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ドイツがん患者REPORT 81 1回目のワクチン接種を終えて
5月27日の木曜日、コロナワクチンの1回目の接種を受けました。
2日前の25日の昼、ホームドクターからワクチン接種の連絡がありましたが、指定日までたった2日しかありません。僕は時間だけはいっぱいあるので問題はありません。仕事がある人はどうかと思いましたが、優先的に摂取を希望する人なら、それは大きな問題ではないかもしれませんね。
普段は、ホームドクターからの連絡は常時留守電にしている固定電話に入るのですが、その日はなぜか携帯にかかってきました。登録されていない番号で、確認したら近所からだったので、気になって出てみたらホームドクターからだったのです。娘がワクチン接種申請の手続きをしてくれたとき、連絡先を携帯番号にしたのだと思います。
僕は携帯に登録されていない番号の着信があっても出ないし、折り返しの電話もしないから、せっかくのチャンスを危うく逃してしまうところでした。
ドイツの会社のワクチン完成に大喜び
「ファイザーとドイツのビオンテックがコロナワクチンの開発に成功しました。製造も始まるので、もう少しの我慢です。これは世界を救う快挙。しかもトルコ移民が設立したドイツの会社の偉業だ!」
保険相シュバーンの言葉が、そう言っているように僕には聞こえました。去年、感染防止のためのさまざまな制約の生活にストレスを感じているなかで、それを政治利用して社会を扇動するような動きがドイツにもありました。アメリカのように目立った対立はなくても、長期化すれば移民への風当たりが強くなる心配がありました。だからなおさらトルコ移民を強調したのかもしれません。
ワクチン完成の朗報は、去年のクリスマス前からの規制が長期化するなか、徐々に感染者が減って規制緩和になるかと思っていた頃でした。しかし、それが原因ではないと思いますが、また感染者が増加に転じて規制は再延長となってしまいました。
誰だって「早くこういう生活から抜け出したい」と思っているなかで、先が見えると「このくらいはいいだろう」なんて都合よく思いがちで、本当に感染予防は難しいものだと思います。
僕の場合はがん治療の後遺症がずっと続いて先が見えなくても、それでも「もうちょっとの我慢」と思い込むようにしていました。そうでもないと、息をするのも嫌になるときがあります。
早かった妻のワクチン接種
ワクチン接種の順番は、医療従事者や介護従事者、次いでリスクの高い高齢者や持病を持つ人、そして一般人となっています。僕の家内は早期年金受給者になってからパートで高齢者介護の仕事をしているので、接種会場でワクチン接種を2月の下旬に1回目、3週間後に2回目をすでに受けています。
高齢者の介護施設ではクラスターを起こしやすいので優先的接種は当然ですが、家内はそのことを幸運だとは思ってはいないようで、どちらかというと迷惑そうでした。ワクチンに対する拒絶感があり、仕方なしにという感じでした。
もし、僕が家内の立場なら、「こんなに早く接種を受けられてラッキーだ。介護の仕事をしている責任と安全を考えれば当然だけど、それでも優先的に接種したことでのアドバンスは大きい」と考えるのですが。
「自分が、介護施設で感染させたら」という考えは持ってはいないようです。もちろん感染症は他人から感染するのですが、他人にも感染させる可能性はあまり考えないようです。彼女が特別というのではなく、ドイツでは彼女のような考えが一般的なのかな、と思います。
ワクチン接種の申請をするも……
ちょうど帰宅していた息子が手伝ってくれて、僕も2月の終わりにはワクチン接種の申請をしました。家内が僕の申請を試みたのですが、ネット申請だったのでうまくいかなかったので。家内は僕と同様にネットは苦手で、彼女の申請は介護施設でしてもらっていました。
息子もアレルギーと喘息の持病を持っていて、コロナに罹患すると重症化の危険性がかなり高いので、早いほうが良いと考えて一緒に申請しました。
しかし、家内は息子のアレルギーを心配してワクチン接種に反対でした。アナフィラキシーショックとコロナ感染での重症化を比べれば、息子にはワクチンを接種しない理由がありえないのですが。
申請以降、1日1回はメールをチェックしていたのですが、なしのつぶてです。4月に入って申請方法が増えたので、娘がホームドクターに申請してくれました。ホームドクターなら僕の今までの病歴を全部把握しているので、優先的にワクチン接種をしてくれることを期待して。
高齢者やリスクの高い人の接種が始まり、僕の順番が早く来ないかなあと思う反面、僕よりも必要としている人がいるのならそちらを優先してほしいとも思っていました。それは、がんになって以来、僕よりも生きることに執着していた人、もっと必要とされる人が亡くなるのをたくさん見てきたからです。
僕は免疫力も体力も弱いから、高リスクです。しかし、病気にならないように気をつけていて、この10年あまり風邪すら引いたことがありません。もちろん、注意して生活していることもありますが、感染しないコツというのが身についているのだと思えるし、幸運でもあるのだと思います。
僕はがんになる前は、まったくの医者いらずでした。肉体労働で危険な仕事も多かったのでケガは日常茶飯事ですが、冬場に零下の屋外で働いていても風邪すらめったに引きません。だから今自分が免疫力がないと思っているだけで、本当はもう常人以上に免疫が強くてコロナにかかりにくくなっているのかも……、だから「優先するべき人を優先して」とも思うのです。
いまだに高齢者に呼び掛けているワクチン接種
と、ここまで書いてきて「あっ、危ない、危ない」と気がつきました。こういう非科学的な思考が「自己責任で」という考えになり、感染を蔓延させている大きな原因となっていることを忘れてしまってますね。僕だってウィルスのキャリアにはなるし、子供たちを始め身近な人から感染することだってあるのですから。僕がワクチン接種すれば、少なくとも子供たちは安心します。
今ドイツでは、リスクの高い高齢者にワクチン接種を進めようとメディア総動員で宣伝していますが、それでもなかなか進まないようです。ワクチン確保の問題もあるとは思いますが、今でもワクチン接種を高齢者に呼び掛けています。そんななか、ちょっと不正をしてでも少しでも早く接種する人もいるようです。
本当に、コロナは発症する人としない人がいるというのは厄介ですよね。子供から親へ、親から職場へと感染させていってもわからないし、毎日検査をするわけにもいかないですから。
ホームドクター制度の強み
ホームドクターでの接種は良い方法だと思います。ホームドクターはその患者の病歴やデータを持っているから、受ける側は安心しやすいはずです。僕のようにリスクの高い者は優先してくれますし、その裁量はホームドクターにあり、それが一番確実な方法だと思えます。
日本人の僕には、ドイツのホームドクター制度は、普段は不満に感じるところがあります。専門医に行くときも、まずホームドクターの紹介状が必要ですし、病院は緊急時の医療や手術のためにあるのであって、風邪や体調不良くらいでは診てくれません。患者にとって決して安楽なシステムではないし、不便を感じる部分も多いです。
しかし、今回の戦時のような非常事態には、病院等の医療キャパを国が指示して調整できるし、ワクチン接種のときには、ホームドクターが活躍できます。
ホームドクターを持たない人は、まずドイツにはいません。ドイツに来たばかりだったり、引っ越してきた人はまだ持っていないかもしれませんが、学校や職場で病欠をするときはホームドクターの診断書が必要で、ドイツで生活するにはすぐ必要になります。
ホームドクターでの接種はあっという間
「27日の午前10時に来てください」と言われて、9時50分に歩いて家を出て、5分前にはホームドクターに着きました。4階建て、築70年は経っている普通の住居の1階にあります。
普段通りに建物の玄関を入ると、診療所の扉の前に大きな張り紙があり、指示された通り呼び鈴を押して待機。順番が来るまで外で待つようにと言われて、待つこと10分。診療所への入室許可が下りました。入って真正面の検査・処置室で接種を受けるようになっていました。化学治療時に数回アナフィラキシーショックを起こしたことを念のため医師に話しておきました。
「まあ、大丈夫だと思うよ。アナフィラキシーショックが出るとしたらすぐに出るから、心配はいらないよ」と医師が言い、すぐに接種です。コロナワクチンは筋肉注射と聞いていましたが、これまで記憶に残る筋肉注射は、2回目の化学治療時の「強力下痢止め」。痛みに鈍感な僕でも相当な痛さで、二の腕にブスっと直角に刺されて骨に当たる痛みが忘れられません。
当時の僕は、副作用のひどい下痢に悩まされていたのですが、化学治療の点滴を受けているときは下痢がさらにひどくなり、5時間の点滴での治療中、4時間はトイレにこもっている有様でしたから、その筋肉注射は痛くても必須でした。
コロナワクチンの筋肉注射は無造作に肩に打たれ、あっという間で痛みもありませんでした。あまりにあっけなくて、「これで終わりですか?」と聞いてしまったほどです。その後、待合室で10分間待機。待合室は小さくて、人数規制で2人以上は待機できません。だから、10分間隔でしかここの診療所では接種はできないようです。アナフィラキシーショックが出る場合は、接種後10分以内で出る場合が多いから、10分間の待機をしてもらうとのことでした。
帰るときに、予防接種手帳をもらいました。一応は、国際的に通用します。生涯を通じてこの手帳は有効です。(つづく)
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