ドイツがん患者REPORT 59 知人の自主製作映画

文・写真●小西雄三
発行:2019年9月
更新:2019年9月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

8月1日のライブを最後に、一旦映画のプレゼンのバンド活動は終了しました。4月から4カ月間、長いようであっという間でした。映画とは、僕のバンドINCSの仲間、フランツィーの旦那さんであるトーマス・シュヴェンデマンの自主製作映画のことです。

映画のストーリー

 

映画は、若者ローランドが彼の夢である脚本家になるため、ウィーンから友人の若手映画プロデューサーのアウグスティンを頼ってミュンヘンにやって来るところから始まります。ところが、頼りにするはずのアウグスティンは財産も名声も失っていて、唯一残されていたものは、10年前に亡くなった祖母が残した古臭い小さなパブだけだった。

2人はしかたなくパブに住みはじめるが、そこで祖母が作った大量の蒸留酒を発見して、パブを再開することにする。蒸留酒とソーセージが売りの店「シュムックロス」(Schmuckloss)。店の名前が、映画のタイトルだ。

彼らは大成功を収め、メディアに取り上げられ一躍時の人、最先端の流行の店となる。

しかし、店があるミュンヘンの古い街角・ギージング地域は、地上げで儲けようとする不動産屋の計画が着々と進行していた。日本同様、法的に住居人が守られているドイツで、立ち退きに暴力を使うようにもなってきた。彼らの店も、もちろん標的である。

店が企画したライブバンドの歌手が偶然にも、かつて別れたアウグスティンの彼女で、恋が再燃したり、在庫の尽きた蒸留酒の偽物を作ったり、色々な事件が起こりながらも、最後にはハッピーエンドのコメディ。

まるで、ティーンエイジャーの夢みたいなことを、中年手前の大人がやるというサクセスストーリー。バド・スペンサー&テレンス・ヒルのスラップスティックな格闘シーンのパロディがあったり、映画が大好きな人にはサブの部分でいろいろと楽しめる作品だと思います。

「飾りっ気なし」

映画のタイトル『シュムックロス』は、直訳すると「宝石の損失」。しかし、僕はあえて「飾りっ気なし」と訳します。昔風の邦題なら「七転び八起き、青い鳥は身近にいる」、「ミュンヘンの二人」でもいいかな?

ミュンヘンの高沸する家賃問題や、失われていく古き良き個人商店やパブのこと、都市部での貧富の格差拡大等の問題も裏のテーマとして描かれています。しかし、それを前面に押し出さず、あくまでもコメディタッチで、追いかけて行きます。商業ベースに乗せることを考えての製作なので、見て楽しんでもらえるもの、映画が娯楽と呼ばれた時代へのノスタルジーを感じます。

少ない制作費で娯楽映画となると、自主製作映画はホラーかコメディということになるようで、この作品もご多分に漏れずコメディという選択をしたようです。プロデューサーのトーマス・シュヴェンデマンは、これが最初の長編映画ではありません。彼はウィーンで映像の勉強をした後、オーストリア政府の援助を受けて長編映画(ホラー)を撮影しています。僕は偶然その映画をオーストリアのケーブルテレビで見たことがありますが、彼は「映画を撮りたい」とずっと言っていました。

4年前、彼は月〜金曜日夕方の子供向け科学番組(ZDFドイツ国営テレビ)のプロデューサーに抜擢されました。番組の進行役のトーマス・Dは、90年代初頭、ドイツのヒップホップ音楽の創始者と言われるバンド「ファンタスティッシュ・フィアー」のリーダーで、レジェンドながら現役でヒップホップ業界をリードしています。子供たちにはメガネのおじさんでも、親の世代には有名人なのです。

トーマスは彼らのPVを手掛けたりしながら、自主製作映画の費用を貯めていました。そして、2人目の子供が生まれたのを機に、去年から撮影を開始し、フランツィーも出産直後でしたが、夫に協力して役者として出演しています。

出演者の多くは2人の知り合いの役者たちです。主人公アウグスティンは、トーマス自身が演じました。映画を見た僕の感想は、演じているというよりも地のままという感じ。

今まで培ってきたコネをフルに活用してもなお、製作費は5万ユーロ。去年聞いたときより倍に膨れ上がっていました。「貯金していた子供の学費をぶっこんだから、失敗はできない!」と聞き、商業的に成功してほしいと、僕は心の底から願っています。

有名俳優たちの友情出演

この映画には、トーマス・D以外にも多くの有名俳優がノーギャラで友情出演しています。

彼は簡単なあらすじと、映画のコンセプトを熱意のある文章にして、メールで出演依頼しました。僕は「かなり良い反応あり!」、という彼の言葉を初めは鵜呑みにしませんでした。「考えときます」は、大阪出身の僕にとっては「No」の意味ですから。しかし、次々と撮影に来てくれた話を聞いて、本当に驚きました。

彼はバイエルン語を話す俳優を基準に選んでいました。俳優が興味を持ち、出演したいと思わせた大きな理由は、それがバイエルンのミュンヘンの映画だということです。最近はすたれてきましたが、ドイツには「ハイマットフィルム(郷土映画)」というジャンルが根強くあります。多くのバイエルン出身の俳優は、バイエルン語を愛し、またそれを売りにもしてきたところがあります。

有名俳優といってもドイツで有名であって、日本で知られているような人はいません。しいて言うならば、マリアンネ・ゼーゲブレヒ(Marianne Sägebrecht)でしょうか。84年制作の映画「シュガーベイビー」(原題Zucker Baby)は日本でも上映されました。もう25年以上前の話ですが、知人がミュンヘンを訪れた際、しきりに地下鉄の駅を見たがるので不思議に思っていると、彼はこの映画の大ファンで、舞台となった地下鉄の駅をどうしてもこの目で見たかったのです。

ミュンヘン映画フェスティバル

映画フェスでの上映、10時過ぎてもまだ明るい

ベルリン映画祭は有名ですが、ミュンヘンでも毎年ミュンヘン映画フェスティバルが行われています。今年は、6月27日から7月7日まで。ここに「シュムックロス」は出品されました。

30日の夜、屋外のビッグスクリーンで上映され、僕も娘たちと見に行きました。屋外なので、娘の犬も一緒。このとき、初めて映画の全編を見ました。

上映されたとき、まだ映画の配給先は決まっていなくて、話題作りも自分たちでしなければなりませんでした。映画はミュンヘンが舞台ということもあって、地元日刊紙が大きく取り上げてくれました。また、地元のケーブルテレビは15分間も監督インタビューを、情報番組で何度も流してくれました。それはラジオも同様で、僕たちの最後のライブの宣伝を映画の挿入歌をかけながら、映画の宣伝とともに何度も流してくれました。広告料は一切なしで。ここに、自分たちのカルチャーを自分たちが作るんだという気概を感じます。もちろん、トーマスの作戦・策略であることには間違いありませんが。

アウトバーンからミュンヘン市内に入るとき、ミュンヘンの町の看板が立っています。そこには大きく「自由の街」と書かれています。この自由というのは、そこに住む人々の心の自由も指し、自由をはぐくむものはカルチャーだという自負がミュンヘンの住人にはあります。

映画フェスは大きなものではありません。しかし、有名無名関係なしに出品できます。この一連の映画のプレゼン活動で、ミュンヘン、バイエルンのカルチャーへの思いを再確認しました。また、純粋に協力しようという姿勢に、ここに住んでいてよかったと思いました。

新聞に載った、映画についての記事

僕もミュンヘンのカルチャーの一員?

6月26日に行った映画のプレゼンを兼ねたライブ。ミュンヘンのシティフェストトルウッドの初日のコンサートテントで。左から僕、フランツィー、デーブ

これはバイエルンの映画、しかし主人公のアウグスティン役のトーマスは、ひげもじゃでクマみたいにでかくて、ドイツ人にはまったく見えませんが、その他の出演者の外見は皆ドイツ人。

僕はラストシーンのライブでベースギターを弾いています。その日の撮影はドローンを使っての撮影でしたが、後ろでなるべく目立たないようにしていました。代役だったからです。それに、僕の見かけは周りからはかなり浮いていますから。

映画ラストのライブシーンに、僕と娘は椅子から転げ落ちそうになりました。大写しされた画面に、僕がでかでかと映っている。

僕には、このコメディの根底に流れるものの中に、自由、束縛されないし、しない、それがカルチャーを作ると感じていました。僕も、ミュンヘンのカルチャーの一員でした。

映画祭の終盤、バイエルン地方のみの一般映画館上映契約にこぎつけました。ドイツ全土は無理でしたが、目指したバイエルンカルトムービーにはなれそうです。

フランツィーは、中央ドイツでも北寄りのビールフェルド出身。10年以上ミュンヘンに住んでいても、今でもきれいな標準ドイツ語しか話せません。映画では唯一標準語を喋っている人物で、もう1人の主人公、ローランドはオーストリアの方言で話していますが、ほぼバイエルンの方言に近い。映画全編を通じバイエリッシュと呼ばれる方言(バイエルンの人はバイエルン語と呼び、他のドイツ語と区別)で話しているので、バイエルン以外の地域では、面白さが伝わらずヒットしないのでは? という判断を配給元がしたのでしょう。

僕はずっとバイエルンに住んでいるのでわからなかったのですが、バイエルンの方言は他の地域の人には外国語に聞こえるようです。ケルンに住む息子を家内が訪ねたとき、あとで同居人に、息子と話しているときの家内の言葉がわからなかったと言われたそうです。しかし、ミュンヘンで生まれ育ち、母親がバイエルン語を話す子供たちでも、バイエルン語はわかっても話すことはできません。

言葉は文化ですが、その1つの文化の消滅を危惧しても、どうしようもありません。だからこの映画を支援する人も多いし、バイエルンのカルトムービーにはそういう側面もあるようです。でも、ヒットすれば字幕スーパーでのドイツ全土の上映もありと僕は思っています。

がん闘病もコメディに

日本で似たような自主製作のホラー映画が大ヒットしたと聞きました。このコメディ映画もそうなって欲しいと願っています。ホラーもコメディも発想や状況はほぼ一緒というのが、僕の前からの考えです。未知のもの、予想外の出来事が起こったとき、人は恐怖しますが、同時にそれは第三者的な視点から見ると、結構面白かったりもします。

僕のがんを告知されてから起こったことや、その時々の気持ちはホラーに見えるかもしれませんが、僕はそれをコメディに見えるように努め、そのための言動をしてきたようにも、最近思えてきました。同じ事象、恐怖もコメディも大差がない。それならば、コメディを選ぼう。悲劇よりも喜劇、制作するのは自分である。人生という大長編映画、クライマックスはこれから。やっぱり、ハッピーエンドがいいな。

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