ドイツがん患者REPORT 57 「食品添加物でもめるEU」

文・イラスト●小西雄三
発行:2019年7月
更新:2019年7月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

「きれいに見えたほうが良い」のは世界共通でしょう。それは印刷物でも、壁の色でも、食料品でも。とくに和食の影響で「目で食を楽しむ」ということが言われ始め、武骨なドイツでも盛りつけを凝ったりするようになってきました。

食料品、とくに菓子類は子供が選ぶことも多いせいか、ぱっと目を引いて美味しそうに見える商品が選ばれがちです。

日本に比べるとドイツの食品や菓子類は包装も地味ですし、さほど子供心をくすぐるといったイメージはありませんが、それでも色がくっきりとすることは、かなり重要のようです。アメリカの菓子類のようなどぎつい色の菓子はありませんが、一般に使用されている着色料がもめ事を引き起こし、この間の欧州議会選挙にまで影響を与えました。

「酸化チタン」って知っていますか?

その揉め事となった着色料とは、酸化チタン(Ⅳ)または二酸化チタンともいう無機化合物です。用途は白色の塗料、印刷インキ、化粧品、顔料、絵の具などなど。これを使用した商品が身の回りにたくさんあることを知り、「へー、そうなんだ」とびっくりしました。

ただ、食料品にも使われていると聞いて、チタンという金属名が入っているせいで少し違和感を感じました。

ドイツでも食品の添加物は、もちろんパッケージに表記されています。しかし、名称ではなく、ほとんどが略式記号で表示され、酸化チタンの場合は「E171」、化粧品などの場合は「CI77891」です。

息子に喘息(ぜんそく)とひどいアレルギーがあるため、添加物をチェックするのが身についている僕は、息子のアレルギーと無関係のものにはこれまで関心がなくて、E171が酸化チタンであると知りもしませんでした。しかし、この記号表記には、無様な恐怖感や、風評被害を避ける意味もあったのでは? と思わず勘ぐってしまいました。

というのも、テレビ番組で酸化チタンが添加物として食品に入っていると聞いた買い物客のリアクションが、「やっぱり思うことってみんな同じなんだ」と感じたからです。

男性客は「チタン? 金属がなぜ添加物なんだ?」、女性客は「ダイオキシンって、絶対に体に悪そうね、そんなものが入っているんですか?」と驚いていました。

「酸化」を日本語で聞いてもさほど悪い印象はないでしょうが、ドイツ語では酸化チタンは「Titandioxid」、ダイオキシンの名称がそのままなのです。ダイオキシンという言葉は日本と同様に良い印象を受けません。実際には酸化は、普通の化学反応で、自然界に普通に存在するのですが。

酸化チタンの危険性は?

では、酸化チタンはどのくらい危険なのでしょうか? こういうときには必ずと言っていいほど登場するのがドイツ環境協会です。

「危険性を大いに考慮すべき物質」と、そこの科学者R.ブッシュマンがインタビューで答えています。

その理由は、「ナノ粒子の酸化チタンが細胞内に入り込む可能性がある。酸化チタンを含んだ食品が体内に入ると、胃や腸で一緒に吸収されるが、ナノ粒子の酸化チタンは排出されずに体内に残ります。動物実験では、それによって炎症が引き起こされることも証明されているのです。我々の調査では、例えば8%のチューインガムから、このナノ粒子の酸化チタンが発見されています」

「本当に酸化チタンは危険なのか?」と、1年以上も熱い討論が欧州化学品庁(ECHA)で続き、「吸入摂取をしたら、がんを発症させる可能性すらある」という結論に行きつきました。それを受け、フランス政府は2020年度より食品への酸化チタンの使用禁止を決めました。

R.ブッシュマンは、「酸化チタンの安全性が証明できるまで使用禁止にすべきで、フランス政府が正しい」と言います。300にも上る研究結果が、酸化チタンに対して良いとは出てはいないのに、ドイツ政府の研究所が出す危険度はいまだに「研究中」です。

それについて、ドイツの食品産業組合は、欧州化学品庁に「現在まで、食品添加物の酸化チタンが人体に危険であるという結論は出ていません。予防は大切ですが、それを道具にしてはいけません。フランスが先行して禁止にしたことで、我々が批判を受けるものではありません」と申告したそうです。

同じ結果を受けても国により評価が違い、それに伴う行動も違う。「安全が証明できていないから止める」「危険が証明されていないのに禁止はできない」、どちらもよくあることですが、何かもやもやとしてきます。

しかし、こういう場合は「証明できてないから止める」に分があるように思います。しかし、それは簡単なことではないようです。それでも、食品に関しては、少しでも異物は避けてほしい。とくにそれが見せかけをよくするだけのものなら。

酸化チタン:WHO(世界保健機関)は酸化チタンを「発がん性がある物質」に分類している

食品製造会社の反応と化学企業の巻き返し

「製造側はどうするつもりか?」と大手の製菓会社にアンケートを取ったところ、半分がレシピの変更に入るとのことでした。ところが、世界的な巨大な製菓会社ほど「様子を見る」という返答が返ってきました。

レシピの変更をする企業も健康への配慮が理由ではなく、フランスへの輸出を考えれば仕方がないこと、風評により売り上げが落ちることもその理由の1つだと思います。ほとんどの商品に酸化チタンが使用されているため、とくに大きな製造会社の多いドイツでは費用も多額になるはずです。

また、酸化チタンは食品だけではなく、壁や車の塗装、歯磨き粉、日焼け止め、化粧品など多くのものに使用されていて、欧州では30億ユーロが製造され、8,150人もの人が従事しています。それだけに、酸化チタンがEU全域で使用禁止となると大打撃になるので、化学製造企業も巻き返しを始め、新しく選出されたEU議会議員に対するロビー活動が、激しくなってきたそうです。

農薬グリホサートのロビー活動よりはるかに活発になっています。フランスからのEU職員のもとには連日のように、20人程の化学企業からのロビーイストが立ち番をしていますよ」とブリュッセルにある欧州議会オブザーバー社の人は言います。

「EU議会は、酸化チタンの危険性の議論を取り下げました。1,400万ユーロをかけたロビー活動の成果でしょう。普段なら、大きなプレイヤーではない化粧品業界や塗料業界が結集して、大きな影響力を作り出しました」とも言います。

「政治の道具にしてはいけない」。ドイツ食品産業組合のS.ステーレの言葉の意味がわかってきました。何かを規制すると、必ず損をする人と得をする人が出てきます。その結果、利権が発生して、また新たにビジネスが生まれてきます。この場合は、「消費者のため」なのでしょうが、「本当にそうなのだろうか?」と、僕は疑問を感じます。フランスは禁止することで自国の製品の競争力が高まり、また、他国でも健康意識の高い人たちには喜ばれるでしょう。

「なぜ、味には関係しなくて、ただ見かけをよくするだけのために酸化チタンが食品、とくに菓子類に使用されだしたのか疑問です」と、R.ブッシュマンは言います。

買い物客に、「見た目が少し落ちても、同じ味なら購入しますか?」と質問すると、ほとんどの人が「購入する」と答えます。しかし、本当にそうでしょうか? 実際にはそうでないから、酸化チタンを添加して色鮮やかに美味しくみせるようになったのだと思います。それは消費者が望んだ結果のようにも思えます。

僕は、食品に添加物は少しでも避けてほしいと思っていますが、最近は全く食欲がなくて困っているので、少しくらい体に悪くても「美味しそう」と食欲が湧くのなら、いまの僕ならそっちを選びたい気分です。

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