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ドイツがん患者REPORT 47 「ドイツの子宮頸がんワクチンの予防接種の今」
今、僕の部屋のテレビはいくつかの事情により国営第1放送しか映りませんが、ワールドカップ・ロシア大会のとき以外は、とくに不自由は感じていません。その国営第1放送に、「プラス・マイナス」という興味深いドキュメント番組があります。
エビデンス(科学的根拠)に基づいたデータを取り入れて、いろんなトピックを紹介する番組で、僕らにとって知識の補強になるものです。最近はネットでアーカイブとして再度見られるので、細かなデータも信用がおけるものになっていると思います。その中で僕の興味を引いたトピックが、「なぜ、がんの予防接種を誰も受けていないのか?」と言うものでした。
ある子宮頸がん患者の話
ドイツでは、3番目に女性に多いがんとなっている子宮頸がん。婦人科で定期検診を受ける女性が多いため、早期に発見されることがその理由の1つかもしれません。
年間で、140,000人が子宮頸がんの疑いで手術を受け、そのうちの4,600人(32.9%)が悪性のがんでした。このようなデータがあっても、子宮頸がんは、南ヨーロッパや北アフリカなどのどちらかと言うとあまり先進国でない国の病気だと思い込んでいる人が、今でもドイツには多いようです。
番組でインタビューに答えていた女性は、34歳で子宮頸がんを発病し闘病が始まりましたが、発病から10年後に再発しました。
「もし、子宮頸がんワクチンの予防接種を受けていたら、この10年間のトラブルや苦悩はなかったでしょう。これから始まる再発治療の闘病もなく、はるかに有意義で楽しいたくさんの時間を過ごせたに違いありません」と、彼女は切実に語りかけていました。
「娘には、予防接種を受けさせます!」と断言も。娘の将来に、自分が受けたような苦しみを味合わせたくない。予防できるものなら、予防してあげるのが親の義務。しかも予防できる簡単な方法があるのに、ドイツでは予防接種を受けない人が多い。*ドイツ人が発見し、作り上げたワクチンなのに。
*ドイツのウイルス学者、ハラルド・ツア・ハウゼン(Harald zur Hausen)が、ヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頸がんの原因であることを発見。その功績によりノーベル医学生理学賞を2008年に受賞
10年前に始まった子宮頸がんワクチン予防接種
「HPVウイルスは、性行為により感染するため、誰もが感染しキャリアになる可能性を持っている。将来の世代を救うためには、子宮頸がんワクチンの予防接種が最重要だ」と、シャリティ・ベルリン病院のアンドレアス・カウフマン医師は言っています。
そしてハラルド・ツア・ハウゼンがノーベル賞を受賞した2008年に、ドイツで子宮頸がんワクチンの予防接種が始まりました。それと同時に、この予防接種ワクチンの悪い噂が広まり始めました。
ワクチンの噂は、直腸がんの発病前で肉体的にも精神的にも最悪の状態で、世間から隔離されていたような僕ですら聞いたことがあるくらい、大きな話題になっていました。
現在のドイツの予防接種率は、残念ながら42%と半数にも満たないかなり低い結果が出ています。これは周辺のEU各国と比較しても、かなり低い数値です。
イギリス85%、ノルウェイとポルトガルが83%、スウェーデン77%、オーストリア75%、スイス63%、スペインが60%と低めですが、それでもドイツの42%に比べると、ずっと高い接種率です。
何年か前に、BBC制作のドキュメンタリーで、子宮頸がんワクチンを取り上げたものを見たことがあります。そこでは、子宮頸がんによる死亡が極端に多い国ブータンが、子宮頸がんワクチンの予防接種を国策として義務付けようとしました。ところが、同様の原因で多くの女性が死亡している隣国のインドで、3,000人もの女性が、この予防接種を受けて亡くなったという報告が出されました。それを受け、ブータンでは予防接種法案が廃案となりかけました。
しかし、その後「3,000人の死者の死因に、ワクチンとの因果関係は見つけられない」という報告がイギリスから出された結果、ブータンでは子宮頸がんワクチンの予防接種が義務付けられることになった、というものでした。
このワクチンに対してかなり好意的だったのは、ドキュメンタリーのテーマが「予防接種の歴史」だったからかもしれません。しかし、イギリスの85%という子宮頸がんワクチン接種率を見ると、これに関しては、イギリス人は風評に踊らされることなく、ドイツ人よりも冷静に合理的に受け止めているということでしょう。フランスの接種率が出ていないのが、ちょっと疑問に思いましたが……。
ドイツで予防接種が広まらない3つの理由
1. ワクチン接種の始まった直後に死亡例が2件あり、それで色々なよくない噂が広まり、以前からあった製薬会社や医療に対する不信感と相まって、「今まで予防接種をしなくても別に問題がなかったんだから、この先も大丈夫だろう。わざわざ余計なリスクになるようなことをしなくてもいい」という、楽観的で消極的な方向になっていったため。
その後、ワクチンとの因果関係は見つからなかったのですが、そのファクトよりもワクチンは危険という噂が幅を利かしているからです。これには、ハラルド・ツア・ハウゼン博士も心を痛めています。
2. 一番効果があると言われている予防接種の年齢が9歳~14歳であり、この年齢はまだ小児科医にかかっていて、婦人科医には抵抗がありかかりづらい。学校や両親が子宮頸がんの特徴や危険性を理解していないことが多く、子供に対してきちんとした説明ができていない、と小児科医が指摘しています。
性行為によって感染することも、説明しづらくしているのでしょう。ドイツは性教育に関してかなりオープンですが、親子だと案外に閉鎖的です。知識不足が、予防接種を避けるという消極的な選択になるのでしょう、「うちの子に限って大丈夫」のような。
3. 健康保険の適用が17歳以下のため、17歳以上の人が予防接種を受けたい場合、470ユーロ(約6万円)を自費で支払わなければならない。このくらい高額だと、若い女性は二の足を踏んでしまうのは当然でしょう。
娘がワクチン接種をしなかった理由
僕の娘は今年26歳。10年前は、ちょうど予防接種を受ける年齢でしたが受けてはいません。家内は反対でしたし、本人も婦人科に行っての予防接種に乗り気ではなかったですから。いろんな悪い噂が聞こえてきて、家内は自分の婦人科の主治医に相談しました。その医師がどっちつかずの返答を繰り返していたため、家内は最後にこう質問しました。
「あなたの娘がこの年齢なら、予防接種を受けさせますか?」
医師の答えは、「Nein」
これが、決め手となりました。
家内も、他のドイツ人と同じ考えで、子宮頸がんは北アフリカとか、医療の進んでない国の病気だから心配はいらないのではと思っていましたが、僕なんかは「遊び人のボーイフレンドができたら、そういう国で遊んで感染して帰ってくるのでは?」と思ったのですが、僕自身も知識がなく、他人の話を鵜呑みにして納得していました。
当時は、婦人科の医師ですらそんな感じでしたので、不信感の中、消極的になっていきました。今、娘が予防接種をしたいと言えば、470ユーロかかります。ドイツ国内で予防接種の重要性が認められ、機運が高まれば保険適用になるのでしょうが、こういう番組で啓蒙しなくてはいけないくらいに、知識も風評も10年前とあまり変わっていないようです。
これからの取り組み
ヘッセン州では、学校と医師が協力して、親と生徒の両方に説明会を開くなどして、細やかな説明を通して子宮頸がんワクチンに対しての誤解を解いたり、重要性を認識してもらう努力をしているそうです。成果としてヘッセン州では、接種率が88%にも上昇したそうです。
いま新たな取り組みとして、男子に子宮頸がんワクチンの予防接種を試みています。しかし、これに関してはなかなか理解が進まないようです。男性の場合、子宮頸がんになることがないので、危険性を感じられないからでしょう。
15歳~45歳の男性は、世界的に見て複数の性パートナーを持つとされています。そして、多くの場合、男性がこのウイルスのキャリアです。
「またまた、ビジネスを広げようとして」と、うがった見方をする人もいると思います。しかし、子宮頸がん患者はきっとこう思うでしょうね。
「予防できるのなら、予防しようよ」
日本の場合 HPVワクチンは平成25年4月に予防接種法に基づき定期接種化された。現在、積極的勧奨は中断されている。定期接種としての位置づけに変化はないが、日本の接種率は70%以上から1%未満に急落。WHO(世界保健機関)は平成27年12月声明で、若い女性が本来予防し得るHPV関連がんのリスクにさらされている日本の状況を危惧し、安全で効果的なワクチンが使用されないことに繋がる現状の日本の政策は、真に有害な結果となり得ると警告。
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