ドイツがん患者REPORT 62 本当によい病院、よい医師? 有名雑誌の高評価マーク

文・イラスト●小西雄三
発行:2019年12月
更新:2019年12月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

ドイツで一番有名で、世界的にも高い信用のある週刊誌「シュピーゲル」(Der Spigel)は、1947年創刊の新聞のニュースを掘り下げたような堅い内容の週刊誌で、欧州で最も多い719,000部(2019年2月時点)の売り上げがあります。しかし、もう少しくだけたものが欲しいと、1993年「フォークス」(Focus)という雑誌が創刊されました。今では44万部ほどの大雑誌となっていて、「週刊文春」のように、スキャンダル的な記事が多いのが特徴です。

両雑誌とも知名度が高く、民放でテレビ番組を持っていたこともあり、ドイツでこれらの雑誌を見たことがない人はいないと思います。病院やクリニックの待合室に置かれていることが多く、また時間つぶしが必要な場所でもよく見かけるので、部数以上に読まれています。

その「フォークス」が、優良な病院やクリニック、医師と認定したら、〝フォークス優良マーク〟を与えています。

僕が専門医に行くときは、ホームドクターや腫瘍内科に紹介してもらうことが多いのですが、自分で探すこともあります。2年前、足の裏にできたほくろが皮膚がんの疑いがあると言われ、近所で皮膚科専門医を探しました。以前なら電話帳、今はネットで簡単に検索でき、そのとき病院評価の星がついていて驚きました。

近所には医師や薬局が多いので、皮膚科の医師を選ぶため、HP(ホームページ)を見ました。もし、そのときに優良マークが大きくついていたら、僕も第1選択にしていたかもしれません。どこの病院や医師が良いかわからないときは他人の評価をあてにしますので。

「ミシェランガイド」の星は、厳格な覆面調査員によるもので信頼できるそうですが、今回の〝優良マーク〟はお金でマークを売っているのでは? という疑惑です。

医師選択時の決め手は

ドイツ国営第2放送(ZDF)の「Plus minus」(2019年9月25日)という番組の話を紹介します。

「フォークス」は、国内トップ病院、地域内トップ病院、トップ医師などと、自誌が推薦する優良高評価証明を病院や医師に与えているが、それが「本当に優良なのか?」と切り込んでいます。

「フォークス」からある医師のもとに、〝優良マーク〟の証明書が届きました。「フォークス」の評価の仕方は、自社調査ではなく、医療ネット調査会社のデータを評価基準にしているとのこと。どう考えてもおかしい間違った高評価の証明書がその医師に届いた理由を、「近所にその分野の専門医がいないので自動的に選択された」と「フォークス」は番組の質問に答えました。そして、この問題点を、今後改善するとも言っています。

しかし、これは特例なのか? という疑問が出てきます。というのも、最近の「フォークス」の利益の多くが、フォークスの名を利用したライセンスの貸与やイベントから上がっていているからです。患者の利益のためではなく、雑誌の利益のためのマーク乱発が起こっているのでは? という疑問がでています。

おかしな高評価

ある医師に、「地域の優良心臓外科医」という優良マークの証明書が届きました。彼は「変だ、おかしい」と思いました。現在の彼は心臓外科医の仕事はしていなくて、一介のホームドクターをしているからです。確かにかつて彼は心臓外科医として働いていました。しかし、この14年間は診療所のホームドクターをしています。

同封されていた手紙には、「このマークを広告宣伝に使用することで、あなたの知名度や信頼が飛躍的に向上し、競争力アップによって経営上の問題解決に大きく寄与します」。しかし、その使用には年間1,900ユーロ(約23万円)が必要だと記されていました。

評価基準は、同業者推薦と患者満足度から

「フォークス」は、「治療のクオリティをきちんと評価した同業者推薦をもとに優良印の授与を行っている。それ以外の評価基準は、患者の満足度となっている」と。HPに載せられている医療分野の優良マークについては、「ネットでの投票による評価によって組成されています」となっています。

ある救急外科医は、推薦状を要求するメールやアンケートメールを多数受け取りましたが、返答は一切していません。もちろん「フォークス」からのアンケートにも無回答。彼のクリニックは、地域で唯一の専門分野の病院なのに、なぜ選ばれたことがないのか医師は不思議でもありました。メール無視のせいで「地域のトップクリニック」に選ばれたことがないのかもしれないと思い、アンケートに返答してみました。すると、即時にトップの評価を得たそうです。

番組では評価基準として、病院へのアンケート、電話でのインタビュー、健康保険を通じての技術面でのチェック、患者への直接アンケートを使用すべきと言っています。それに対して、同業者の評価、パブリケーション、患者間の口コミで評価する「フォークス」のやり方は、透明性がないものと指摘していて、批評家はこの優良マークを「信用に値しない」と酷評します。

公正取引委に、「フォークス」の評価表を査定してもらったところ、このリストからの評価は不可能と言っていました。

優良マークは患者にとって大きな意味を持つ

確実に言えることは、多くの医師やクリニックはネットの広告宣伝に多くのコストをかけていることです。〝国内トップ整形外科クリニック〟のヘラー医師は、整形外科分野の治療を長年行い、「フォークス」に高評価されています。彼も、〝優良マーク〟をHPに大きく載せています。彼のクリニックは、年間3,000〜5,000ユーロを「フォークス」にライセンス使用許可料として支払っています。

彼は充分な費用対効果があるとし、「患者はわざわざ医師やクリニックを検索し、情報を探しています。そして選択時の決定に大きな意味を持つのなら必要なこと」と言います。しかしそれは、「フォークス」のマークが本当に信頼できるものならばの話なのですが。

優良マークをもらう医師やクリニックの数がどんどん増えている

医師やクリニックにとって〝優良マーク〟は、病院選択にとって大きな宣伝効果があり、「フォークス」にも大きな利益を生んでいます。

2011年には1,500人だった〝トップ医師〟は、現在では3,600人。これは、病院やクリニックと「フォークス」がウィンウィンの関係で、そこには患者が損を被る場合があるということです。

公正取引委の法律家は、この「フォークス」の医療分野の優良マークについて「私がこの評価リストを見る限り、是か非か調べようがないし、また追跡調査もできない。評価の正当性を主張するには不十分なもの。こういった評価をする場合は、患者の追跡調査ができ、公正で透明性のあるものが最低条件です。評価基準に、専門的な統計データのような中立的な評価を証明できる要素がありません。高評価を得られるクリニックや医師の数も増加している点も問題です。優良マークを売るためのものにしか見えません」と述べました。

番組の締めくくりは、「患者のための優良マークというよりも、雑誌と医師やクリニックの経営をよくするため、ただのビジネスのためのもので、信用性は低いのでは」というものでした。

「じゃあ、どんな情報を信用すればよいのか?」というのが、僕の感想です。「フォークス」はスキャンダルを追求していたのに、今回立場は逆転。番組には「何の情報を信用すればよいのか?」という答えはなく、僕を余計に混乱させてしまいます。

がん治療の際に、信用できる医療機関はとても大事なことだと経験上知っているので、その情報がお金によって左右されるのは本当に患者にとって怖いことです。

グルメガイドのようなものは、それを信じて店を選んで、美味しくなくて失敗したとしても、被害はさほど大きなものにはなりません。しかし、医療に関しては、最悪の場合は命にかかわるもの。お金で買えるような優良マークは残念です。

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