腫瘍内科医のひとりごと 78 「新薬の治験を受けたい」

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2017年6月
更新:2017年6月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

Bさん(52歳男性)は、会社の大きなプロジェクトの責任者を任され、自分でも人生、命を懸けた仕事として頑張ってきました。

しかし、2年前大腸がんで手術を受け、その後両肺に転移が出現し、その手術は困難で化学療法を行うことになりました。

がんによる症状はないのですが、化学療法(点滴)治療後の3日間ほどは嘔気(おうき)、食事の摂取困難などで出勤も厳しい状況でした。そのため点滴治療は3回で中止となり、S内服の治療となりました。

ところが、それも気分不快、嘔気が続き、治療の継続は出来ませんでした。さらにR内服薬に変えても同様な症状が続き中止となり、その後、がんのマーカーが上昇。CTでは転移したがんはさらに大きくなってきました。

Bさんは、抗がん薬治療しなければ体調はよく、がんをなんとか抑えたい、仕事はなんとしてもやり遂げたいとの葛藤の中で、新薬の新聞報道をみて相談に来られました。

「治験」を理解することから

「私には、何か新しい薬の治験は無理でしょうか?」とBさんから質問されました。

現在全く症状はなく、肝・腎機能など採血のデータでもとくに問題はありませんでした。

しかし、まずは治験についてBさんに理解していただかないといけないと思いました。Bさんは新しい治験薬での効果を期待しているのですが、しかし、治験を受けるかどうかの判断にはBさんがそのリスクを十分理解し、納得していなければならないのです。

新薬の開発では、どうしても人間の「生体実験」を経なければならないという現状があります。それが治験です。

治験には第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相試験があります。

第Ⅰ相試験は、どの位の新薬の量に耐えられるのか、そして体内動態(投与後、薬剤の血中の濃度はどう変化するか)をみる試験です。人に対して、効果も毒性も適量もわからない状態での試験ですから、むしろ毒性をみる試験なのです。

第Ⅱ相試験は、第Ⅰ相での副作用などから適量と思われる量が決まり、その量においてどのがんに有効かを検討し、また安全性を確認します。第Ⅱ相である程度以上の効果がでなければ試験は終了し、抗がん薬として日の目を見ません。

第Ⅱ相である程度効果が認められ、安全性も確認できた段階で、第Ⅲ相試験となります。これは、この新薬群とこれまでの標準治療群との比較です。患者さんがどちらの群にあてられるかわかりません。このような治験は薬剤の費用、検査費用等はすべて製薬会社が負担します。

勧められた治験への参加、不参加は自由で、けっして強要されることのないように決められています。結果として人体に影響が少なく、治療効果が確認されれば実用化(市販)されます。

このように効くかどうかわからない新薬の試験は、しっかり説明を受け、患者本人に十分納得いただく必要があります。

今回は、Bさんの気持ちが「仕事を続けながら、効果のある治療を受けたい」ということでした。

これまでBさんは標準治療が副作用のため十分行われていないことから、担当医に副作用に耐えられる工夫(抗がん薬の減量、投与期間の工夫等)をしていただいて治療を行うことを勧め、担当医にはその旨を返事に書きました。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!