名だたる大病院です。ヘリポートには近郊から手に負えない急患が集まってきます。病院そのものがまるで小さな町のような、コミュニティをそろえた大病院でもあります。
僕のいた外科病棟は、臓器移植やがん摘出手術の人たちが入院していました。そこは、僕の肝臓手術が簡単な部類に入るくらい、難しい手術の患者ばかり。なのに、看護師は本当に少なく、常時2、3人の看護師しかいないようでした。
僕がいた3人部屋の1人は、少し変わった患者でした。何か障害があるためか、昼間は彼の姉が常に付き添っていました。彼は手術をして、腹部に大きな縫合がありました。姉がいないときには、彼はナースコールを鳴らし続けています。その理由は、わがままに聞こえる事ばかりだったので、彼はまるでオオカミ少年のような扱いを受け、看護師もあまり来なくなりました。
ある日の午後、姉の付き添いがなかった彼はコールを鳴らし続け、ベッドの上でエビのように上下に跳ねていました。やっと、看護師がやってきたときには、縫合したところが開いてしまっていて、大変なことになったようです。そんなこともあり、入院中は「早くここを出ないと殺さ……いや、死んでしまう」と思ってしまいました。
ちなみに、番組では、看護師1人が看る患者数は、ドイツが13.7人、オランダ7人、北欧ではわずか5人。いかにドイツの看護師の労働状況が過酷か、そのために不慮の事故の要因になっていることを指摘。国は病院側に看護師の人数を増やし、労働状況の改善を図り、患者の安全性を高めるように勧告、または法的に強制できるようにする動きが出てきたと言っていました。
よりよいサービスを求めると、どうしても経済的負担は大きくなります。ドイツは健康保険の運営は国ではなく保険会社が運営しているので、保険料金の引き上げか、国からの補助金を増やすことになるのでしょう。日本に比べ、国の負担が少ないが、それでも良い医療サービスの提供をしているドイツの健康保険制度も、いろんな問題を抱えています。
テレビ番組の真実
また、ある番組では、抗がん薬の使用について疑問を呈していました。乳がん患者が腫瘍摘出後、*アバスチンによる化学療法中、突然全身に耐えられないほどの痛みを感じ、そのまま入院。彼女の話では、「今までに体験したことのないほどの痛み」が続いたそうで、化学治療は中止したそうです。
番組では、イギリスの医療研究チームが、アバスチンに抗がん効果はほとんどないという研究結果を発表したことを紹介。
「副作用で苦痛を味わい、その上に健康をむしばみ、QOL(生活の質)を極度に下げる抗がん薬が、効果があまりないなら、化学治療そのものを見直すべきでは?」という問いを投げかけていました。
この10年の間で、多くの新しい抗がん薬が開発され、治療の幅が増えたことにより、高額な抗がん薬を使用する化学療法の費用は4割増しとなっていることも、あげていました。
「一度正式に認可されると、その薬は使用され続け、効果の有無の検証が疎かになり、本当にそれが患者にとって最適な選択なのかが問われなくなりがちだ」と言っていました。
確かに、そうかもしれませんが、わだかまりを僕は感じてしまいます。番組を見ていた僕は、化学療法を受けることが、何か悪いことのように感じさせようとしている気がしました。
そういう意図がないにしろ、医療、とくに最近はやりの代替治療を最良と信じる人たちが、こういう番組を見ると、増々「化学治療を受けるべきではない」と思ってしまうのでは? と憂慮してしまいます。医療費節約のためのプロパガンダとは思いたくないですが、100,000ユーロほど薬代にかかるとか言われると、ついつい穿(うが)った見方をしてしまいます。
*アバスチン=一般名ベバシズマブ
バランスをとることの大切さ
前号でも書きましたが、2週間前に、やっとバンドの録音を終えました。とはいえ、録音はたった1日で、わずか6時間の強行軍。向こうの都合により、延び延びになっていただけなのですが。これは、R.Y.S(若い女性がん患者を写真撮影で精神的に助けていこうという非営利団体)代表のバーバラが、これまでの活動が認められて、2017年のドイツの女性1,000人の1人に選ばれた記念に制作。彼女らのイヴェントで販売して、活動資金の援助にしようと企画されたものです。僕らはクリスマスプレゼントにするつもりだったのですが、残念ながら時間的に無理なようです。
その録音中に面白く感じたことは、〝バランス〟ということです。すべての楽器を大音量で流すと、すべてがぶち壊しになる。ずっと同じ音量だとダイナミックさに欠ける。その都度、状況により、大きくするもの小さくするものという風に強弱つけて、細かく変化させることにより、全体がバランスのいいものになります。
医療、健康保険、経営、負担。いろんな要因をその都度、その状況の最善に合わせる。つまりバランスをとるのがいいと、強く思いました。治療も医療も、生き方も、バランスなんだと思いました。
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