ドイツがん患者REPORT 77 日本の少ない感染者で医療逼迫のなぜ?

文・撮影●小西雄三
発行:2021年3月
更新:2021年3月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

今回のコロナ禍でわかったことは、ドイツの病院は約8割が公的病院のため、政府の「命令」でコロナ患者のためのICU病床を大幅に増やすなど、パンデミックにすばやく対応ができたことです。

しかし、日本は病床数が世界でトップクラスにもかかわらず、政府には病院に対してコロナ病床を増やすよう「要請」することしかできない。命令と要請、ここがドイツと日本の大きな違いということがわかりました。

ドイツの患者数に比べて何10分の1の患者でも、一部で医療崩壊が起こって、入院できなくて自宅で亡くなる人がでていると聞いてとてもショックでした。両国とも同じ国民皆保険制度の国なのに。

このような少ない患者数で医療崩壊がおこるのなら、これまでの医療制度に欠陥があるように感じます。本来は、保険料を支払っているのに、被保険者が医療費を何割か負担しなければ、国民皆保険制度を維持できないのもおかしいと思います。

ドイツは病院で診てもらっても医療費の負担がないし(自己負担1割の薬剤費はかかる)、国も補助金はほとんど出していなくても国民皆保険制度は維持できています。

医療の一番のプライオリティは、命を助けることです。救急患者を受け入れることは最重要で、専門医の「クリニック」ではできない医療を行うところが「病院」です。

数少ない民間の病院は、特別枠のプライベートの健康保険受給者(一部の金持ちが入っている)のためのところが多く、個室などが整っていたりします。しかし、公的病院には個室はほとんどなくて、貧富の差もなくホームレスの人まで治療を受けられます。無理な延命はしないけれど、命を守る治療や手術は平等に受けられます。

「救急医療」、これがしっかり機能していなければ医療の意味がなくなってしまいます。前号で書いたT君は、腹痛で救急車を呼んだがたらい回しにされたあげく、コロナ患者病院でやっと診てもらえましたが、どこも受け入れ先が見つからなくて死亡するような事例が発生したと聞き、唖然としました。まずは公共病院の維持を優先させるべきではないでしょうか。

明確に決まっている医療機関の役割

国から支給されたFFP2マスク。郵送された引換券を持って、薬局で引き換えるというシステム。マスクは中国製、やはり国内生産はこれだけ時間があっても無理だったということ

ドイツではそれぞれの医療機関が担う役割が明確に決まっています。

はじめに受診する「ホームドクター」と呼ばれる家庭医制度。ドイツは過疎地などにでもホームドクターを置いている。風邪などの簡単な診察や治療はホームドクターでこと足りるし、薬の処方も専門医からの委託を受ければ、変更がないかぎりできます。

ホームドクターにできないことを「専門医」が行い、直に病院に送ることはまずありません。簡単な手術はクリニックで行いますが、全身麻酔などが必要な大きな手術になると、それは「病院」の仕事となります。

今ドイツでは専門医の不足、とくに小児科医不足が言われています。少子化が拍車をかけているからです。役割が決まっていることにより確かに不便なところはありますが、命にかかわるような救急の場合は病院が受け付けてくれます。

こう見ていくと、医療制度に日本と大きな違いがあることがわかりました。

健康保険料だけで本来は十分なはずが、日本では受診のたびに医療費の自己負担までさせられています。保険料の分配方法をまずは必要な公共病院に支払い、各地域の医療の従事者であるホームドクター、そして各専門医と分けていけば、足りなくなる理屈が僕には理解ができません。

介護施設は別物と考えますが、ドイツ人の施設利用者が少ないからか、自治体の負担も賄いきれているし、老人を長期入院させて収入を得るような病院はありません。日本の介護保険料も、ドイツを手本としているようですが、少なくとも日本よりうまくいっているドイツの医療制度を手本にすればいいのにと思ってしまいます。

いまこそ、医療改革ができるチャンスなのに

昔は医療設備や技術にしても、病院の格差は少なかったように思います。しかし、今はそれらによって格差がつくため、初期投資は膨大にならざるをえません。だからこれから新たに個人で病院を開業するのは大変でしょう。それに個人クリニックの規模でCTやMRIを設備しているところがあるのには、医療資源の無駄使いでしかないと思います。

個人病院ということで、医療の責任を国は負ってこなかったから、現在の医療制度へとなっていったのかもしれませんが、今回のパンデミックでその弊害があらわになったように思います。

コロナ患者を受け入れた一部の病院だけが疲弊し、コロナを診ないほとんどの病院が、患者が少なくなって赤字経営ということ自体がおかしい。わずかなコロナ医療従事者を増やすこともできずに医療崩壊。今こそ、医療制度を見直すチャンスです。カギは、ドイツが導入しているホームドクター制度で、一定人口の割合に義務化して、医療全体の管理ができるように病院を再構築する。

日本は民間病院が約7割もあるから改革の可能性がないと思えるかもしれませんが、本当にそうでしょうか? 拘束力のある緊急事態法を望む国民がいるのなら、国民に規制をかける前に、まずは医療制度を変えないと国民全員が困ることになる。

国民に自粛を求め、飲食店などに収入や仕事を失うようなことを求めているのに、コロナ患者を診ないし受け入れない、協力もしない病院をそのままにしていては絶対にいけないと思う。そこにメスを入れないのは、おかしいとは思わないのでしょうか?

医療というのは、本来公共のもの。それこそ、医師は公務員であっても良いのでは? ここにだけは、社会主義的な平等があっても良いと思う。同じ命をあずかる警察などと同様に。こんなことをすれば、医師のなり手が誰もいなくなるというかもしれません。しかし、本当に一生懸命やっている医師が大勢いるのなら、なりたくない医師の数が減っても十分医療に対応ができるのではないでしょうか。

コロナを機に声を出そう

このコロナパンデミックは、意図せずとも日本の医療のいびつさをむき出しにしました。そこから、この先の医療を考えてほしいと思います。

コロナ患者に対応している医療従事者たちはできることを一生懸命やってくれています。しかし、ドイツの患者より何十倍も少ない患者数で、医療崩壊になる医療制度は変えなくてはいけないと思います。

ドイツの病院にコロナ患者だからと入院拒否にあった患者はいません。それに入院するときは、寝間着や食事もそうですが何もいりません、身ひとつでも入院できるのです。持って入りたい私物は本やPCくらい。ホームレスであっても困ることはありません。病院とは、そういう場所だとドイツでは認識されているのです。

コロナは、いろんなことを見せてくれる。それを見て、医療の不都合なところは改革しようと声を出すことが、この先多くの日本に住む人たちに大きな安心を与えると思う。T君、大阪人だから転んでもただで起きるな。

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