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ドイツがん患者REPORT 75 病院は少ないほうがいい⁈
日本でも晩秋に入り、コロナ感染者数が急増していると聞きます。ミュンヘンは日本の姉妹都市・札幌と同緯度にあるので、秋冬の到来も早い。そのせいかコロナ感染者が急増して、高止まりのまま推移しています。
11月24日の発表では、感染者数13,554人で、もう何日もすれば国内総感染者数100万人の大台に乗ってしまいます。僕の住むバイエルン州はドイツ国内でも多い方で、この日も3000人を超える感染者が出ています。
「これ以上増えたら医療崩壊だ」と、言われながらも持ちこたえています。桁違いに感染者が少ない日本でも医療崩壊の心配が出ているそうですが、ARDの「Plus minus」という番組で興味深い放送がありました。今回のパンデミックでこれまで気づかなかったドイツの病院の問題点が表面化、医療の今後の方針が見える番組でしたので紹介したいと思いました。
病床があっても医療崩壊⁈
ドイツでは大きな病院のほとんどが公的病院で、医療体制が国によって統制されています。それに比べ日本では、病院に対して国は要請しかできないことを知り驚きました。同じ国民皆保険の国なのに、医療の方向性は違うようです。
(編集部注:公的な仕組みで医療財政をまかなっている国の大半の病院は公的病院。しかし、日本の約90,000の病院のうち約7割が民間病院で、公的財政を使って医療を提供する多くの病院が民間病院という特殊性がある)
もし今、自分や家族がコロナで入院しICUに入ることになったとして、考えられる恐怖のシナリオは? 想像したくありませんが、「その医療現場のすべてが限界状態だった場合」だと思います。その可能性が出てきました。
理由は、病床は十分にあるのに、医療従事者が不足しているからです。解決策として、専門家は病院の集中集約化を提言します。それによるアドバンスは、より大きくすることでより良く特化することができ、効果的な人員の割り振りが可能になるということです。
ICUの医師たちは、「このまま患者が増え続けば、近い将来限界に達する」と警鐘を鳴らします。「おかしく聞こえるが、病院数を減らすことが解決法だ。コロナパンデミックがそれを証明した」と、次々と医療専門家が言い出しています。
病院を減らして治療の質の向上を
かつては欧州の大工業地帯で、今は米国のラストベルトほどではないものの、かつての華やかさを失った中央ドイツ・ロー地域にある北エッセン。3つある病院のうち、2つまでもがコロナで使用できなくなっています。その1つの病院でコールマン(69歳、肝がん)さんは、毎週化学治療を受けていました。「僕にとってここは最適の場所。すべてが順調にうまく行っていて、本当に毎週ここに通うのが楽しみでした」と言います。しかし、病院は9月中旬に閉鎖されました。
彼のような患者を含め、北エッセンでは多くの女性たちが、「200m先にコロナ専用のICUは新設されるが、私たちの健康維持はどうしてくれるのか?」と、抗議の声をあげています。僕も日常の医療に対する不安はよくわかります。
「コロナで大小すべての病院が必要不可欠になったのか?」という疑問に、専門家は「それは逆ですよ。ドイツ国内に現在ある1,400の病院を、600にしたほうが国民の健康維持には良い」と言います。
「コロナで見えたことがある。ドイツは世界でも類をみないほどの医療従事者数を誇るが、実際には1人ひとりの患者への対応はそれに見合ってはいない。病院を減らして集約化させることで、治療の質を向上させられる。それが患者にとって最善となる」と、ベルリン技術大学のR.ブス教授は言います。
最初にパンデミックで多くの患者を出したビュッテンベルグ州のシュタインフェルド医師は、「人口呼吸器や病床に十分な余裕があっても、重篤患者を他病院へ移送せざるをえませんでした。理由は、人手不足です」と、切実に話します。
大規模病院は今までICUを専門的に扱ってきていて、小規模病院よりも機器も人材もより豊富。小規模病院では充分な対応ができないのは仕方がないことで、これまで表面化しなかった問題がコロナで顕著化しました。この解決策は、小さな病院を集約し規模を大きくして医療を集中させるほうが患者にとっても有益だということなのです。
ドイツICUと救急医療学際会(DIVI)のICUリストには30,000床のICUがあり、人口当たりの数では他国に類を見ない手厚さです。しかし、パンデミック第1波では、ICUの医師や看護師不足が発生。コロナ重篤者の治療には多くの人手が必要ですが、全国1,400の病院に人員を分散させなければ、解決出来ると専門家は言います。
今回は、どこの病院が重篤患者を診て、どこが軽症患者を診るなど、病院間の協力はうまくいきました。しかし、医療者は「誰が何をするのかきっちりとしたルールがない」と、今後を注視していくべきだと言います。
コロナは病院改革の大きなチャンス
ドイツ病院協会会長のG.ガス会長も、病院の閉鎖と統合について「今の世論を利用し、耳の痛い将来のための改革を進める」と言います。
「これまでは、政治的に閉鎖とは言えませんでした。わかってはいても、手をつけられなかったのです。しかし、コロナでそのチャンスが来ました」とも。
健康や診療の質を、長年研究してきたベルリン技術大学のT.マンスキ教授は、「経験豊富な医師や看護師が院内にいると、致死に至る合併症の発生率は下がります。ですから、限りある予算と人員をよりよく分配することで、治療による死亡や院内感染を防ぐことができます」と。言っていることは当たり前で、改革ができなかった理由は僕にでも容易に想像がつきます。
コロナ以前に、病院の40%が赤字と報告されていました。その多くが、公的資金の導入で支えられてきました。そこへコロナの追い打ちで、借入金が記録的に増えています。国は不況対策として減税などを行いましたが、それは税収の大幅減収へとつながり財政は逼迫、公的資金が枯渇し支出削減の対象となるのは必須。そうなると赤字の病院の閉鎖や統廃合の可能性はより高まるでしょう。
RWIライブニッツ経済研究所の試算では、コロナによる経済への悪影響は2021年秋まで続き、病院経営悪化の傷跡を深く残すと予測。最終的には病院閉鎖も問われていくことを示唆しています。
しかし、病院数を減らす影響を、患者の負担にしてはいけません。先述のコールマンさんは、現在は救急外来で化学治療を受けていますが、住んでいる25㎞範囲内の50カ所が治療受け入れ可能だそうです。
それでは、抗議活動の1つの「救急受け入れ」についてはどうでしょうか? 確かに一部地域の住人は遠くなります。10㎞半径内に4つの病院があり、2つの病院は閉鎖されますが、残りの1つは増設すると約束されています。
「これで地区住民の信頼と我慢を得たい。これは、政治的な社会責務であり、病院従事者に過度な負担を強いることになってはいけません」と言います。
充分な準備と説明がなければ住人たちの理解と納得が得られません。閉鎖理由は理解できても感情として受け入れにくく、反対デモが今でも起こっています。「それでもドイツには医療制度の改革が不可欠です」と、番組は締めくくられました。
政府批判的なことが多いメディアが、医療改革について肯定的に報道。「病院閉鎖の正当性、多少犠牲が出ても少数精鋭のメリットについて視聴者に納得させようとしていて、今までと少し違う」と僕は感じました。
もし病院が減った場合、僕への影響は?
ミュンヘンは、ドイツ国内でもトップクラスの医療事情が良い都市で、改革されても大きな影響はないと思います。しかも、僕はとくに医療事情の良いところに住んでいて、必要な治療のほとんどを徒歩で行ける場所で受けています。
僕は肝転移の摘出手術を、欧州一の手術数を誇るミュンヘン大学病院で受けました。欧州有数の大規模病院です。
しかし、「ここに長くいたら、きっと死んでしまう」と思ったほど、最先端の医療技術に比べてひどい看護でした。病棟にいる看護師は昼夜問わず圧倒的に少なく、ナースコールをしてもなかなか来てくれない。僕の手術が軽いと思えるほど病棟は肝臓移植などの重篤な患者が多いのに、看護師が少なすぎました。
隣のベッドの患者は長時間放置され、縫合口が開いてしまい再手術に。あってはならないことです。しかし、病院の統廃合で充分な医療従事者が集められ、あの病棟にも十分な看護師が配置されケアも充実するのなら、望むところです。
ドイツでは病気になればまずホームドクターに行きます。その後紹介される近くの病院が減り困る人が増えても、大病だったら多少遠くて不便でも、大規模病院の最先端の充実した医療・看護が受けられるなら我慢するでしょう。
この先、技術革新が進み、少ない人手でもどこに住んでいても格差のない医療が可能になるかもしれません。しかし、そんないつになるかわからない未来の話ではなく、コロナによって問題点が突きつけられたとき、そして国民が我慢に親しんでいる今が大きな改革のチャンスなのだと思います。ただ、僕としては利己的に「僕の良い医療環境を維持してほしいな」と願ってしまいます。
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