ドイツがん患者REPORT 73 自宅に侵入してきたコロナ・前編

文・撮影●小西雄三
発行:2020年11月
更新:2020年12月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

日本でも旅行推進キャンペーンが行われているそうですが、欧州各国では旅行を含めたホリディが普段から生活の重要な部分を占めています。僕はこのコロナ禍なら休暇を家でのんびりゆっくり過ごしても良いのにと思うのですが、こちらでは日常生活から抜け出せる旅行ホリディなしなど考えられない人々が老若男女問わず多いように思います。僕の妻をみていても、本当にそう感じます。そのせいか、落ち着いていたコロナ感染者数が夏のホリディを終えた今、また増え始めました。

一定数で推移していた患者数が、最近は規制基準を超えそうになったのでまた始める州や、とくに新規患者が多い特定の都市での規制が始まったりしています。ミュンヘンもその中に含まれていますが、この町の住人の特徴から言っても当然のように思えます。ミュンヘンの街の入り口の看板に大きく書かれている「自由の街」というのが、コロナ感染症の場合は本当に不利に働いてしまいますから。

娘の自宅が手抜き工事で

普段の僕は、家内と2人で暮らしています。住居は120平方メートルあり、広すぎるようにも思えますが、少し前まで娘と息子が同居していましたし、直腸がんの後遺症のある僕のことを考えれば、そうでもありません。

ウィークディは娘の犬を預かることもできますし、子どもたちや友人が泊まっても困りません。去年、1カ月間ホームスティしていた日本の大学生(彼女は今年3月からハイデルベルグの大学に留学したものの、ネットでの授業以外は受けたことがないそうです)がミュンヘンに遊びに来ても、宿泊に困りません。

ところが、娘夫婦の住んでいるマンションが配水管の水漏れトラブルで、9月初旬から修理が終わるまでうちに同居することになってしまいました。そのマンションは民間が管理していますが、ミュンヘン市が建設したものです。

入居資格はミュンヘンで生まれ育ち、ミュンヘンの学校を出た若い夫婦。これは少子高齢化対策の一環で、ミュンヘンは家賃が高いため、若い夫婦が子育てしやすいようにと安い家賃で若い夫婦を支えています。日本で言うと公団かな? 娘たちはこの条件に合い、また運よく選ばれて、喜んで入居しました。それが去年の4月です。

入居してすぐ上の階で水漏れが発生したのですが、娘たちの部屋に被害はありませんでした。ところが、今回は娘たちのリビングの壁にカビが発生。壁のなかの配管からの水漏れが原因でした。

修理は2週間の予定でしたが、工事中に床も大きなダメージを受けていることがわかり、コンクリートを流し直しと床のフローリングも貼り直しが必要とわかりました。それから1カ月以上たった今も、いつ戻れるのか確実な日程がたたないまま娘たちはうちに住んでいます。

先月号でマスク製造の入札について書きましたが、ドイツの公共事業にはよくある話です。公共工事も入札で一番安いところが受注するので、こういうことが起こりやすいと言われています。僕がドイツに来た30年以上前から道路や橋などの公共事業で頻繁に起こっていますが、変わることはなさそうです。そこが競争入札の難しいところだと思いますが、娘たちは入居できて喜んでいただけに腹ただしいことです。

我が家で娘の誕生日パーティ

ドイツでは誕生日を大勢で祝う若者が多く、娘もその1人です。僕も毎年友人たちを呼んで祝っていたので理解はできます。でも、自宅がそういう状況なら中止とか延期とか考えてもよさそうなものですが、娘は実家の気楽さからかうちで決行しました。ハイデルベルグに留学中の彼女もミュンヘンに滞在していたので、パーティに参加。いろいろと手伝ってくれたので娘は大助かりしていました。

誕生パーティの準備

9月12日、11時にパーティは始まりました。11時といっても午前です。これまでなら夜、早くても夕方6時くらいからでしたが、彼女も28歳、友人には子持ちもいるし、コロナもあるしで早く始めて早く終わる計画を立てたそうです。この時間帯ならフィンガーフード的な軽食でも良いし、アルコールで酔っぱらう人も少ないだろうという配慮もあったようです。

娘は僕が28歳のときの子供で、直腸がんの告知を受けたときはまだ16歳。「もう、そんな年になったのか」という感慨が強く湧きおこりました。

パーティには「体調があまりすぐれないので」という言い訳をして、僕はほとんど自分の部屋からは出ませんでした。「コロナに感染するリスクを避けるために」と口には出しませんでしたが、それが一番の理由です。

もしパーティで感染者が出ても、ほとんどは感染しても危険性の低い若者です。それに引きかえ、僕は酷い後遺症がある高リスク群。もしパーティでコロナのクラスターが起こって僕が感染したら、きっと娘たちが後々まで受けてしまう大きな心の傷を考えれば、僕は遠慮すべきだと考えました。年齢による分断とか、そういう大げさなことではなく、リスク回避です。

がんになって以来、いろいろと経験してたどり着いた心境は、「他人の配慮を期待せずに、まずは自分でできることをする」です。後になって、これが大正解となったのです。

娘の犬がかじった特製のバースディケーキ

娘の誕生パーティで

パーティの始まりに、友人のケーキ職人が作った特製のバースディケーキを娘の犬がかじるというハプニングが起こったりしましたが、その後はみんな楽しくやっていたようです(ケーキを床に置くほうが問題で、その結果犬は僕の部屋に閉じ込められることになったのですが)。

当時、部屋内には入れ替わりながら常時10数人の客がいたようです。

佳境を迎えたころで、アマチュア・ミュージシャンの娘婿と彼の元バンドメンバーたちとアコースティックのジャムセッションが始まり、楽しそうなその音は僕の部屋にも届いていました。

前日に、セッションへの参加をお願いされていたのですが、体調を理由に断っていました。本当の理由を言うのが一番簡単ですが、相手を傷つけない断り方は必要で、僕もそれなりに上手な嘘をつけるようになっているのですよ。

パーティ4日後 1本のメールから

28歳の娘の誕生パーティは楽しく終わったと思っていました、パーティ4日後の水曜日の夜までは。

その夜、娘婿に入った1本のメールが今回の大騒動の始まりでした。パーティに参加していた彼の友人からで、そこには「コロナに感染して、今病院にいます」と書かれていました。感染した彼は娘のパーティ前日に別のパーティに参加し、そこでクラスターが起こったと後でわかりました。

彼に発熱などの症状が出たためPCR検査した結果、陽性反応が出たのですぐに隔離入院となりました。もし、彼に症状が出ていなければ、コロナに感染しているとは思わないでしょうから、周りの多くが感染していたかもしれません。

連絡を受けた娘たちが真っ先にすることは、パーティに参加した人たち全員にコロナ感染の可能性について知らせることでした。今はSNSを使って一斉にメールを送ることができるので、すぐ知らせることができたようです。

娘たちは参加した人に、誰が感染したのかを知らせるつもりはありませんでした。それは、感染者に対する配慮です。治癒後も無知による差別はあり得るでしょうし、リベラル思考先進国のドイツですが、感染者への差別は起こりえますから。

案の定、かなり執拗に感染者の名前を聞く友人もいたようです。「知ってどうする?」とも思いますが、うちのパーティで起こったトラブルなので、余計な苦労が娘たちにかかりました。職場は、検査結果で陰性とわかるかまでは休暇を取らざるを得ませんでした。(つづく)

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