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ドイツがん患者REPORT 80 最後のサマータイム⁉
サマータイムは、EU議会で今年(2021年)の10月までに廃止と決まっています。今年はもう行わないのかと思っていたら、最後のサマータイムが3月28日(日)午前2時から始まっています。
本当に多くの人が廃止を望んでいるのなら、前倒しでもいいのに……。僕はサマータイムは好きではありませんでしたが、今では廃止する必要があるの? と思っています。「あんなにサマータイムをエンジョイしているドイツ人が廃止を受け入れるの? そんなわけないな」というのが、30年以上ドイツ国内で生活してきた僕の感想です。
規律には従順なドイツ人は、廃止されたら従うでしょうが、夏が来るたびに「あの頃はよかった」と後悔することが目に見えるようです。
サマータイム廃止の理由
「サマータイムのない日本で育っているからだよ」と、以前サマータイムに否定的だった僕はよく批判されていました。
今回の「健康に悪い」「省エネ効果は乏しい」という2つの廃止の主な理由に、あまり納得いかないですね。
「健康に悪い」、確かにサマータイムへ移行すれば時計の針が1時間早くなるので、その分早起きをしなくてはならず、寝不足ぎみになります。しかし、時差ぼけのようなもので、2~3日もすれば体は慣れていきます。たとえ時差が日本とドイツ間のように7時間(標準時差は8時間)あっても、時差ボケが1週間も続いたなどという話を聞いたことがありません。また、ホリディを外国で過ごすドイツ人が多いのですが、「時差が健康に悪い」なんて言う人を見たことがありません。
「いかにサマータイムが、バイオリズムを崩して健康によくないか」と、研究者が説いているテレビ番組を見たことはありますが、国が率先して健康を害するようなことをしないということかな。
2つ目の理由の「省エネ効果は乏しい」については、「何をいまさら」という感じがします。
最初の導入は第1次世界対戦中から
サマータイムは、第1次世界大戦中の省エネ対策として1916年4月30日からドイツで始まりました。その後大戦が終わり1919年には廃止されました。ところが、第2次世界大戦が始まり1940年に再びサマータイムが導入され、戦争が終わる1949年まで続きました。その後70年代にオイルショックがあり、1980年から三たび始まり、それ以降ずっと続いていました。
オイルショック当時、僕は小学生でした。それでもトイレットペーパーの買い占めとか、今でも記憶に残っています。ドイツでも、国を挙げてエネルギーの節約をしたそうです。その当時の様子をテレビで見たことがありますが、国が主導して休日にアウトバーンで車を走らさないようにしていました。ドライブの代わりに街を散歩してもらおうと、車の進入禁止区域を作って歩行者天国にしたりしていました。お願いレベルではなく、国民へ規則を作る。その1つとして、サマータイムが実施されました。
ミュンヘンはドイツの南部にありますが、それでも高緯度に位置していて、姉妹都市の札幌と同じ緯度にあります。冬は日照時間が短く、夏は長い。オイルショック当時の発電はほとんどが化石燃料。国内生産のできる石炭だけでなく、石油にも頼っていました。1時間長く電灯を使用せずに過ごせれば、その分省エネになります。
大量消費社会になっていたところに、突然冷や水を浴びせられたドイツ人にとって「何か対策を立てて実行せねば」という思いに駆られ、小さなことでも何か大変良いことのように感じられたのかもしれません。
当時は「政府がリーダシップをとって何かをやってほしい」という国民感情に、政府が答えざるを得なかったのだと思います。決してその方法が間違っていたとは思いません。現に、多くの人たちは自ら進んでサマータイムを受け入れ、それ以上に楽しんでいたのですから。
40年以上前の導入時は、省エネが大きな理由でした。ところが、現在は省エネ効果は大きくないから廃止すると言う。たとえ大きな省エネ効果がなくても、多少の効果は当然あります。地球温暖化対策を喜んで受け入れ、多くのものを捨てて我慢して不利益を甘受しているドイツ人なのに、少しでも確実に効果のある省エネ策を廃止する理由が、少しも聞こえてこないのが不思議です。
太陽に憧れる人々
日に焼けた肌に憧れを持つドイツ人は老若男女問わず圧倒的に多くて、太陽が少しでも出ていれば日光浴をする人が目につきます。最近は減りましたが、一時期はサンスタジオなどが乱立し、日焼け用機器をサウナとともに家で所有する人も結構いました。
「日向ぼっこはお年寄りのもの」というイメージの日本ではあまりポピュラーではないでしょうが、こちらでは公園などで日光浴をする若者も目につきます。太陽に飢えているように見えます。
ホリディに行くときも、基本は南下をします。家族旅行でも2週間くらいの滞在をめどにしているので、欧州の南北格差で南のほうが物価が安いということもありますが、それ以上に太陽がいっぱいだからです。
そこまで太陽の好きなドイツ人の世論が、毎日1時間長く太陽と暮らせるサマータイムの廃止に賛成が80%を超えたのです。そのことが、僕にはどうも納得がいかないのです。「ほとんどの人が廃止に賛成しているから」というのも廃止決定の後押しになっていますが。
確かに、サマータイムへの変更直後、先週よりも1時間早起きして仕事に行くとき、「もう1時間眠れたのに……」と寝不足の頭がイライラして、文句をつけたくもなります。その反面、夜10時にはビアガーデンを閉めなくてはいけない法律があるのですが、まだ明るいからと居座って楽しむ人や、サマータイムのおかげで10時過ぎまでサッカーなどを友人たちと楽しめるアウトドア好きな人が、反対の20%しかいないとは思えないのです。ほとんどの人たちは、世間の風潮に合わせて、廃止されて失うものを考慮せずに、廃止に賛成と答えているのでしょうか。たぶん、アンケートを取る時期によっても、結果が変わってくるような気もしますが。
本当に何の利益もないなら40年も続かず、それこそオイルショックが終わった直後に廃止になっていたのでは。これまで戦争が終わって廃止されたように。
ドイツは環境保護のための省エネを、ずっと命題のように唱えてきました。それなのに少しでも省エネになるサマータイムを廃止することに、多勢が異議を唱えないのはなぜなのでしょう。
自分には迷惑だったドイツの太陽
僕は、ドイツに来てから太陽アレルギーを発症しました。それ以来、よく晴れた冬でも長時間直射日光を浴びると、手の甲などに小さな水泡ができます。夏に車の運転をすると、日の当たる左腕や手の甲に絶えず水泡ができていました。日本ではそんな症状は出たことはありません。そんなわけで、ドイツでは絶えず日陰に入るようにしているくらいで、太陽はむしろ自分の肌にとっては有害なのです。そんなこともあり、僕個人はサマータイムを迷惑に感じていました。
だからといって、廃止してほしいとも思いませんでした。その国の習慣や好みがあるのは当然で、「嫌いだ」と言った僕に得々とサマータイムの良さを語るドイツ人を見て、そして太陽を楽しむのを見て、こんなに喜んでいる人たちがいるのだから、良いこがいっぱいあるんだろうと思っていました。
そんな人々の8割以上が廃止に賛成したというのは、彼らの心情に何が起こったのだろうと戸惑っていましたが、「もしかしたら」と思えることが浮かんできました。それは、不満に思う人や健康を害する人がたとえ一部でもいるのなら、その人に合わせて我慢しようという最近の風潮です。
EU諸国の中でも、ドイツは比較的高緯度に位置していますが、そうではない南の国のほうが多くあります。それらの国では、サマータイムの恩恵を受けることはほとんどなく、むしろ不利益だと感じることが多いのかもしれません。それでも、EU内では勝手にはできず、「経済的に恵まれた北のために、自分たちが不利益を被っている」と不満を持つ国の人々がいるのは仕方がないこと。EUの人々は、自国の利益よりもEU全体の利益を優先するという建前があるので、どちらの勝手にもできません。
あれだけサマータイムを満喫していたのに
日本ではオリンピック開催に合わせてサマータイムを導入する話があったと聞きましたが、日本にサマータイムは不向きです。国土が南北に長いため、恩恵を受けるのは北海道くらいのものでしょう。
それ以上に、アフターワークの生活慣習が日本とドイツでは違います。夏場、仕事が終わってビアガーデンに行く。こう書くと、日本と同じように思われますが、ビルの屋上にビアガーデンはなくて、緑のある庭がドイツのビアガーデンです。庭のある住居ならそこにイスとテーブルを出して、そこで太陽と共にゆっくりと時間を過ごします。都会のマンションにも建物の裏には庭がついています。外に出るのが面倒なら、バルコニーで同じように過ごします。
労働時間は、多くは8時から4時半まで。店舗も8時で終わりなら、仕事を終えて太陽と一緒に飲食を、スポーツ好きならアウトドアスポーツが楽しめます。
そのようにサマータイムを満喫してきたドイツ人が廃止に賛成したとは。「ドイツはサマータイムを廃止にするんだってね?」と日本の知人に聞かれると、僕は決まって「ぎりぎりになったら、廃止を廃止するんじゃないのかな」と答えてきました。
しかし、最近のコロナ禍への対応などを見ていると、そうとも思えなくなってきました。国のコロナ対策を、それがたとえ不利益になることでも国民は簡単に受け入れています。しかも、科学的な根拠を示さなくても「思い込ませればドイツ国民は信じ込む」ということがわかってきましたから。さあ、本当にサマータイムは今年で終わってしまうのでしょうか。10月になったらわかることですが。
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