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ドイツがん患者REPORT 44 がん患者を支援するCD「Recover your smile」
半年近くかかった自主製作のCDがやっと出来上がり、僕の手元に何枚かが届きました。テストを兼ねての製作なのであまり多くは作っていませんが、病気になってこの9年余り、いろいろと助けてくれた友人と家族にまず送ることにしました。
このCDは、「Nana-Recover your smile」(R.Y.S)という若い女性がん患者団体を支援するために作りました。
がんと闘っている患者、とくに若い女性患者への応援歌で、CDのタイトルも「Recover your smile」(あなたの微笑みを取り戻す)です。
「Nana-Recover your smile」の設立
18歳で骨肉腫となったナナは、いろんな障害を乗り越えて、20歳のときになるべく普通に生きようと決心。彼女の望みでもあった「アート写真のモデルのように非日常的な衣装をまとい、綺麗なメークで撮影する」ことを実行しました。
プロカメラマンが撮った写真展は大きな反響を呼び、彼女の母親 B・ステッカーとその友人 D・ザイツが制作した写真闘病記『Nana der Tod traegt Pink』(ナナ、死はピンクを着て)は、2012年ドイツでベストセラーになりました。残念ながら主人公のナナは、本の成功を見ることなく21歳で他界しました。
その後、ナナの母親と共著者が中心となり、若い女性がん患者の生きるモチヴェーションの支援をしたいというナナの意志を引き継いで作られた団体が「Nana-Recover your smile」です。
R.Y.Sとの出合い
僕とR.Y.Sとの出合いは、2014年、ミュンヘン・ルードヴィッヒ・マキシミリアン大学病院グロスハダムで行われた「乳がん患者センター・インフォメーション・ディ」でした。そこで、R.Y.S 2冊目の本『Jung. Schoen. Krebs』(若く、美しく、がん)のプレゼンを取材しました。偶然にも、僕のバンドメンバーの1人が彼女たちと友だちでした。
僕はがんサヴァイヴァーで、ボーカルのデーヴの娘・ナディーンが大腸がん肺転移で闘病に入ったことなどいろんないきさつがあり、僕のバンド「INCS」が活動を手伝うようになりました。また、がんサポート誌に「ドイツがん患者REPORT」を2014年12月号から連載するきっかけにもなりました。
ミュンヘンを中心に活動するR.Y.S
R.Y.Sの活動の中心はフォトシューティング(写真撮影)です。若い女性がん患者に、プロのメークアップアーティストが衣装に合わせた化粧をきれいに施します。衣装は非日常的なものが選ばれることが多く、当然それに合わせた背景や小道具が用意され、場合によってはロケも行います。撮影はプロカメラマンが、そして作品は主にネットで発表されますが、写真展なども開いて多くの人に見てもらいっています。
がんを患うと、容姿にもいろんな変化が起きます。それは闘病のモチヴェーションを下げることが多いものです。乳房を失い、髪を失い、肉体的にも精神的にも大きなダメージを受けた患者にのしかかってきます。
僕が化学療法を受けるときにまず行ったこと、それは坊さんのように髪を短くすることでした。ごっそりと髪が抜けるショックを避けるために。母親や姉の体験談を聞いていたので、僕の身に起きることの予想がついたからでした。
「命の危機に直面しているときに、他にやることはないのか?」と思われるかもしれませんが、案外そういうものでした。40過ぎの僕ですらそうなのですから、若い女性患者にとってはなおさらつらいことでしょう。
誰しもがナナのようにはなれないが、少しでも精神的な面で助けたい。「同じ仲間がいる、多くの人が理解してあなたの後ろにいる。だから一歩外に向かって踏み出してみよう」。そういうきっかけになれば、ということです。
ナナは病気を不幸と感じることはなく、最期まで生きることを楽しむことができた。それができた理由が、フォトシューティングでモチヴェーションを維持できたことだった。だからこそ「活動の知名度を高め、1人でも多くの女性患者の精神面での手助けをしたい」ことが、R.Y.Sの目的となりました。
フォトシューティングの活動の中心はミュンヘンですが、この活動を必要としている若い女性がん患者はドイツ中にいるので、ときには出張もしています。しかし、まだまだ満足な活動になっていないのが現状です。
撮影時にメークを担当しているLilly meets Lolaはメークアップの専門学校で、R.Y.Sに無料でメークアップ教室を提供。プロカメラマンは活動に賛同して、無料で仕事を引き受けています。それでもいろいろと費用が掛かるので、大きなことはできません。しかし、地道に活動を続け、啓蒙に務めています。
R.Y.Sの象徴になったルイーゼ
ルイーゼは、R.Y.Sの象徴的な女性です。ルイーゼも初めは1人の若い女性がん患者として、この団体と出合いました。彼女の、天真爛漫な、誰にも好かれるすばらしい人間性のおかげで、団体の象徴的な女性となっていきました。
このドイツレポート 2014年12月号掲載のライプチヒ・サプライズパーティへの演奏旅行の映像がいくつか編集され YouTubeで見ることができます。こういうときは、「世界は本当に近所になった、コミュニケーションの上では」と、海外生活の長い僕は感慨を覚えます。
2015年6月5日、ルイーゼは他界しましたが、その3日前にはミュンヘンの大衆新聞「TZ」の一面に大きく彼女の写真が載り、「26歳、不治の転移がんを患いながらも楽しく生きる女性、ルイーゼ」と書かれていました。R.Y.S 3冊目の本、死へのいろいろなアプローチが内容の『最期への同行者』をテーマにした記事でしたが、そこでもやはり、ルイーゼは輝いていました。
たとえルイーゼがR.Y.Sと出合わなくても、彼女は彼女らしく人生をまっとうしたでしょう。しかし、彼女を知ることにより、多くの人が勇気づけられたことは間違いのない事実です。デーヴの娘も、大腸がん肺転移で闘病中、闘病の仲間として、友人として、ルイーゼに何度も元気づけられました。
CDに記されている3人の女性の名前
R.Y.Sは知名度を上げるために、いろんな活動を行っています。僕のバンドは、R.Y.Sのお抱えのバンドとして、必要とあれば演奏しています。
「僕たちのバンドに何かできないかな?」と作ったのが、このCDです。SNSを通じて販売し、利益をR.Y.Sに寄付をするつもりです。
貧乏バンドの僕たちは、いろんな人の助けでCD製作ができました。自主製作ですが、ブックレットにはこだわっています。そこに書かれていることがCDの製作意義だから。
がんという死ぬかもしれない病気に罹り、容姿の変貌が一番気になる二重苦の若い女性患者への応援歌。そして、娘を失った親の心の痛みも伝えたい。
ブックレットの最後に、3人の女性の名前があります。R.Y.S創設のきっかけとなったナナ、R.Y.Sのシンボルであったルイーゼ、そして、デーヴの娘ナディーン。僕たちは彼女のことを忘れません。もし、彼女たちががんサヴァイヴァーになっていたら、R.Y.Sを何らかの形で支援していたでしょう。ですから、その気持ちを込めて彼女たち3人の名前を記載しました。
PS. YouTubeで「Recover your smile」と検索すれば「R.Y.S」のビデオを見ることができます。ドイツ語ですが、R.Y.Sの活動の一部を見ることができます。
同様に、僕のバンド「INCS」もYouTubeで「Luise, der Reisebegleiter und die INCS」というタイトルで、ルイーゼのサプライズパーティが見られます。The INCSのところをクリックすれば、現在2本のビデオを見ることができます。ライブを撮っただけですからクォリティは高くありませんが。1本は、体調を崩しクリスマスライブに来られなかったルイーゼに贈るため彼女の好きなドイツ語の曲をカバーしたもの。もう1本は、ボーカルのフランツィーの父親の悪性リンパ腫が再発して、励ますために演奏したものです。
「Recover your smile」の曲は、未定ですがいずれ撮影してアップするつもりです。
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